きっかけはポニテちゃんの谷間の中に2

「打ったー! 左中間破ったー! タイムリーヒーット!!」


「ああ、また打たれちゃいました」



「同じコースに投げすぎなんだよ。もっと高めとかも使って散らしていかないと」


「でも、野球中継を見てると、ピッチングは低めにボールを集めなさいって言ってますよ」


「実際はね。そりゃ、低めにいいボールがいけばそれに越したことないけど。テレビゲームのピッチャーみたいに、すぐいいところでストライクを取れるわけじゃないから」


とか、能書きをタレていたら、ポカーンとだらしなく打ち上げて3アウトチェンジ。


ポニテちゃんの攻撃。


しかし、さっきから変化球にクルックル。


せっかくアシスト機能でミートしても、全部タイミングが早くて、引っ張り過ぎてファウルになってしまう。


それは本人も分かっていたようだ。


「新井さん、流し打ちってどうやるんです?」


「うーん。言葉じゃ説明しにくいけど、ボールを手元まで引き付けるんだよ」


「………タイミングを遅らせるってことですか?」


「違う、違う。それじゃダメなのよ。流したいから遅らせるんじゃなくて、遅らせたタイミングで待つの」


「…………え?」



「あー、なんていうかな。……タイミングを遅らせるって考え方じゃ、ピッチャー主導なわけ。そうじゃなくて、来るボールを引き付けて自分のタイミング。流し打ちするタイミングに呼び込んで…………ああああっ!!?」



「ひいっ!?」






なんてこと。俺は大事なことを忘れていましたわ。



俺は今までナニをやっていたんでしょう。



そりゃあ、30打席もヒットが出ないはずですわ。


俺は何故だかびっくりしているポニテちゃんの肩を両手でガッと掴む。


「ありがとう、さやかちゃん!君のおかげで大切なことを思い出したよ!!」



「はい?」


俺はコントローラーを手離して、力強く立ち上がる。




「さあ、こうなったら練習だ! 練習あるのみ! 君たち、明日の試合を楽しみにしていたまえ! わっはっはっはっ!!」




俺はそんな捨て台詞を残しながら、まだダイニングでお話している2人にも手を振りながら今日の別れを告げた。



「マイちゃん、新井くん、どうしちゃったの!?」


「さあ? ヒットが出なさ過ぎていよいよ頭がおかしくなったんじゃない?元からちょっとおかしいけどね」




「確かに」



俺はみのりんの部屋を飛び出し、自分の部屋へ。


そして、素振り用のマスコットバットを持って、すぐ下の公園までダッシュした。



そして、切れかけの街灯の下で一心不乱にバットを振る。


そうだ。右打ちだよ、右打ち。


俺には右打ちしかないのだよ。開幕して1ヶ月で1軍に上がって、なんやかんやありながら、レギュラーに定着して、ちょっといい成績が残ってしまったから、つい色気が出てしまっていた。


なんだ。プロ相手でもヒット打てるやん!


よっしゃ、今度は思い切り引っ張って長打にしてやろ!


そんな欲がここ最近俺の感覚を支配していた気がする。





ちょっとヒットが出なくなっても。


まあ、そのうちまた出るようになるだろうと、楽観的な考えになっていた気がする。


それは心の余裕とかそういうものではなく、慢心。


そう慢心だ。


チームがだんだん機能してきて、上位のチームにも勝てるようになってきたから、俺自身どこか安心してしまっていた部分があった。


1ヶ月前、2ヶ月前のチームがひどかった時には、打席に立つ度に、俺が引っ張らなきゃ。


俺がなんとかしなきゃと、必死になって考えながら、プレーしていた気がする。


それぞれ春先よりは活躍し出して、頼もしくなりつつあったチームメイト達に姿に安心して、俺自身が甘えていたのかもしれない。


だから、試合中の打席だけでなく、試合前の練習はもとい、日常生活も含めて、気が抜けていた状態だったからこそ、ヒットが出ないという結果になってしまった。


何より、初心を忘れていたね。


プロに入ったばっかりの頃。


後がない、1発勝負の入団テストで、柴ちゃんやロンパオと夢に向かってがむしゃらにプレーしていた頃。


その時の気持ちを俺はもう1度思い出すことが出来た。


もう大丈夫だ。


何の根拠もないけど、もう大丈夫。


明日は見ておれ。


ドラ10ルーキーの新たな伝説の始まりよ。











ザー。


ザー、ザー。


ザー、ザザー。


ザーザーザー。


やべえ。


朝起きたら、超雨降ってる。


鬼雨。



ベッドが起き上がって、カーテンを開けてまで確認する必要のないくらいの雨。窓どベランダの手すりを叩く雨音で俺は目を覚ました。


だが、その激しい雨を見た俺はちょっとテンションが上がった。


まだ午前10時。試合は午後6時開始でまだ時間はあるが、様子見するようなレベルの雨ではない。


いつの間にか台風がきていたのかと、あわててテレビを点けたら、何日も前から強い雨の予報が出ていたらしい。しかも夜まで1日中雨。


テンションがまた上がる。


とりあえずまだ正式な連絡はないので、部屋の掃除をしたり、スマホを開いてマイプロをちょこちょこと遊んでいると。



ティコリンとなって、チーム関係者全員が入っているグループメッセージが届き、正式に中止が発表されたとのこと。


よっしゃ!


午前のうちに試合中止決定!


イコール自由!


今日はお休み!



テンションの上がった理由はこれである。



俺はベッドに腰掛けながらガッツポーズして、サー! イエッサー! サー!イエッサー!と返信したら、ヘッドコーチから………。


新井、お前随分嬉しそうだな。


と、すかさずメッセージが入った。





すぐに移籍したいです。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る