浮気する新井さん
もはや俺の支配下といっていい、そんなビクトリーズファンの店員さんに、プレゼントにオススメのブツを用意してくれよと言ってみると、遠慮なくお店で1番高価なバッグを紹介されてしまった。
「この前、新井さんが購入されたメーカーのこちら欧米バージョンのデザインとなっておりまして………」
値札を見ると、軽く5万円を越えてきている代物だが、イキッた手前後には引けないし、ブラウスのボタンを外して、さりげなく胸元をチラチラとさせてくる感じなので、俺はしぶしぶ財布の紐を解いた。
まあ、普段から仲良くしてるギャル美へのプレゼントだからね。
多少は男気を見せないといけませんよ。
「ありがとうございましたー!」
俺が財布からカードを出した瞬間、きっちり胸元を閉じた彼女に見送られて俺はショップを出て、今度は駅ビルの下にある洋菓子屋さんでお誕生日ケーキを購入して家に帰り、みのりんと晩ごはんを済ませた。
そしてみのりんを仕事場まで送り届け、1度自分の部屋に戻り、ケーキやらなんやらを持ってギャル美の住むマンションへと向かった午後10時ちょうど。
するとこれが運命か。彼女のマンションに着いた時、ちょうど駐車場にギャル美の運転する車が入ってきた。
「よー、マイちゃん。こんばんみ!」
車から出て来たギャル美に声を掛けると、彼女は持っていたバッグを抱き締めるようにしてビクッと反応した。
辺りは真っ暗。駐車場内に点在する灯りや側に立つマンションの各部屋から漏れる光があるくらいで見通しは悪い。
そんな中でも、ちょっと顔をひきつらせながらビクンとさせてビックリした彼女の様子をしっかり捉えた俺の視力はなかなかのものだ。
「俺だよ、俺。やきう選手だよ」
「なんだ、あんたか。びっくりしたあ………。こんな時間にどうしたの?」
ギャル美をほっとした表情を見せる。車をロックして俺の側まで歩み寄ってきた。
少し離れた場所にある街灯と月明かりだけで、彼女の細かな部分を確認するには十分。やはりお仕事が忙しいみたいでお疲れな様子だ。
俺はそんなギャル美を少しでも癒そうと持ち前のイケメンフェイスから発せられるスマイルを披露しながら優しく話しかける。
「どうしたの? って、今日はマイちゃんの誕生日だろ? ケーキとチキンとシャンパン買ってきたぞ。家に上げろよ」
「何言ってんのよ。誕生日パーティーは今度の土曜日でいいって、みのりから聞かなかった?」
「おいおい。今日は俺とマイちゃんが出会って初めての誕生日だろ? せっかくの記念日なんだから、祝わせろよ」
「…………ふふっ。……バカじゃないの」
ギャル美がようやく笑ってくれた。
「お邪魔しまーす!」
まあ、そんな冗談で和ませたおかげで俺はギャル美の部屋に押し入ったわけだ。
とりあえず、持ってきたシャンパンとケーキを冷蔵庫にぶちこんで、さりげなくベッドの上に置かれたパジャマらしき衣類の匂いを嗅ぎながらクッションに腰を下ろした。
「シャワー浴びてくるから」
「オッケー、行ってら」
ギャル美は、キーをテーブルの上にじゃらんと置き、カバンを置き、上着をハンガーに掛けて、壁にくっついたパネルを操作した。
俺は適当に返事をしながらリモコンを握り、遠慮なくテレビを点けた。
午後10時過ぎのバラエティー番組を見てケラケラ笑っていると、案外早くギャル美がシャワーから戻ってきた。
そしてわざわざ俺の側に座ってドライヤーを使って髪の毛を乾かし始める。
ガーガーガーと、ドライヤーの音がうるさくてテレビの音が聞こえなくなりご機嫌斜めのボクチンにギャル美が、Tシャツに短パン姿で片膝を立てるような格好で話し掛ける。
「ねえ。………どうして今日来てくれたの?」
「いや、別に。深い意味はないけど。誕生日だったのに夜遅くまで仕事って聞いたからさ。……ただそれだけ」
「ふーん……。ほんとにそれだけ?」
「そうだよ……………。あ!でも、ゴメン。ゴムは忘れた」
「おい」
ギャル美が戻ってきたとなれば、チキンをレンジで温め直し、ローストビーフサラダにソースをかけて、ケーキも箱から出し、ローソクに火を点ける。
そして部屋の隅に転がっていたヘアアイロンをマイク代わりにして、俺は立ち上がり熱唱する。
「ハッピバースデー、トゥーユー! ハッピバースデー、トゥーユー! ハッピバースデー…………へっくしゅん! ………マイマイマイマイちゃーん!! ハッピバースデー、トゥーユー!!」
「変なところでくしゃみしないで」
とかなんとかツッコミを入れつつも、ギャル美は少し照れくさそうにしながら、ケーキに立てた5本のロウソクの火を吹き消した。
その彼女の吐息が俺の元まで届く。マウスウォッシュ的なそんな匂いがする。
興奮するぜ。
「さあ、ほらほら。駅前で買ってきたやつだけど、チキンとロスビサラダもあるからどんどん食べて。お腹すいてるだろ?………ほら、シャンパンもあるから飲んで、飲んで。…………ふんっ!」
俺はおっかなびっくりになりながら恐る恐るシャンパンのコルクを抜く。
すると………。
ポンッ!
コン!
コン!
むにゅ。
「あれ?コルクはどこ行った?」
「見事、私の胸に挟まったわ」
「なるほど。手入れて取っていい?」
「おい」
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