実況！４割打者の新井さん

運が向いてきたビクトリーズ

ショートオーバーのタイムリー。左中間をコロコロと転がる間に、ランナー２人がホームイン。

打った柴ちゃんは１塁ベースの上で、地面に落ちた１００円玉を豪快に拾い上げるようなガッツポーズを見せた。

俺は返った２人のランナーを出迎える。

「鶴石さん、ナイスバッティング！」

「お前も続けよ」

「守谷ちゃんもナイスフォアボール」

「ういっす！」

柴ちゃんのタイムリーで返ってきた鶴石さんと守谷ちゃんにバチンバチンと手をぶつけて迎える。

これで２点リード。

勝ち越し打を打たれたマウンド上の左ピッチャーは、打球の飛んだ方向を恨めしそうに見つめながら悔しがり、その肩をベンチから出てきたピッチングコーチが優しくたたく。

９番ピッチャーの代打川田から三振を奪うも、柴ちゃんに前進守備の内野を越される痛恨の１打。

がっくり肩を落としながら、３塁ベンチへと歩いていく。

俺のところでまたピッチャー交代か。

左ピッチャーに代わって、今度は右ピッチャーだ。

「２番、レフト、新井」

７球の投球練習をじっくりと観察した。タイミングは掴んだつもりだ。

よーし、俺もヒットで続くぞ。

俺はそう意気込んで、打席に入り、右方向、右方向と意識しながらバットを構える。

こういう押せ押せの時は、初球やねん。

初球なんだもん！

「ピッチャー、新井にたいして第１球を……投げました！ 打った！ セカンドへライナーいい当たり！ ライト前に抜け………飛び付いて捕った！ いや、弾いた、弾いた！！」

いただきましたー！

と、叫びたくなるような流し打ちにうってつけのコース、それをきっちりミートしての会心の当たりだったが、セカンドが横っ飛び１番、その打球をグラブに収める。

しかし完全にキャッチは出来ずに、ボールはグラブの先をすり抜けるようにしてコロコロ。

俺は１塁に向かいながら、抜けないのかよ！？と、叫びながら猛ダッシュ。 相手のセカンドも立ち上がって転がるボールを素手で拾い、反転し、倒れ込みながら１塁へ懸命の送球。

やめてー！ と叫びながら、俺は１塁に得意のヘッドスライディング。俺の足ではわりかし間に合わなかった。

「アウト！」

そんな。

これ以上ない、いい当たりだったのに。セカンドが触ってなかったら、ライトスタンドの中段に突き刺さっていただろうに。完全に流れをものに出来る場面。代わり鼻のピッチャーの初球を叩く、意味のあるバッティング内容だっただけに悔しさが大きい。

ヒット２本分を損した気分だ。

ベースを殴りつけたくなった気持ちを押さえて、俺は立ち上がって、駆け足でベンチに戻る。

「どんまい、どんまい。次はヒットになるよ」

「惜しかったなー。あれは仕方ないよ」

ベンチに戻ると、チームメイト達が残念そうな顔をして、俺の可愛いおケツを優しく触った。

「いやー、いい当たりでしたが、セカンドの深村にいいプレーが出ました。大谷さん、新井はいい打球を飛ばしましたけどねー」

「ええ。低めの少し外よりのツーシームだと思うんですがねえ。上手くバットのヘッドを立てながらねえ、右へ打ち返したんですけども。

深村がいい反応しましたね。あんなプレーをされたらバッターはどうしようもありませんから。これは相手の守備を褒めるしかないですねえ」

「しかし、ランナーは１つずつ進塁しまして、２アウト２、３塁となって、打席には昨日３安打。今日もレフトへツーベースを放っている阿久津が打席に入ります」

俺がアウトになったものの、一応ランナーは進み、２アウトになってしまったが得点のチャンスは広がった形になり、さらに打席には勝負強いベテランの阿久津さん。

１ボール１ストライクとなり、３球目の変化球を打つも、ファースト左へのボテボテのゴロになってしまった。

人工芝の上を白いボールがボテボテと、ワンバウンド、ツーバウンド。スリーバウンド目でファーストが掴む。

そして右手に持ち変えて、タイミングを計りながら、１塁ベースカバーに入るピッチャーへ丁寧に優しい送球。

それをピッチャーがポロリと落とした。

「あっと！ ミスが出ました！ピッチャーがボールをこぼした！ こぼした！ボールはファウルグラウンド上を転々！３塁ランナーはホームイン！さらに２塁ランナーも３塁を回った！！

ボールは１塁ベンチ前！ピッチャーがボールに追い付きますがホームには投げられません！２塁ランナーもホームイン！ 埼玉にとってはあまりにも痛いミスが出てしまいました！

記録はエラー、記録はピッチャーの捕球エラーです！！ ビクトリーズ、思っても見なかった形にはなりましたがさらに追加点！ これで４点差です」

ベンチにいたうちら全員が、マジで！？ やったー！とバンザイ。

阿久津さんのドン詰まり打球がグラウンド転がった瞬間はダメかと思ったが、相手のファーストとピッチャーの連携にまさかのミス。

普通にボールを受け取ってからベースを踏めば何ら問題はなかったプレー。バッターランナーは足の速くない阿久津さんだったからなおさら。

下手に走りながらベースを見ながら送球をもらおうとして、さらに落としたボールを拾おうと慌てたピッチャーが足に当てて余計にボールを遠ざけ、２塁から俊足を飛ばして柴ちゃんがホームに滑り込んだ。

相手のピッチャーは呆然。送球したファーストも嘘だろと膝をついてがっくり。

棚ぼたのさらなる２点をいただいてスタンドがこれ見よがしに大盛り上がり。

リードは４点に広がり、それまで緊迫する試合を決めてしまう追加点となった。