カレーのアミちゃん。2
「うめー!!」
「そうでしょう、そうでしょう! アミちゃん特製ですからね!」
1口食べると、そこはもう別世界。
正直なところ、いくらカレーにうるさいという人が作ったとはいえ、栃木の片田舎のJDが作ったオリジナルインドカレーと言われましてもねえ………。そこそこ食える味ならば、ベタ誉めしてあげようなんて考えていたのだが………。
そんな舐めきった考えは大間違いだと思い知らされた。
ひき肉たっぷりのスパイス感じる本格的な深みのある味に、揚げたポテトとじっくり煮込まれたチキンがゴロゴロッと入っていて食べごたえもある。
一緒にプレートオンしている歯ごたえのナンをちぎって、カレーを包み上げるようにして豪快に頂く。
これまた美味い。
ナンの中でとろけている濃厚なチーズが辛味の強いカレーと非常にマッチする。
それでいてカレーの辛さやスパイシー、その奥にある深みのあるがさらにカレーを食べる手を進めさせる。
150キロのストレートと低めいっぱいに決まるカーブのような取り合わせだ。
「新井さん、やはりアミちゃんカレーは美味しいですね! ……もぐもぐ」
横ではポニテちゃんも、時折アイスティーを口に含みながら。テーブルに置かれたスパイスの入ったビンを振ってさらに辛さを足しながら大口で頬張っている。
「ふーっ、食った、食った!」
「食べましたねー!」
思っていたよりはるかに美味しかったし、さらにお金を出して2人前も食べてしまった。
「新井さん、はじめまして!アミです!カレーはお口に合いましたか?」
ポニテちゃんと一緒に、パイプ椅子の背もたれに体を預けてぽっこりお腹を擦っていると、カレー少女、スパイシーアミちゃんが声を掛けてきた。
ブラウスにエプロン姿で、なんだか少し恥ずかしそうにして俺の前に立っている。
「おお! アミちゃんのカレー美味しかったよ!アーミ! アーミ! アーミ! アーミ!」
「それはもういいです」
せっかくニコニコしながら話しかけてくれたのに、それを台無しにして初対面の女の子に冷たい視線を頂くスタイル。
止められないぜ。
「新井さん、おかわりまでして頂いてありがとうございました。おかげでちょうど完売です!」
「マジで! おめでとう! 本当に美味いカレーだったよ。お店開けるんじゃない?正直こんなにレベルが高いとは思わなかったよ。さすがはアミちゃん。いい仕事やりまんなあ」
俺がそう若干のお世辞混じりで誉めてみると、彼女なんだか希望に満ちたようなそんな表情になった。
「またまた新井さんたら、そんなことを言って。本当にさやかが教えてくれた通りの方ですね」
健康的な小麦色に、白い八重歯がキラリと光った。
「でも、本当にそう思いますか!?」
「え?」
アミちゃんは立ったまま、テーブルから身を乗り出すようにして、俺に迫る。
「私のカレーでお店が出せる………。本当にそう思います!?」
「………ああ。出せるんじゃない? もし、近所にあったら、週に3回くらい食いたいレベルではあったよ。最初は女子大生が作ったカレーなんてと思ってたけど。………1杯1000円と言われても頷ける味だったね」
「本当ですか!? そんなに美味しかったですか!?」
「美味かった、美味かった! あんまりこういう本格的なカレーは食ったことないけど、今まで1番美味い本格カレーだよ!こんなにイケメンの野球選手が言ってるんだから、自信を持ちたまえ! アミちゃんカレーはすごい!」
俺はグラスの冷たいお水を飲み干しながらそう誉め称えると、アミちゃんは何かを心に決めたようにキリッとした表情になった。
「分かりました!!私、決めます!」
分かりました! 私、決めます!
そう言ってアミちゃんは力強く拳を握った。
一体何を決めたのかは分からなかった。
まあでも多分、俺への告白だろうけど。
「お知らせでーす! ただいま、正門前のイベントスペースでストラックアウト大会を開催中でーす!景品もまだありまーす! 一般の方も参加出来ますので、是非ともお越し下さーい!」
「新井さん! 聞きましたか!? 向こうでゲーム大会が始まるみたいですよ! みんなで参加しましょう!」
学園祭実行委員と書かれた腕章を着けた女の子が、宣伝プラカードを持ってカレー屋台を通り過ぎていった。
するともうポニテちゃんが俺の腕をぎゅっと握りしめていた。
「新井さん。さあ、早く行きますよ!」
「もうカレーも完売しましたし、私もお供しますよ!」
「ちょっと、ユニフォーム姿でうろつくのは恥ずかしいのに!」
「今さら何を言ってるんですから、イケメン野球選手ですから大丈夫ですよ!さあ、行きますよ!」
ポニテちゃんがそう言うと、アミちゃんもうんうんと頷く。
ポニテちゃんがガターンと勢いよく椅子から立ち上がり、アミちゃんも飛び散ったカレーで少し汚れたエプロンを外す。
そして俺も2人に着いていくようにしてイベントスペースへ。
そこではここぞとばかりに若い連中がいいところを見せようと人だかりの真ん中で盛り上がっているのが見えた。
「お、ストラックアウトか。随分と盛り上がってるな」
「そうですね。あ!見て下さい2人共!あと1枚で全抜きですよ!」
「ほんとだねー」
人だかりの隙間を縫うように、花壇の縁に立って少し背伸びをすると、ストラックアウトのストライクゾーンを表す枠。
9分割されたパネルは7番のあと1枚だけ。
しかし、プレイ中の若い男が持つボールもあと1球だけだ。
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