ロンパオちゃんのお楽しみ

映画では、女の子3人が着替えようと足を踏み入れた部屋でなにか得体の分からないものに追いかけ回されたり。



こんなところに居てはいけないと、来た廊下を引き返し、入ってきた引き戸を開けて外に出ようとしたのだが、そこは玄関の外ではなく、また広い廊下。



空間が歪んでしまっているのか、振り返り通ってきた角を曲がると見覚えのない屋敷内が続く。



脱出不能の迷宮となってしまっていたのだ。


男3人が連れて入ったトイレの鏡の中で、その3人が互いに刃物殺し合う姿が写し出されたりと、なかなかショッキングな場面も。


映画館ならではのスクリーン技術や音響効果によって、俺もまあまあビビるくらいの迫力ある恐怖シーンが随所に訪れる。


その度に、若い女性のお客さんの声が館内にこだまし、気分が悪くなってしまったのか、席を立って外に出て行ってしまう人もいた。


それなのにうちの子は……。


「うふふふ。……すごぉい。………新井さん、今の赤いハンカチが写ったシーン。きっと何かの伏線ですよ。………うふふふ」


何故か恍惚な笑みを浮かべて映画の心霊世界を心の底から楽しんでいるようだ。


そんなポニテちゃんを見て、俺はゾクリと背筋が凍る。


ちょっと違った意味で俺も映画館から退場したくなった。




思ってたのとだいぶ違う。



2時間弱の上映が終わり、俺とポニテちゃんは少々イチャイチャするようにしながら映画館フロアを後にする。



「なかなか面白かったですよね」


「な!さすが話題作と言われるだけのことはあったよ。最後にあんなどんでん返しがあるなんて」


「ですよね! やっぱりこの世の中、1番怖いのは生身の人間ですよ」


ポニテちゃんがそう呟く理由は、映画の結末の話。幽霊や妖怪のボスでも出るかと思いきや、6人いた若者の中の1番存在感のなかった男が黒幕だったのだ。


他の5人にいじめられて自ら命を経った元クラスメイトの恋人だった。



この一連の出来事はその復讐だった。



そういうオチだった。




ともあれ駅前にいるキッチンカーのお兄ちゃんからクレープを購入して、そのまま近くのベンチに腰を下ろして、ホラー映画談義に花を咲かせていた。


そんな俺達の目の前を………。


「あ、新井さん! 今目の前歩いている人、ロンパオさんじゃありません?」


「本当だ。こんなところで初めて見たなあ」


よー、ロンパオー! 何してんのー!?


と、声を掛けようとしたが、凄いスピードのはや歩きで、あっという間に俺達の視界から消えていってしまった。


そんな状況に俺とポニテちゃんはにっこりと笑いながら立ち上がり、最後のひとくちになっていたクレープを口の中に放り込み、駅の中に入っていくロンパオの後を追った。







「確かこっちの方にきたはずだよなあ」


「そうですよねえ」


駅から出る階段をスタスタスタっと降りて、もちゃ男を大追跡。


ちょっと高価そうなブラックジーンズに花柄のおしゃれなアロハシャツ。


日本のプロ野球で活躍する台湾人サウスボーは一体どこへ向かおうとしているのか。


ポニテ捜査員が、彼の足取りを追う。


駅から出て、線路沿いの道を歩いた、大きな駐留場をぐるっと迂回した雑居ビルが立ち並ぶ場所まで来た。


「新井さん! あそこにいました!」


「どこ!?」


「あそこです! あの、キラキラしている看板の……」


ポニテちゃんが指差すのは、ビルとビルの間の狭い路地。人がすれ違うには苦労する暗いの小さな路地だ。


そして、その路地の奥の方で、俺もロンパオの姿を確認した。


キラキラしている看板。白い電球が波打つように光る地面に置かれた看板には、ピンクサロン ハニーガールとかかれている。


ロンパオはその看板が置かれたビルに、迷うことなく入っていった。


「あら? 新井さん、あれは何のお店ですか?」


「普通のマッサージ屋さんだよ」


「そうなんですか。休みの日に、マッサージで体のケアなんて、さすがはプロ野球選手ですね」


「まあ、そうね」


あー、ポニテちゃんには分からないか。まあ、彼女は生真面目だから、そういった事には疎いタイプだろうけど。


ロンパオも移動日にピンサロ通いかよ。





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