あきらめないビクトリーズ
そして木曜日の3戦目。
スカイスターズ相手にカード3連勝を賭けてマウンドに上がるうちの先発は今季4勝を挙げている若手の千林。
昨年、新球団トレードで心機一転の思いでやってきた24歳右のオーソドックスなオーバーハンドのピッチャーだ。
MAX150キロのストレートにスライダー、スプリットを持ち球にしている。コントロールもまあまあで若いからスタミナもそこそこ。しかし、まだまだ1軍での試合経験が足りない印象。
調子がよければ完投を目指せるピッチング。悪ければ序盤でKO必至。
前の所属チームから放出されてしまった理由も、安定して試合を作れない。投げてみないと分からないというところが千林君の欠点であった。
調子の浮き沈みが激しい彼に今日は連勝中であるチームの命運をこの右腕に託したが………今日は後者の方だったようだ。
1回ウラ。スカイスターズ先頭の平柳君を歩かせると、このカードヒットのなかった2番佐藤に高めのストレートを叩かれ、レフトスタンド中段に先制2ランを被弾。
さらに2回には、ランナーを2人置いて相手先発ピッチャーに、意表を突くバスターで内野の間を抜かれる手痛いタイムリー。さらにはトップに返って平柳君にもタイムリーを浴びるなど、2回は4失点。
相手の走塁ミスに助けられて、なんとかチェンジに漕ぎ着けベンチに戻った彼に吉野ピッチングコーチが交代を告げた。
先発の役割を果たせずに千林は2回6失点で無念の降板となってしまった。
5回を終えて0ー6。
うちの先発だった千村に代わったピッチャーが踏ん張り追加点は許さないものの、うちの打線も相手の左ピッチャーからなかなか得点が奪えない。
それでも6回表。
先頭の守谷ちゃんが叩きつける打球の内野安打で出塁すると、9番ピッチャーのところで代打の浜出君が粘ってフォアボールで1、2塁。
1番の柴ちゃんが果敢にフルスイングも打ち損じ。
しかしその打球はファーストへのボテボテのゴロで結果送りバントの形に。
そして1アウトランナー2、3塁となって、俺に打順が回る。
ベンチからの指示は特にない。
打席に見渡し、観客席にバインバインの女の子はいないかなあと探してみながら、ついでに相手の守備体形も確認。
1塁側のスタンド。スカイスターズのベンチのちょうど真上にあたる辺りに、なかなかキレイなお姉ちゃんを見つけつつ、相手の内野陣は通常の守備体形だ。
前進守備ではない。
内野ゴロで1点あげても、確実に2アウト目は取ろうという守備側の思惑。
そんな譲歩案を俺が受け入れるとでも?
狙うはレフトスタンド。
そう意気込んでバットを構えたのだが………。
ピッチャーの投げたボールがアウトコース低めにワンバウンド。
キャッチャーがそれを後ろに逸らした。
バックネットに向かって勢いよく転がるボール。
マスクを外しながら立ち上がって、それを追いかけるキャッチャー。
ワンバウンドを投げてしまったピッチャーも、急いでマウンドから駆け降りてくるが、スタートのよかった3塁ランナーの守谷ちゃんが楽々ホームイン。
そんな形でビクトリーズにようやく1点が入った。
それほどひどい暴投ではなかった。ストレートを普通に叩きつけるようになってしまったワンバウンド。
球速も140キロくらいだし、後ろに逸らすようなボールではなかったが……。
キャッチャーが高めのボール球でも要求していたのだろうか。
ボールを拾ってこちらを向くキャッチャーはどこに投げているんだと言いたげに不満な顔。
ピッチャーもベースカバーに入りながら、帽子を取り、しまった! という表情をしている。
2打点チャンスを失った俺は、そんな2人の間で真顔である。
せっかくここまで0点に抑えてきたのに、ワイルドピッチという形で失点したのがショックだったのに次のボールはど真ん中。
そんな絶好球を真顔の俺は見事打ち損じる。
何故かバットを折られるが打球はセカンドへのボテボテゴロ。
俺が1塁でアウトになる間に、3塁ランナーの浜出君がホームイン。
2ー6となった。
2ー6で迎えた7回。
3連敗だけは許されないスカイスターズは4点リードで勝利の方程式を投入。
防御率1点代の右ピッチャーを惜しむことなく投入してきた。
対するはうちの4番赤ちゃん。打率.250、12本塁打の彼がそのセットアッパーの投げ込んだインコースボールを思い切り引っ張る。
ライトへのライン際きわどいところに飛んだ打球。
切れてファウルになるかというところだったが、ラインドライブがかかり、ギリギリフェアゾーンでボールは弾んだ。
ノーアウトランナー2塁となって、5番シェパード。打率.248、11本塁打。53打点。助っ人外国人としてもの足りない数字だ。
しかし今シーズンはあと15試合。
そろそろ来シーズンの契約のことも考えれば目を見張るような打棒を見せて欲しいところだ。
今の成績では正直厳しいからね。
シェパードは今年でプロキャリアがトータル11年目の30歳。
高校生ながら、イタリアのプロ野球リーグで活躍し、20歳の時にアメリカでマイナー契約。
25歳で3Aに上がるも、メジャーの舞台ではからっきし。
3Aなら3割20本打てるが、上に上がったら打率1割台。放ったホームランも5年間でたったの2本では、メジャーに定着することはできない。
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