連城君、頑張って

「打ちました! 赤月の打球、これはファーストゴロ。1塁そのままベースに入りまして1アウトですが、ランナーそれぞれ進塁、1アウト2、3塁です」


2塁ランナー目線では、結構甘いボールだったが、阿久津さんに続きたいと、バッキバキに力んだ赤ちゃんの打球は完全打ち損じのファーストゴロ。


しかし、そのボテボテな打球のおかげで俺と阿久津さんは労せず先の塁へ。


結果送った形に。


素晴らしい。最高の最低限だ。



「5ばん、ふぁーすと、しぇぱーど!」


そして、打席には長身のイタリア人。大きな体を少し前傾姿勢にして、頭の後ろでバットを激しくゆらゆらさせてボールを待つ。


初球。


低めのスライダー。見逃せばボール球たが、シェパードはそのボールを思い切り打ちにいく。


地面に着きそうなくらい長いリーチを生かして低いボールをバットの先で引っかけるようにして当てた。


打球がセカンド方向に転がる。


俺はすぐさま本塁突入。


ボールを待つキャッチャーの後ろ目掛けて走り、かいくぐりスライディングを披露したが、バックホームされなかった。



処理を焦ったのか、相手セカンドが打球を横に弾いて いたのだ。



1塁にも投げられずに、オールセーフ!相手のエラーで大きな3点目が転がり込んできた。



その後は、7番の鶴石さんが三振を喫して攻撃終了。3回ウラ、ビクトリーズのスコアボードには4。


相手のミスが絡んで一挙4得点。先発の連城君にはこの上ない援護になった。


「ビクトリーズには大きな4点ですね。先頭打者でありました、ピッチャー連城のヒットから始まったビクトリーズの攻撃でした」


「ええ。やはりピッチャーに出塁を許すと大量失点になってしまいますねえ。新井君のバント、シェパードのセカンドへの打球。2つミスをしては、この4失点は生まれるべくして生まれたということですよねえ」



「おっと! 3球勝負、空振り三振! その得点のきっかけとなった連城が本職のマウンドでも躍動! 最後はアウトコース高め、今日最速の148キロで三振を奪いました!連城が奪った今日3つ目の三振です!」



連城君のイキイキとしたマウンド捌き。いい投げっぷり。


点を取った後のピッチングは難しいものだが、逆にそのプレッシャーをまるで楽しむようにして、マウンド上で連城君はビュンビュンとナイスなボールを投げ込む。


細かいコントロールなど気にしない。逆球も多いが、ミスからの失点で多少気落ちしたスカイスターズの下位打線を勢いで押し込むようにして、次々に打ち取っていき、僅か8球で4回表、スカイスターズの攻撃をあっという間に終わらせた。





しかし野球とは本当に1球先が分からないもので、あんなにすんなり4回を抑えた連城君は5回、先頭の1番平柳君に初球のストレートを叩かれ、右中間へのツーベース。


続く2番佐藤にもいい当たりを飛ばされ、結果はショートへの内野安打。


さらに3番打者にも粘られた末にフォアボールを与え、まさかのノーアウト満塁のピンチを迎えてしまった。



そして4番打者が打席に入る。筋肉ムキムキ、構えどっしり、オーラムンムン。


そんなバッターの強烈な打球がサード阿久津さんの頭上をあっという間に越える。



俺はその打球がフェンスに達しないようなところでなんとか追い付き、踏ん張って3塁へと送球した。



「3塁ランナーに続いて、2塁ランナー佐藤もホームに返ってきます!レフトの新井からボールは3塁へ。1塁ランナーは2塁に止まりました! しかし、レフトへ2点タイムリーで4ー2! その差が2点に縮まりました!1番の平柳のヒットからフォアボールを挟んで3連打!


さあ、スカイスターズが反撃態勢であります!」




やべー。あっという間に2点差。さらに1、2塁。


やばい。一気にやばくなった。


さっきまで打たれる気配は全然なかったのに。マウンド上では連城君はアップアップ状態。



本当に分からんもんだなあ。






「吉野ピッチングコーチがベンチに戻りまして試合再開です。ランナーは1、2塁。依然ノーアウトです。ビクトリーズ、まずはアウトが1つ欲しいところ。点差は2点あります」



「そうですね。まだ2点差ありますから、ランナーを気にしすぎないようにね。まずはアウトを1つ確実に取りに行きたいですねえ」


スカイスターズの6番打者が打席に入る。


内野陣はゲッツー狙いの守備体形。しかしその中でも広く空いた1、2塁の真ん中に打球が飛んでしまう。


ファーストベースに着いていたシェパードは見送るだけ。


セカンドの守谷ちゃんがその打球を追う。


ワンバウンド、ツーバウンド。スリーバウンド目。もうインフィールドラインの外側の深いところだが、なんとかショートバウンドで掴む。


2塁はもちろん無理。素早く右手にボールを持ち替え、なんとか送球するまでのステップを保ち、倒れ込みながら1塁へと送球した。



際どいタイミング。バッターランナーがいっぱいに足を踏み出してベースを踏んだのと、シェパードがボールを捕球したのはほぼ同時だ。

















「………アウト!!」



ナイス!!



守谷ちゃんナイス! さすが!!




「これはセカンド守谷がナイスプレー。見事な守備です!1アウトランナー2、3塁に変わります」



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