3人娘は俺とのキャッチボールを喜ぶのだろうか。

4位東北レッドイーグルスとの3連戦は、2勝1敗。


相手は調子の落ちていた3位埼玉ブルーライトレオンズとのゲーム差を今季最小の2で迎えたうちとのの3連戦は最低でも勝ち越したかったはず。


しかし最下位のうちに負け越して逆にゲーム差が開いてしまい、がっくりとしていたレッドイーグルスサイドの皆様の姿が印象的な仙台遠征だった。


試合後に約束していたロンパオと食った牛タンはべらぼうに旨かったし、レッドイーグルスとの試合での俺は初戦3安打。2戦目2安打。3戦目はデッドボールをもらいながら送りバント2つ決めながらの、最終打席にライト線へきっちり1安打。


打率爆上げモードに入り、チームも後半戦は上り調子といった感じで、仙台から宇都宮に帰ってきて、今度は北海道フライヤーズとの試合だ。


久々にドラ1ルーキーの連城君が好投して、打線はトータル6安打ながら、柴ちゃんの2盗塁や俺の神が舞い降りしエンドラン成功などで、効率よく5点を奪いこの試合も勝利。



このまま土曜日曜も勝ちたいなあなんて言っていた試合後のロッカールームで。


「あ、新井さん。まだいたんですね。よかったですー」


まだお着替え中だったのに、宮森ちゃんが突撃してきた。俺の顔を見るなりほっとしている様子だ。


参ったあ。告白ですかあ?




「困るよ、宮森ちゃん。こんな場所入ってきちゃったりして………」



「何を勘違いしてるのか分かりませんが、とりあえず早くズボンを履いてもらえます?見苦しいですよ」


宮森ちゃんは俺の下着姿を蔑むような視線で見ている。


興奮してしまうじゃないか。


「広報担当のお姉ちゃんがどうしたのかね? 若い女の子が気軽に入っていい場所じゃありませんよ」



「別に大丈夫ですよ。もう他に誰もいませんし。それより、これを見て下さい」


宮森ちゃんは何かポスターを差し出してきた。


「なになに。試合後グラウンドに入って選手とふれあおう! サイン会に写真撮影、憧れの選手とキャッチボールも出来るよ!20組40名様の親子をご招待!ビクトリーズファンの君! お父さんやお母さんと一緒に応募してね! 詳しくは……」



夏休みふれあい企画的なやつ?


日付は10日後の日曜日、ホームのスカイスターズ戦の後か。まあ、いいんじゃないの?



「なにこれ。この企画宮森ちゃんが考えたの?」



「そうですよ。それで新井さんに折り入って頼みが………」


「え、なに?」



「この企画、当日になったら、新井さん中心で子供達の相手をしてもらって、別で招待してる少年野球チームに最後グラウンドでシートノックもして頂いて………」



「えー。めんどくせー」






「め、めんどくさいって。………新井さんこういうの好きじゃないんですか?」


俺の不満げな様子を見た宮森ちゃんが、それ以上に不満げな表情をした。


こういうの好きじゃないんですかって。俺をなんだと思ってんのよ。この子は……。


「ほら。新井さんって、結構子供好きじゃないですか。この前の仙台遠征の時だって……」


などと、知らん少女にキスされた話をダシにしてこの話を煮詰めようとする。


「でもそれって俺中心でいいの? もっと実績ある選手中心の方が良くないか?チビッ子達に誰この人……みたいになるのが嫌なんだけど」


「大丈夫ですよ。新井さんならそんなことになりませんって。もちろん私もグラウンドでお手伝いしますし、新井さんが言えば他の若い選手達はみんな喜んで動いてくださるでしょうし」


「そうかなあ。試合が終わった後でしょ? 負けた後なんて結構みんなドライだからさ」


「それもあるから新井さんにお願いしているですよ。新井さんはいつでも新井さんですし」



「どういう意味だよ」



「さあ?」



まあ、ファンサービスは大切なことだからね。


「あ、そうそう。その代わりといってはなんですが。新井さんのお友達をグラウンドに招待していいですよ」


「え?お友達?」



「ええ。ほら、みのりさんやマイさん。さやかちゃんも都合が合えば呼んで頂いて結構ですよ。空き時間などに、新井さんとグラウンドでキャッチボール出来るって聞いたら、彼女達喜ぶんじゃないですか?」



「そうかねえ。20半ばの女の子達が喜ぶかねえ。野球少年じゃないんだからさ」



「そうですか? 私だったら嬉しいですけど……」






「ただいまー!」


「おかえり、新井くん。今日も勝ったね、すごいよ! 大活躍じゃん!」


「おう、やったぜ」


ガチャリとドアを開けると、みのりんが玄関先で俺を出迎え、控え目に右手をこちらに見せる。


俺はその彼女の右手に優しく、パチンとハイタッチ。


ビクトリーズの勝利。さらに怪我から復帰した俺の連日に及ぶナイスな活躍にみのりん様はご満悦の様子。


俺は靴を脱ぎながら視線を下に落とすと、いつもの見慣れた靴が2足そこにはあった。


テカテカしたピンク色のミュールと、青色の可愛らしいスニーカー。


ギャル美とポニテちゃんが今日もいるみたいだ。ダイニングの方から賑やかな声が聞こえてくる。



「やー、彼女達! 俺の活躍を見てくれていたかね」


「お疲れー!あのエンドランだけでしょ。今日のあんたは」


「お疲れ様です、新井さん!あのエンドランは会心でしたね!今日の試合はあれで決まったようなものですよ!」



「そうだろう、そうだろう。あのエンドラン成功が今日の全てでしたよ。あっはっはっ!」



俺はそう高笑いしながらテーブルに着いていた2人にもハイタッチをかます。


空っぽになっているお腹を擦りながら、所定の位置。みのりんの向かい側、ギャル美の隣の椅子に座る。



お腹グーグーだぜえ。



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