ギャル美の相談に乗る新井さん
そんな調子で少しはイチャイチャとふざけ合いながら、閉店間際のあぶらやという揚げ物専門店で、透明のタッパーにこれでもかと詰め込まれて安売りされていたフライドチキンをパクパクと食べていたのだが、なんだかギャル美の様子がおかしい。
緩いTシャツの胸元から覗く柔らかそうな白い谷間は相変わらずなのだが。
体調が悪そうとかそういう感じではなく、俺とおしゃべりしながらも、たまに心ここにあらずというか。
何か別のことを考えているようなそんな感じ。
とりあえず、ちょっと表面がギッシュッになりつつあるフライドチキンを1本ずつ食べ終えたところで、少しテレビのボリュームを下げてそれとなく問いかけてみた。
「マイちゃん、何か考えごとかい?」
「え?………どうしてよ」
「いやあ。せっかく俺がこうしてきたのに、いつもよりテンション低いなあって思って……。もしかして、何か悩み事? お兄さんでよければ聞いてあげるぞ」
ちょっと冗談交じりというか。
ここに来て年上風を吹かして見たのだが。案外これがギャル美の心に届いたらしく、彼女の目元からぽろぽろと涙が溢れた。
そしてギャル美がフライドチキンを食べた脂っぽい口を開く。
「…………あのね。………この前仕事で………」
そこから20分か25分かそのくらいの時間。
ギャル美は涙ながらに、その悩みの種を俺に打ち明けた。イラストレーターという職業のお話なのでその全容を全て理解出来たわけではないが、簡単に説明すると、取引先との間で納期に関わるトラブルが起きてしまったらしい。
とある会社の新商品をPRするためのイメージイラストを請け負い、そのメイン担当をギャル美が受け持つことになった。
しかし納期が今月の26日とまだ余裕があり、新商品のサンプルを見て簡単にプロットをまとめただけで別の仕事に取り掛かっていたらしいのだが、昨日になって、その取引先からの電話が鳴った。
納期になっても頼んだイラストが送られてきていないがどうなっているのだと。
すぐにギャル美と上司は取引先の会社に赴いた。
形式上のお詫びはしながら、もちろん納期は26日だということを告げたが、取引先の男はそれを認めない。
会議で使用するという、ギャル美が作成した資料を突き付けながら、その男は納期は今日のはずだと罵倒するように主張。
多くの社員がデスクに向かう取引先のオフィスの一角で男は罵倒するように声を荒げた。
ギャル美とその上司はその男の怒りが収まるまで、この場は平謝りするしかない。
ギャル美の下げた頭の視線に入ったその資料には、イメージイラストの納期は19日となっているが、それはギャルが作成したものとはどこかが違っていたらしいのだ。
洗いざらい一通り話したことですっきりしたのか、喋り終わる頃には彼女は泣き止み、最後はウトウトして話を聞いていなかった俺にデコピンをしてくるくらいのテンションに回復した。
そうなると食欲も回復したみたいで、ローストビーフもフライドチキンもすぐに完食。でかめにかっとしたお誕生日ケーキをフォークでつついていた。
「あんたが話せって言ったんだから最後まで聞きなさいよ!」
「ごめん、ごめん」
「全くあんたってやつはバカねえ」
今はそう言って白い歯をみせながら、俺が買ってきたケーキを美味しそうに頬張っている。
「ねえ。あんたもシャワー浴びてきたら? 今から帰るの面倒でしょ? 泊まっていっていいから。朝になったら起こしてあげるから、みのりを迎えに行きなさい」
「ああ、マジで? でも、着替えとか全然持ってきてないんだよね」
俺がそう返すと、ギャル美は立ち上がって側の棚をごそごそ。
丸く太ったビニール袋を俺に手渡す。中にはボクサーパンツと白地のTシャツ。新品の歯ブラシも入っている。
俺はお礼を言った。
「あら、ずいぶんと準備がいいわねえ。マイちゃま。ありがとねえ」
「別にいいのよ。気にしないで」
「でもマイちゃん。1番大切な避妊具が入っていないわねえ」
「そんなのいらないでしょ。あたし今日は、大丈夫な日なのよ?」
「え?」
「え?」
「バカね。冗談よ。早く行きなさいっての。上がったらもう1本飲むわよ!」
「おう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます