俺ちゃうんかーい!

「セーフ!!」


球審が大きく右手を広げる。


その瞬間、ホームインした桃ちゃんが立ち上がってバンザイしながらベンチに戻ってくる。


一瞬ごとに一喜一憂して、みんなわけがわからん状態になったが、結果的に桃ちゃんが本塁生還で1点勝ち越し。



なんだか、日曜日の朝に取り上げられそうなプレーだった気がする。



「ビクトリーズ9回表、1点勝ち越し!! うーん、レッドイーグルスとしてはなんとも痛い守備のミスが連鎖的に起きてしまいました! 記録はショートの悪送球ということですが、この1点は両チームにとって非常に大きいものになりそうです」



「レッドイーグルスの選手は、各々なんとかカバーしようとした結果なんですがね。これも野球ですね」



よっしゃ。勝った。俺はそう思った。こういう終盤でのミスによる1点というものは、チーム全体に重くのし掛かる。


普通に打って取られる2倍3倍の重さがあるものだ。



8番の守谷ちゃんが凡退して3アウトチェンジ。


「新井、交代だ」


「はい」


勝ち越したことで、守備固めモードに入り、真っ先に俺はベンチに下げられた。代わりに、俊足が売りの杉井がレフトの守備位置に駆け出していく。



「北関東ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします。新井に代わりまして、レフトに杉井。ファーストシェパードに代わりまして、高田。2番、レフト、杉井。5番ファースト高田」


ピッチャー、李に代わりまして………岸田。ピッチャーは岸田。背番号23。以上に代わります」




暑苦しい奴らが守備にいって、ベンチがやっと涼しくなるなあと思ったら、今度は左右にロンパオとシェパードの外国人コンビがやってきた。


右に台湾。左にイタリア。


ずいぶんと俺の生活も国際化してきたもんである。


「キシサーン! ガンガレー!!」


「キッサーン!クイラコンニッチオレ!」


2人とも、マウンドでバッターにズバズバ投げ込んでいくキッシーに向かって声を出しているが、シェパードはなんて言ってんの?


聞いてみると……。


「クイラコンニッチオレ!」


「クジラ、こんにちは俺?」


「クイラコンニッチオレ!」


「クジラ今日オレ?」


「クイラコンニッチオレ!」


「クイラ……コンニッチ……オレ? どういう意味?」


俺はそう訊ねたのだが、シェパードは、どういう意味というその言葉が理解出来なかったみたいで、そのブルーの瞳で俺を見て、首を横に振って諦めた様子だ。


鼻がスラッと高いからって調子にのりやがって!



「最後はフォークボール空振り三振!!5ー4! ビクトリーズ、4位レッドイーグルス相手に接戦をものにしました!!」



「ヨッシャ!!」


「エヴィヴァ!!」


最後のバッターを三振に取った瞬間、俺たち3人は勢いよくベンチを飛び出し、ハイタッチ。


グラウンドから戻ってくるチームメイト達を出迎える列を作り、勝利を分かち合った。







「ヒーローインタビュー、本日のヒーローは、来日初勝利を上げました、リ・ロンパオ投手です! おめでとうございます!」


「アリガトーゴジャイマス!」



ロンパオはそう言って帽子を外しながらビクトリーズファンのいるスタンドに笑顔を振り撒く。


ベンチ前、勝利のヒーローインタビューだが、ビジターなので知らん女性インタビュアーが横に。そしてロンパオの横には通訳のおじさん。



後はテレビカメラが1台とカメラマンが2人いるだけの控えめインタビュー。ビジター用の形式的インタビューだ。


同点の8回で見事にピンチを切り抜けたロンパオが今日やっと来日初勝利だったのが意外だった。


セットアッパーだから、リードを保ったままストッパーに繋ぐのが仕事なのでホールド機会はたくさんあるが、なかなか勝ちがつきにくいポジション。


打線がよわよわなうちでは特に、終盤に試合をひっくり返すようなケースが少ないわけですから、リリーフに勝ち星が付きにくいのはごめんなさい案件ではある。


てか、あまり意識しないようにしていたが、復活の3安打猛打賞。起死回生の同点タイムリーを放って、4打席全出塁の俺が今日のヒーローインタビューじゃね?


と、試合が終わった後、ウキウキしてたのに。


宮森ちゃんが呼んだぷにぷにお腹は、ロンパオの方だったのだ。







ピンク色のチームジャージ姿の22歳の広報担当に……。


「おいおい姉ちゃんおかしいじゃないのよ。どうして1イニング自ら招いたピンチを凌いだだけのもちゃ男がヒロインなのよ。貢献度からいえば、今日は文句なしで俺でしょうよ」


という俺の問いに……。


「まあまあ、今日は記念すべきロンパオさんの初勝利じゃないですか。台湾時代から苦労されていましたし、新井さんはこれからたくさん活躍しますし……。今日は譲ってあげて下さい。ほら、ご褒美にアイスあげますから」



などと、俺を宥めるような口調でほざいてやがったのよ。


まあ、アイス1本であっさり買収されましたけども。



確かに宮森ちゃんがヒーローインタビューの選手をどうすると決めているわけではないから仕方ないけどもペロペロ。



「今日は見事なピッチングでしたね。振り返っていただけますか?」



「エト、キョウハマケラレナイシアイ、ダッタカラ、オサエテヨカッタデス」



「なるほどー」



「それでは、スタジアムに詰めかけたファン、テレビで応援してくれた方々に一言お願いします!」



「エトー。……タイワンカラキタ、ロンパオイイマス。……モットガンバリチュウイマス。オエンオネガイシマシュ!」



「本日のヒーローは、リ・ロンパオ投手でした!ありがとうございました!!」



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