幼女キラーの新井さん

「す、すみません!! 申し訳ありません」


俺が今抱っこしている幼女様をお姉ちゃんと呼んだのはすぐ後ろに幼女様よりさらに幼い幼女様を抱いた母親の姿が見えたから。


その美人なお母様のDNAをしっかりと受け継いでいるのは非常に感心だ。


姉幼女様は5歳くらい。妹幼女様は2、3歳といったところだろうか。


どこかへ遠出しようしている最中なのだろうか、その母親は茶色の大きなカバンを持ち、妹幼女を抱え直しながら俺に何度も頭を下げる。



「ご迷惑を掛けて本当に申し訳ありません!」


「なあに。気にしないでくだされ」


母親は顔を真っ赤にして何度も何度も謝ってきたが、俺としてその代わりに幼女様の柔らかいお尻を十分に堪能出来ているので何ら問題はない。


1万円を出して、9800円くらいの釣りがきているようなものだ。




うん。よく分からない。



「夫が大の野球好きでビクトリーズファンでして、この子は中でも、新井さんの大ファンなんです」


母親はそう言って、幼女様は少し照れながら頷く。


「そうなんだ。君は俺のファンなのかい?」



「うん。だいすきー。すごくヒットうつからー」



「お名前はなんていうのかな?」


「みうー!」


「それじゃあ、みうちゃん。大きくなったらお兄ちゃんと結婚しようね」


「うん! けっこんするー!」








「みうちゃんは3人でお出かけかい?」


俺は抱っこしつつ、体をゆらゆらと揺らすようにしながら幼女様にそう聞いてみた。


「………うーんとねえ……」


しかしみうちゃんは線路の方に視線をずらすようにしながら少し考え込んだ。


するとそれを見た母親が口を開く。


「今日は東京に単身赴任しているお父さんに皆で会いに行くんです」


「ああ、そうなんですか」


小さい娘さんが2人いるのに単身赴任とは大変だ。


お母さんの苦労もなかなかのものだろう。


「間もなく、2番ホームに東京行きの………」


おっ。ようやく新幹線が来たようだ。


換算とした宇都宮駅の新幹線ホームにアナウンスが響く。


それを聞いた俺は幼女様の母親に1つ提案してみた。


「もしお邪魔でなかったら、上野駅までご一緒してもいいですか?」



このまま別れるのは惜しい。こんな愛くるしい幼女様を抱っこして、柔らかいお尻を堪能出来るなんて出来ないからね。


やんわり断られたり、嫌な顔をされたり、幼女様を取り上げられたり、最悪駅員を呼ばれたりするのではないかと内心ビクビクしていた。


しかし母親は……。



「よろしいんですか? 娘は喜びますが、新井さんはチームの方達と一緒にいなければいけないんじゃ………」



「全然平気っすよ! おーい、浜出くーん!」


俺は少し離れた位置にいるチームメイトの集団。俺が放置している荷物に1番近い場所にいた彼に声を掛けた。


「悪いけどー、俺の荷物も一緒に持っといてくれー!」



「ういーっす!!」







何度もアナウンスが響き、周りにいる人達は自然と仙台・郡山方面を見る。



白と緑色。鼻の丸い新幹線がヒュイーンと少しずつ減速しながらホームに滑り込んできた。


俺は持ち前の動体視力で通りすぎていく車両の空き具合を次々にスキャンしていく。


「3両目の後ろ辺りが空いてましたね。トイレに近い席の方がいいですよね」


「え、ええ。そうですね。よく前の方が見えましたね」



「まあ、そういう商売なんで」



5歳と3歳の女の子がいるのだ。上野駅までは1時間と20分くらいだが、いつ催してしまうか分からない。俺と一緒にいるのが嬉しくて、興奮してしまってついついなんてこともある。


その時の為に、出来るだけトイレに近い座席の方がいいだろうからね。


4割打者になるとそこまで気を回しますよ。



プシューとドアが開き、みうちゃんを抱っこしたまま車両に乗り込み、1番後ろの3人掛けの座席に腰を下ろす。


窓際にお母さんと妹幼女さん。真ん中にみうちゃん。通路側に俺。それぞれ腰を下ろした。


間もなく新幹線はゆっくりと動き始め東京方面へと走り出していく。するとみうちゃんが………。


「お兄ちゃんの絵、かいてあげるー!」


そう言ってビクトリーズカラーのピンク色のリュックから落書き帳と布製の筆箱を取り出した。






「おにいちゃん、なにいろがすきー?」


「うーん……。やっぱり金色かな。お金持ちになりたいから」


「わかったー。きんいろだねー」


みうちゃんの筆箱には色鉛筆が何十本もたくさん詰まっている。赤だの青だの緑だのは使い込まれていてすっかり短くなっていたりする。




その中から選別された色鉛筆の何本かを取り出して、みうちゃんはお絵かきを始める。


「おにいちゃんのおかおかくから、うごかないでねー」


「オッケー」


そう言われたら、ふざけないわけにはいかないので、みうちゃんが俺の顔をチラッと見る度に、種類の違う変顔をするという小ボケで幼女心をくすぐる俺。



「……ちょっとー」


「……おにいちゃんてばー」


「……ちゃんとしてよー!」


などと、幼女様のお叱りボイスが聞けて俺は大満足。



しかし、20分もすると似顔絵が出来上がってしまったようでみうちゃんが落書き帳を俺に手渡す。



まあ、どんなに下手っぴでもちゃんと褒めてあげよう。そう思いながら落書き帳を手にしてみると………。








う、上手い……。



ちょっと丸めな輪郭。耳元が短めのツンツン頭。若干つぶらで目尻の下がった、にっこりとした目。少し丸くふっくらとした頬に薄い上唇。


まさしく俺がもう1人、落書き帳の中にいたのだ。



5歳の女の子が描いた似顔絵とは思えない。

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