激闘! 炎天下の首位スカイスターズ戦 3

うーん。どうしようかなあ。


2塁ランナーが柴ちゃんなら、ピッチャー前以外に転がせばオッケーだけど、ピッチャーの連城くんだからなあ。


丁寧なバントをしたいけど、バッテリーは胸元に速いボールを投げ込んでくるし、当然相手の守備陣もバントシフトを敷いてきている。



1ボールになったらサインが変わるかなあと思ったけど、変わらず送りバントのサインが出た。



まあ仕方ない。


俺はバントの構えをせずにバッターボックスに立ちバットを構える。


今度はセーフティ気味に。1歩でもバントを処理にくる奴の足を鈍らそうと、ギリギリまでバントの構えはしない。


いかにも強振しますよと、そんな雰囲気を醸し出しながら、ボールを待つ。


2塁ランナーの動きを目で牽制しながら、ピッチャーが投球する。


また高めのストレート。



俺は1塁に駆け出しながら、ギリギリのタイミングでグリップの力を抜き、すっとバットを引き寄せて、コツンとバント。


アバウトにやったバントだが、3塁線に少し高く弾みながら、上手く転がった気がする。



後は1塁に走るだけ。



走力査定Eの俺が一目散に走る。


ダーッと全力疾走したが、ボールを待つ相手の1塁手に送球されない。俺はそのまま1塁ベースを駆け抜けた。


振り返ると、ピッチャーとサードが2人して地面に片膝を着いて唖然としていた。




「なんと! バントされた打球を捕りにいったピッチャーとサードが最後はぶつかり合う形。ボールを拾い上げましたが、どこにも送球出来ず! 記録はサードへの内野安打です!」


一瞬、あれ? 今のファウルになっちゃった? と思ったが、一目散に1塁ベースを駆け抜けると、スタンドのビクトリーズファンがここぞとばかりに盛り上がっており、エッチなランプが点灯した。


そして、相手ベンチからピッチングコーチが現れ、マウンドに内野陣が集まる。


もちろんだが、明らかに相手チームは悔やんでいる様子で、それをピッチングコーチが宥めながら、ピッチャーとキャッチャーの2人に指示を出している。



その間、バックスクリーンに俺がバントしたプレーのリプレイが写し出されていた。


3塁線ギリギリに転がった打球をピッチャーとサードが同じ勢いでダッシュしてきて、一瞬互いに譲り合い。



もう3塁をアウトには出来ませんからどっちが処理しても1塁に投げるだけなんですけど、任せろと言ったサードと勢いよくマウンドを駆け降りたピッチャーがちょうど同時。


そして、はっとしてまた同じようにボールを拾いにいって体がぶつかり互いが互いを邪魔してしまう形になっていた。


ラッキー。相手の連携ミスながら、記録は俺のバントヒット。


ノーアウト満塁というスーパービッグチャンスにキャプテンのご登場である。



「3ばん、さーど、あくつ」





「さあ、バッターボックスには、3番の阿久津。ビクトリーズのキャプテンです。得点圏打率はリーグ4位の数字。満塁での成績は今シーズン9打数3安打。打点も7あります。ここは持ち前の勝負強さを見せたいところでしょう」


「初球の入りでしょうね。前の打席は結果的にスライダーで三振していますから、阿久津はどのくらいの意識でそのスライダーを右方向を意識して打ちにいけるかですねえ」



「同点のまだ序盤3回。しかしスカイスターズ内野陣は、ノーアウト満塁ですが、ここは強気の前進守備。簡単に先制点は与えないという守備。外野もやや前目でしょうか。ピッチャー、セットポジションから第1球を………投げました!」




大きなリードを取りながら、俺はお祈りしていた。



今日は、宮森ちゃんが企画したわくわくチビッ子なんちゃらデーなので、負けて彼女の頑張りに水を差すわけにはいかない。


そうなれば先取点。今日の連城君は調子がいい。2点3点先に取れれば、首位スカイスターズ相手といえど、だいぶ有利に試合を進められる。


俺はバッターボックスの阿久津さんに向かって、くねくねとお祈りする。


なんとか打ってくれー。とお祈りする俺の足元に、阿久津さんの打球が襲う。


アブねっ!



俺はとっさにお祈りをやめて、側転するようにしてなんとかその打球を避けた。だいぶ不恰好であるが、打球に当たらないことが大切。



当たっていたら首脳陣にボコボコにされるところだった。



「阿久津の打球がライト前抜けたー! 3塁ランナーホームイン!2塁ランナーの柴崎も返ってくる返ってくる! ホームイーン! やりました! 3番阿久津のタイムリーヒット! ビクトリーズ、2点先制! なおも、ノーアウト1、2塁です!」


生還した、連城君と柴ちゃんが喜びあいながらベンチに戻っていく。


連城君は特に嬉しそう。ベンチで出迎えるチームメイトの中に2人はぴょんぴょんと飛び跳ねるようにして飛び込んでいった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る