きっかけはポニテちゃんの谷間の中に

「そういえば新井さん、ライトに惜しい打球がありましたよね。もう少しでホームランになりそうな……」


ポニテちゃんはおかわりの白ご飯を頬張りながら、記憶の片隅からギリギリこそぎ出したような思い出し方を俺に見せた。


「そうそう! 結構飛んでたわよね。あんたには珍しく。まあ、さすがにホームランは無理かとは思ったけど」


ギャル美も言われてやっと思い出した様子で、俺をからかうようにケラケラと笑う。


しかし、さっきみたいに俺に気を使うようにして大人しくされるよりも、よっぽど気が楽だ。


「でもさ、正直あの打球よりも飛ばせる気なんかしないんだよ。試合前のフリーバッティングでも、フェンス際まで全然飛ばないし。あの打球もレフトからの風に乗って、ポール際まで飛んだような打球だったし。あの飛距離が限界って感じで」


「流してあそこまで飛んだんなら、引っ張ったらもっと飛ぶんじゃないの?」



ギャル美は器用に片方の眉毛を上げるようにしながら、豆腐とわかめの味噌汁をすする。


「いやー、これが不思議なもので。レフトに引っ張ってもあんまし飛ばないんだよねー。こう、センターから右におっつけるようにして、右手を押し込むように打った方がまだパワーが伝わるというか……打ち方が下手くそなんだろけど」



「ふーん。そんなものなのかしらね。まあ確かにあんたは引っ張って打つタイプじゃないものね」



ん? 右におっつける?



なんか最近忘れていた大切な事を思い出せそうな気がするぞ。




食後。生姜焼き後。


「ねー、ミラプロやりましょうよ、ミラプロ!」


ご飯の後片付けが終わると、ダイニングからリビングに移動したギャル美様がごそごそと何かやり始めたなあと見ていたら、ゲーム機をセッティングしていた。


そして黄色だのピンクだのとネイルんされたその手には、人気プロ野球ゲームである、実況ミラクルプロ野球のパッケージ。


ニヒヒと笑いながら白い歯と白い谷間をちらつかせながら、俺をテレビゲームに誘い込む。


俺も当然ゲームは好きだし、彼女とはいい勝負になるだろうから、それを承諾した。


「じゃああんたは、先にやって試合できる画面まで進めといて。飲み物持ってくるから」


「オッケー」


俺はゲームソフトを受け取って、リビングのソファーへ。


テレビの画面をつけて、ゲーム機にミラプロを投入。


オープニングムービーを見て、最近アップデートされたということなので、早速自分の能力を確認。


開幕された直後は、ミートFパワーF走力Eとかいうクソ査定だったのだが………。


「あっ、ミート上がってる!」


スマホゲームのマイプロほどではなかったが、ミートがC査定にアップ。走力肩力守備力も件並み僅かではあるが上昇していたのだ。


さらに、打撃系の特殊能力もいくつか足されている。かなり強くなっていた。


イエーイ!!



「新井さん。どうしたんですか!?」


俺の声が聞こえたのか、ドタドタぶるんと音を立てて、ポニテちゃんがリビングにやってきた。


「見てー。俺の能力が上がってる!」


「わあ!本当ですね、すごいです!」




「ほら、見て! さやかちゃんの好きな桃ちゃんも、能力上がってるよ! 肩もAになってるし」


「やったあ! でも、ちょっとミートが下がってますね……」



「ああ。……桃ちゃんは5月6月でちょっと打率落としたからね。見て! シェパードのパワーがBになってるよ! 三振付いてるけど……」


「ほんとですね。あ、赤月さんもバッティングの能力上がってます!」



「お! ミートDパワーCか。………三振あるけどチャンスもBに上がってるね!」



「新井さん、あの人はどうでしょう。東京の平柳さんと埼玉の豊田さん!」


野球を見始めるようになってから、若干のデータ厨になりつつあるこのデカおっぱいちゃんは、今東日本リーグで首位打者争いを繰り広げる日本代表の2人の名前を上げる。


俺は選手の能力詳細の画面から、チームを選び直す。


選んだ東京スカイスターズの平柳君の能力。


平柳裕介 右投左打


ミートB

パワーB

走力A

肩力B

守備力B

捕球C


アベレージヒッター、プルヒッター、内野安打、盗塁B、満塁男、インコースヒッター、国際大会○。



ちゅよい。ちゅよ過ぎる。


ミートも、もう少しでAになるくらい高いし。人気選手だからってずるいわ!



続いて埼玉ブルーライトレオンズの豊田君。


ミートB

パワーA

走力B

肩力C

守備力C

捕球C


パワーヒッター、ハイボールヒッター、流し打ち、チャンスメーカー、対左投手B、初球○、国際大会○。



ちゅよい。こちらもちゅよいわ。



「えー、他の選手とはちょっと格が違うくらい強いですね!実際にも、こんなすごいんですか?」


「うん。すごいよー」








「あれ? そういえば、マイちゃんは?」


飲み物取ってくるわ! とか言ったわりには全然現れない。


リビングから覗くと、ダイニングテーブルに座り直し、みのりんと何か小声で話している。


「なんか、学生時代の友達が結婚するとか、そんかナイーブな話をしていましたよ。だから私も逃げてきました」


ポニテちゃんが俺にこっそり教えてくれた。


「そうなんだ。別にナイーブではないだろ。めでたいことじゃん」


「お2人くらいの年齢になると、ちょっと複雑だったりするみたいですよ。若干あせっちゃったりとか……」


隣のソファーから這い寄るようにしたおっぱいちゃんに、耳元でこしょこしょ話されたのが妙に興奮した。


ちょっと、しょうが焼き臭かったけど。


「じゃあ、俺達2人で対戦しようぜ」


「え? でも私、結構下手ですよ?」


「大丈夫、大丈夫。操作ハンデつけてあげるから」


「どうやるんです?」


俺は大阪ジャガースをポニテちゃんは北関東ビクトリーズを選んだ。


「この設定画面で、このミートアシストレベルを上げると打ちやすくなるし、守備も捕球オートにすると、打球を自動で取ってくれるようになるから。でも送球は自分でするんだよ」



「○ボタンで1塁で、△ボタンで2塁に投げるんですよね」


「そうそう」

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