日本に順応する助っ人マン
「インコース!打ちました! 1塁線へファウルボール!!」
大抵外国人選手というのは、日本野球を甘く見ていて、アメリカでいう3Aレベルだと思い込んでいる傾向は現代でもまだまだある。
このシェパードも、表向きはニコニコと愛想のいいイタリア人だが、ここならそれなりに活躍出来るだろうと鷹をくくったようなプレーの仕方を最初はしていた。
ストレートに対して大振り、変化球に対しても大振り。
チームプレーという意識は皆無で、自分のやりたいような「ベースボール」をやっていたわけだ。
しかし、日本でやっているのは野球である。
「高めストレート! これもレフト線切れていきます、ファウル!次が8球目になります」
5月を終わった時点で打率.221、5本塁打。16打点。
期待外れな成績だった。1億円の助っ人としては、正直クビレベル。
その後くらいに、監督に言われたのか、コーチに言われたのか、ネットで叩かれまくったのか分からないが、そこからシェパードは少しずつ変わり始めた。
今までのように何がなんでもホームラン狙いのフルスイングではなく、確実性を重視したコンパクトなスイングに。追い込まれたりしたらなおさら。
時折、進塁打にしようするゴロを打ったり、バントするフリをしてみたり、シーズンが進むに連れて、彼の中で何か変わったようだ。
とはいえ、それでも助っ人としては物足りない数字だが、それまで多かった三振やポップフライが減り、フォアボールが増えた。無駄に終わるような打席が減ってきた印象。
そしてチャンスで勝負強い打撃をするようになり、得点圏打率は.320となかなかの数字。犠牲フライの数はリーグ2位の9本と5番打者としてそれなりの仕事をするようになった。
「アウトコース低め変化球! ………おおっ、これもファウルにします。バッターのシェパード。ワンバウンドしそうなボールになんとか食らいついてバットの先に辛うじて当てました」
このように、追い込まれてもファウルで粘るシーンも増えた。初めの頃なんて変化球を見たことないんかってくらいにクルックルでしたから。
そして10球目。
ガキィ!
……ボテボテ……。
インコースのボールにバットは真っ二つ。
しかし打球はファーストの目の前へ弱々しく転がる。
ファーストはベースを踏みながらその打球を捕るだけ。
2塁ランナーの赤ちゃんは3塁へと進塁した。
ナイス進塁打。
折れたバットの片割れと片割れを両方持って戻ってきたシェパードにみんなハイタッチをしにいった。
追い込まれても、粘って粘って、三振せずに1アウト3塁を作る。
意味のある1アウトだ。
続く6番桃ちゃんがこちらは気持ちよくカツーンとアッパースイング。
打球は捉えたともそうでもないというなんとも言えない感じだが、とりあえずはセンターのほぼ定位置まで飛び、捕球すると3塁ランナーの赤ちゃんがタッチアップ。
センターからいい送球が返ってきたが、タッチまでは至らず。
赤ちゃんがホームに豪快なスライディングを見せて、砂ぼこりを巻き上げながらホームイン。
これで3点差。
鶴石さんは一発狙いのスイング3回スカッて三振になりチェンジ。
もしかしたらいけるかもという雰囲気になりかけた7回ウラスカイスターズの攻撃。
下位打線からの攻撃も1アウトから8番、代打の9番に連打され、1アウト1、2塁。
バッターは1番平柳君。
追加点を許せば即終了しそうな場面に、ベテラン左腕の奥田さん登場。
しかし、初球にど真ん中へ抜けたスライダーを投げてしまう。
平柳君はこれを見逃さずにジャストミートするが、これがセカンド正面のライナー。超ラッキー。
快音が響いて思わず飛び出してしまった2塁ランナーが必死に戻ろうとするも、打球をキャッチした守谷ちゃんが1歩2歩3歩でセカンドキャンバスを踏んでダブルプレー。
3ー6。3点差は変わらずで8回表の攻撃に移る。
「8番、セカンド、守谷」
今日はまだノーヒット。打率も2割2分台まで落ち込んでしまった守谷ちゃんが打席に入る。
相手ピッチャーは今シーズン既に40Hをマークしている外国人ピッチャー。
そんなピッチャーが相手とはいえ、なんとか食らいついて、フォアボールでもエラーでも何でもいいから出塁してもらいたい。
フゥーと息を吐きながら、マウンド上の助っ人マンは、ガバァと大きく振りかぶり、2メートル近い身長から投げ下ろすように、角度のある直球を投げ込む。
その直球の2球目を守谷ちゃんは打ちにいく。
コツンと当たったボールはワンバウンドでピッチャーの足元へ。それほどいい当たりではない平凡なピーゴロ。
しかし、投げ終わった後、そのまま1塁側に体が流れっぱなしの外国人ピッチャー。
右足の方向に飛んだ打球に対して体を捻りながらの難しい体勢で無理に取りにいき、これを弾く。
打球が3塁ベースの方向へポロリと落ちる。
サードがそのボールを拾いにいく間に守谷ちゃんは1塁キャンバスを駆け抜けた。
エッチなランプが妖しく灯る。
「んー、微妙な打球でしたが、これを弾いて内野安打にしてしまいました」
「捕れないなら、触らなくてよかったですね。ショートの平柳選手がバックアップしていましたから」
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