おケツを狙われる新井さん

試合は5ー0のまま、5回表。今日既に2安打の柴ちゃんがこの3打席目は三振に倒れて1アウトで俺の打席。


1ボール1ストライクからの3球目を叩く。


打球はピッチャーグラブを弾いてセカンドの前にコロコロ。セカンドとピッチャーのちょうど真ん中時間が掛かるところ。


1塁へ一生懸命走る俺。


セカンドが前進してきて右手でボールを掴みそのままランニングスロー。


タイミングはきわどい。しかし、ベースを踏む瞬間、ファーストがジャンプしてボールがそのまま後ろに逸れたのが見えた。



1塁ベースを走り抜けて、2塁へ向かおうとしながら、後ろをチラ見。


キャッチャーがカバーにきていたが、セカンドからの送球はライト側に逸れてフェンスの前をキャッチャーから逃げるように転がっている。


これは行けると確信して2塁ベースに滑り込むと、俺の可愛いおケツにボールがぶち当たった。






「おっと、キャッチャーからの送球がバッターランナーの新井に当たってしまいました。記録はピッチャーへの内野安打とセカンドの悪送球。1アウトランナー2塁となります。キャッチャーが上手くカバーしましたが、新井と重なってしまいました」



「いやー、送球がきっちりいっていればアウトだったと思いますが……痛いですねー」



おケツが痛いです。







あー、いてえなあ。


相手のキャッチャーさんは何処を狙ってくれてんのよ。俺の可愛いおケツにぶち当てるだなんて。


1塁コーチおじさんは、別にだいじょぶだろ! みたいな顔をして心配する気配も見せない。


2塁ベース上に両足で立ってボールが当たった部分を擦っていると、相手のショートの子が近寄ってきた。


「ういっす。またヒットじゃないすかー」


スカイスターズの看板選手である平柳裕太だ。


打率.351、18本塁打。30盗塁。高卒5年目で年俸1億6000万。日本代表にも選ばれている若きスーパースターだ。


身長も183センチある。170の俺からすればだいぶデカイ。さらにイケメン。



その彼が俺の手を払いのけて俺の可愛いおケツをさわさわと撫でてくる。


まだみのりんにも触らせてないのに!



「ビクトリーズ強いっすよー」


平柳君は、もう困った! みたいな口調でそう言った。それは平柳君だけでなく、今日のスカイスターズ側皆さんの感想だろう。


「今日まで散々やられてきたからね。揺り戻しってやつよ。平柳君もいい感じに打率キープしてるね。今年で年俸2、5億は楽勝だな」


「いやー、3割5分でも、上に新井さんがいるんであんまり嬉しくないっすよ」



彼はどういうつもりか、そんな事を言ってニヤニヤとしながらおどけてみせた。






「またまたそんなこと言って。平柳君とはチームへの貢献度が全然違うんだから」


「俺の名前覚えてくれたんすね!」


「はあ?」


わりとマジで気持ち悪い一言だったので、俺はまだおケツを触っている彼の手を叩き落とすようにして、2塁ベースから離れた。



「バッターは3番、サード、阿久津」



たのんますよ、阿久津さん。ここでもう1点取れば一気に勝利に近づきますよ。



ピッチャーがセットポジションに入る。


体勢を低くしてリードを取る。


その後ろでショートの平柳君がチョロチョロチョロチョロと動き回る。


2塁への牽制を匂わせて少しでも俺のリードを小さくするつもりか。


ザザッザザッと彼のスパイクが人工芝を踏み込む音が聞こえる。



そんな中ピッチャーがホームベースを向き、阿久津さんへの第1球。真ん中低めの速いボール。


阿久津さんがそれをドンピシャで打ち返す。


打球はライナーとなって俺の方に。


俺の顔面目掛けて飛んできた。一瞬3塁へスタートを切りかけたが、直前にすぐ背後にいた平柳君が頭をよぎった。



バシィ!!



げっ! 振り返ると平柳君がこの打球を横っ飛びキャッチ。


グラウンドに倒れ込みながら、両足で地面を蹴り上げた勢いで俺のおケツに向かって、ボールをキャッチしたグラブを伸ばして飛び込んできた。








平柳君が俺目掛けてダイビング。


俺も2塁ベースに向かってダイビング。


2人してドゥアッ! っと面白い構図になり、俺の伸ばした右手が2塁ベースに届いた瞬間、平柳君のグラブがこともあろうに、まだ痛みの残る俺の可愛いおケツを容赦なく叩いた。


さっきまで心配してくれたのがまるで前フリだったかのように。



遠慮なく思い切り叩いてきやがった。


「……セーフ!!」


体を前のめりにして、目を見開いていた2塁審判のおじさんが腕を広げた。


あぶねー。ダブられるところだったぜ。


「くっそー」


すぐ横で平柳君も立ち上がる。恨めしそうに俺を見て立ち上がりながら、今度はグラブでおケツをすりすり。


「さすが新井さん。反応速いっすね。なかなか今のは戻れないっすよ」


平柳君ぴょいっとピッチャーにボールを返しながら口元を緩ませた。


「平柳君なら捕るだろうと予測出来たからね」


「なるほど。冷静ですね」


そう言って平柳君は2塁ベースから離れていく。


自分のことでなく、相手選手の力量や状況を踏まえてプレーしていく。


これも大事なことよ。




カアンッ!!



5番シェパードが低めのボールをフルスイング。すごい勢いで打球が俺の頭の上を越えていったが、これは上がりすぎ。


センター定位置へのフライで3アウトチェンジとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る