嫉妬する新井さん

「阿久津はバスターを敢行してきました! しかしここはファーストライナー! いい当たりの打球が掴まれましたが、ランナーの新井がなんとかギリギリ戻り切りましてダブルプレーは免れました」


「いやあ、よく戻りましたよ。反応がよかったですねえ。これは新井の好判断ですよ」




ライナーを捕球した外国人のファーストに手を踏まれそうになりながら、なんとかまた1塁ベースを抱きしめる俺。



冷や汗をかきながら間一髪のところで生き残った。




阿久津ちゃま。バスターするのはいいけど、ライナーは困っちゃうぜ。




そして続く4番の赤ちゃんはレフトフライに倒れてたちまちに2アウト。



5番のシェパードに打席が回る。



「バッターボックスには、5番ファーストのシェパードです。現在打率2割4分。12本塁打のシェパードですが、どうでしょう大谷さん。このバッターへの攻め方というのは」



「見ての通り、身長が190センチもありますんでね。やはりインコースの、特に高めの速いボールで攻めるのが有効でしょうね。


その分、腕は長いですから、少々低めのボール球でも、長打にされますから、低めに変化球を投げる時は、ワンバウンドさせるつもりで投げた方がいいですねえ」



「なるほど。…………そのシェパードが打っていきました! 1、2塁間、痛烈な当たり破っていきます!………新井は2塁ストップ!!2アウト1、2塁! さあ、勝ち越しのチャンスです!」






「6番、ライト、桃白」


桃ちゃんの名前がアナウンスされると、いつもよりひときわ大きな歓声。


今日の桃ちゃんは絶好調。タイムリーヒットに豪快なホームランと、既に猛打賞を決めており、同点に追い付かれた直後のチャンスにファンの期待は最高潮に高まっていた。


そんな中、2塁ランナーの俺は冷静を保つ。


内野手の位置。外野手の位置を再度確認。


内野の間を破るようなヒットが出たら、迷わずに本塁へ突入するイメージを高める。


ピッチャーのセットポジションの長さ。キャッチャーのサインを見るタイミング。間合い。牽制の速さ。


ショートの動き、俺の周りに起きる様々なことを瞬時に把握しながら、1メートルでも、10センチでも1センチでも長くリードを取る努力をする。



それが今日の試合を分けるような気がしてきた。



まるで澄んだ水流が激しく流れ始める瞬間がやってきたように、自分の中にある野球感が大きく揺れ動く。


桃ちゃんが低めのボールを上手く流し打った打球がサードの右を抜けてレフト前へ。


俺は3塁コーチがぐるぐる腕を回す勢いにも乗って、ホームベースに向かって爆走。


送球を掴んだキャッチャーを交わすように滑り込む。


立ち上がりながら、俺はガッツポーズ。


今日1の大歓声とチームメイトの笑顔がベンチへ戻る俺をいっぱいに包み込んだ。








「ヒーローインタビュー、ヒーローインタビュー!今日のヒーローはホームランを含む4安打!決勝打も放ちました、桃白選手でーす!!」


「「わああぁっーーー!!!」」


今日のお立ち台には、凄い活躍だった桃ちゃんが満を持してお呼ばれした。


タイムリーツーベースに、追加点となる豪快なホームラン。追い付かれた試合終盤には、レフトへ技ありの決勝タイムリー。


守備や走塁でも良いプレーがあり、今日はもう桃ちゃんデーといった感じ。


「ホームランの感触はいかがでしたでしょうか!」


「もう感触は文句なしでしたね!高めのストレートだったと思うんですけど、力負けしないでしっかりボールを叩けました」



桃ちゃんは180センチの身長もあり、顔立ちもなかなか端正でイケメンと言っていい部類に入ると思う。それにチーム1のムキムキマンだし。ちんちんもデカイし。


だから、ヒーローインタビューが似合うというか、カメラ映えするタイプの男なので、特に女性ファンが多いタイプの1人。


1塁側のスタンド前でインタビューが行われているが、試合が終わった直後から、桃ちゃんファンと思われる女性達がズドドドド!と、1番前のネットにしがみつくようにして激しい場所取り合戦が繰り広げられた。








宮森ちゃんに呼ばれた桃ちゃんがベンチから現れると、近く集まったファンからキャーキャーと黄色い声援。


その時に、両手を挙げながらどーも!どーも!と俺が出て行くと、たちまちブーイングの嵐になるのが面白い。



そこそこイケメンの部類に入る桃ちゃんはオッケーで、チャームポイントは丸いお尻の僕ちゃんはダメみたい。




そんなファン達はみんな手作りの応援ボードやうちわなんかを用意してきてそれをずっと頭の上に掲げている。



まるでアイドルグループのコンサートばり。


キラキラしたやつとか、アイラブ桃ちゃんとか、痛々しいやつとか。


たまに、こいつ頭おかしいんじゃね? って思うこともあるけど、そういう熱心なファンの協力があるおかげで、野球チームというものが存在出来て、俺達選手は飯を食えているわけである。


そのお返しにロッカーに戻って、桃ちゃんの使用済みボクパンとか、リップクリームとかをスタンドに投げ込んであげたいけど、あのムキムキボディにおもいっきしぶん殴られてしまうのでそれは止めておいた。



「以上、本日のヒーローは桃白選手でしたー!!」




「「もーもしろ! もーもしろ! もーもしろ!」」




ヒーローインタビューが終わるとスタンドからはまた拍手が起こり、応援団からは桃白コールがこだましていた。

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