ポニテちゃんをしっかり見てる新井さん

とまあ、今さら俺と阿久津さんがなんとか点に結びつけたからといって10点差の試合をひっくり返すこと到底不可能。


5番シェパードの犠牲フライでもう1点を返すも、最後は桃ちゃんが空振り三振に倒れ、反撃もここまでとなりゲームセット。


4位東北相手に、2ー10で気持ちよく敗戦し、引き分けを挟んで継続していた今シーズン最長の連勝は5でストップしてしまった。


この大敗を翌日も引きずってしまったのか、逆転3位を目指す東北レッドイーグルスの気迫に押されてしまったのか、要所要所で手痛い1打を食らい続けてしまい、連日の2桁10失点でホームに戻っての連敗を喫したその翌日。



木曜日のこの日は朝から大雨で、移動日のこの日は影響ないから大丈夫かあと思っていたら、2日間もヘビーレインは続き、金曜日の埼玉戦が中止になってしまったその夜。



今日は先日、純血のまま26歳になってしまったギャル美のお誕生会。


みのりんとポニテちゃんが協力して腕を奮ってギャル美の好きなごちそうを作り、お酒とケーキは俺が、この前よりもさらにいい値段の物を用意させてもらった。


ディスカウントショップで売っていたキラキラの帽子をみんなで被ってお出迎えし、ギャル美に誕生日プレゼントを渡したのだ。








「はい、マイさん!私からのお誕生日プレゼントです!」


ハムとチーズに、辛みの効いたマヨネーズソースが決めてのサンドイッチを頬張りながら、ポニテちゃんがぶるんと胸元を揺らしてリボンが纏っている可愛らしい箱を取り出した。


「最近、マイさんは肩凝りに悩まされていると言っていたので、肩の電動マッサージ器を探してきました!」


「サンキュー! 職場に持っていってありがたく使わせてもらうわ」


ポニテちゃんのプレゼントは電動マッサージ器か。本当は、一体どこに当てて気持ちよくなるんですかねえ。


ヒェッヒェッヒェッヒェッヒェッ!




ピュアって時に恐ろしいですわ。



「マイちゃん、私からはお財布だよ」


「あら! この前出たばっかりのデザインじゃない! ありがとう、早速明日から使うわね」


「由緒ある神社のでお清めしてもらったから、金運効果もバッチリだよ!」


「もしかして、真岡にあるあの………?」


「そうだよ。昨日行ってきたんだ」



「ありがとう! 愛してるわ!」


みのりんがぐっと親指を立てながら眼鏡の奥でドヤッとした視線をギャル美に送った。


ギャル美は、今使用している財布を取り出し嬉しそうに早速中身を入れ換えている。



「ちょっと、あんた! 横からなにしてんのよ!」



ゴムを1枚こっそり入れようしただけなのに。


もう26なんだし、この先ナニがあるか分からないじゃないのさ。










「全く。他の女の子には絶好こういうことしないでよね! セクハラで訴えられるわよ!」


ギャル美の機嫌を損なってしまったので、俺もテーブルの下に隠していた誕生日プレゼントを仕方なく渡す。


俺にはなんて書いてあるか分からないが、若い女の子には知られたブランドのバッグだ。


それを受け取った彼女が、ブランドのマークが入った茶色の大きな包みを開ける。


中身のバッグを取り出すと口を丸くするようにしつ、おおー! と感涙するような声を上げた。



「これってもしかして、最近日本に入ってきたばかりの欧米デザインじゃないの!」


ギャル美は驚きの表情を俺の方へと向けた。俺はその表情と取り出したバッグにむぎゅっと押される柔らかそうな胸元をオカズに、グラスのシャンパンを飲み干す。


「詳しいね。駅ビルの最上階にあるショップで紹介してもらったんだぞ。大事にしろよな」



「みのり、あなたのとお揃いね! 一緒にお出かけしましょ!」



「うん!!」



ニッコリと微笑み合うみのりんとギャル美。



「…………もぐ」



そんな2人のやりとりを見ながら、今度はトマトとレタスのサンドイッチに手を伸ばしたのポニテちゃんの少し寂しげな表情を一瞬だけ浮かべたのを俺は見逃さなかった。







「あ! そうでした! 皆さんに私から渡したいものが!」


さらには、みのりんの手作りマルゲリータピザを頬張っていたテーブルの向かい側に座るポニテちゃん。


突然何かを思い出した様子でお股の辺りをごそごそし始めた。


「普通に自分のカバンです。…………よいしょっと。………これを皆さんに差し上げます!」


ポニテちゃんが差し出したのは3枚の紙切れのようなもの。


俺とみのりんとギャル美はそれぞれ1枚ずつ受け取った。


「あさっての日曜日に、私の通う大学の学園祭がありますので、それの招待状です! 私の学部でやるカレーセットのチケットも付けましたので、是非来て欲しいです!」



ポニテちゃんが通う大学の学園祭。


不馴れなパソコンで作った赤と黒のボーダーデザインの怪しい色合いに、色鉛筆とマーカーで手作り感満載のペラッペラの食券。


カレーマニアが作ったから、とっても美味しいよ!


と書かれている。



「へー、日曜日か。みのりは行ける?」


ギャル美が招待状を眺めながらそう訊ねると、みのりんはこくりと頷いた。


「うん。もちろん行くよ。………新井くんは試合だよね……」



「だねー」



確かに日曜日はちょうどデーゲームで学園祭と時間は被ってしまうが……。



行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい。



絶対行きたい!



怪我したフリして、試合休もっかな。

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