3人娘とのバーベキューを企む新井さん3
「よーし、早速準備に取り掛かるぞ!!皆の者、心してかかれよ!」
「「おー!!」」
俺が声を掛けると、3人娘がつるつるの腋をお披露目しながら高く右手を上げた。
ギャル美様と書かれたプレートのテーブルに到着し、自販機で買ったペットボトルの飲み物でとりあえずの喉を潤しながら荷物を開けていく。
「えーとまずは………山吹さんとマイちゃんでお肉とお野菜の方ををよろしくぅ」
「分かった」
「オッケー。任せといて」
食い物関係はみのりん様に頼んでおけば大丈夫だろう。
2人はやる気満々で、包丁やら柔らかいまな板を取り出し、豪華なお肉を見てキャーキャー言いながら下ごしらえを始めている。
「俺はファイアの準備をするから、さやかちゃんはそこのクーラーボックスに氷水を張ってお酒を冷やしてくれたまえ。その袋の中にロックアイスが入ってるからね。ハサミもそこのかばんに入ってるから」
「分かりました!」
それぞれに役割を与え、俺はキャンプ場が用意してくれた新品のバーベキュー台に向かう。
まずは炭を8の字になるように丁寧に組んで、8の字の丸のところに着火剤を差し込むようにして置いていく。
ライターで火を着けながら、少しずつ俺の応援うちわで風を送りつつ、広がり始めた火の大きさに合わせてさらに炭を上から被せて積んでいく。
だんだん煙が上がってきても絶えず色んな方向から風を送り、炭の全体に満遍なく熱を行き渡らせる。
ある程度煙が出なくなったら、網を置いて準備完了。
楽勝ですよ。最近のユアチューブの動画は説明が丁寧でいいですわね。
「さやかー、氷水の中で缶をくるくる回すのよー。そうすれば早く冷えるから」
「分かりました!」
そんな感じで手分けして準備を整えまして。
「それじゃ、新井さん的には、2ランスクイズの代償として、残念ながらケガをしてしまいましたが、連敗脱出と前半戦お疲れ様でーす! ということでカンパーイ!」
「「カンパーイ!!」」
もうバーベキューが待ちきれなくて色々垂れ流し状態のポニテちゃんの音頭で俺達4人互いにキンキンに冷えた缶をぶつけ合って、その中身をぐいーっと流し込む。
「カーッ! うっめえっ!! キンキンに冷えてやがるぜ!!」
「ほんとっ! この暑さに昼間から冷たいビール!サイッコー!! もう1本無くなっちゃう」
缶ビールをギャル美がぐいぐいっと一気飲み、早くも1本を空にして、氷水に漬かった新しい缶ビールに手を伸ばす。
「おいしーねー。新井くんも次の1本飲む?」
「ありがとう、山吹さん。ハイボールちょうだい」
「はい、どうぞ」
「どうもー」
「新井さん、お肉焼いていいですか!?」
2本目のハイボール缶を取ってもらっている間に、ポニテちゃんがもういい加減にしてくださいという様子。
「おお、焼こう、焼こう」
「それでは、このタン塩からいきたいと思います!」
大きくスライスされたタン塩をポニテちゃんがトングで掴み、熱した網の上へ。
ジュワーっ肉の焼けるいい音それと香ばしい匂いに、レモン汁を入れた紙皿と割りばしを持って、俺達4人の目は焼けているお肉に釘付けだ。
「うんまぁ……」
「美味しいわ」
「すごい! こんなに美味しいお肉初めてです!」
「タン塩、美味しいね!すごい柔らかい」
焦がさぬよう上手に焼けたタン塩をそれぞれ1枚ずつ取って、軽くレモン汁につけてパクりといった瞬間、4人全員の表情が一気にほころんだ。
思っていたよりも上質なお肉。柔らかい食感の中にある肉の美味しさと脂の旨味。程よい歯ごたえの中にあるお上品な香りに包まれる感覚。
日頃の疲れと今日の真夏日とも言える暑さも相まって、お肉とお酒がどんどん進む。
タン塩、豚トロ、カルビと順調に継投していた頃、隣のテーブルがやたら騒がしくなってきた。
俺達や他のお客さん達はバーベキュー台が1台、2台だが、そこは4台5台とセッティングされているテーブル。
「バーベキュー久しぶりー」
「やばー、チョー楽しみー」
「お腹すいたねー」
「飲み物ここに冷やしといてー」
「監督の席だけ先に用意しなさいよー、もうくるからねー」
「誰かちゃんと火つけられる人いるー?」
なんだかエネルギッシュに見える若い女の子達を中心とした集団がぞろぞろとやってきた。
みんな胸にロゴが入った白のトレーニングシャツに、ハーフパンツにお揃いのキャップをかぶっている。
そういえば、なんちゃらガールズとかって立て札に書いてあったな。
みんな日焼けしたような顔や腕をして、スリムながら筋肉質で、お尻や太もも周りがたくましい子達が多い。
どこかのスポーツ大学生の集まりかな?
「あんた、あれじゃないの? とちおとめガールズって、宇都宮にある女子プロ野球チームの……」
割りばしで焼けたお肉にタレを纏わせながら、その女の子の集団を見てギャル美がそう言った。
肉汁を垂らさんばかりにお肉を頬張るポニテちゃんもなにかを思い出したようだ。
「あー、そういえば。駅に試合のポスターが貼ってあったの見ました!」
「私も、昨日デパートで見た。とちおとめガールズ。そこのプレートにも書いてある」
みのりんがデパートという単語を口にして、俺もなんとなく思い出した。
とちおとめガールズとかいう名前だから、野球チームじゃなくて、ご当地アイドルかと勘違いしていた。
ビクトリーズと同じく、宇都宮市を拠点とする女子硬式プロ野球チームだ。
「はい、新井くん。ご飯食べられるよ」
「サンキュー。やっぱり焼き肉には白飯ですなあ」
みのりんが青空を突き破らんばかりに天高くアホみたいに盛ったご飯を俺に渡す。
余分な脂の落ちた、ジューシーな上カルビ。お肉屋さんが一緒に持ってきてくれた自家製タレ。そして白ごはん。
「肉、タレ、白ごはん。まさに、真夏のキャンプという舞台で織り成されるバーベキュー三重奏!!
溢れんばかりの肉汁の前で、わたくしの舌は既にスタンディングオベーション状態であります!」
「急にどうしたの?気持ち悪いわよ」
気づけば、ギャル美の冷たい視線。
「すみません。………つい」
おかしいなあ、ウケると思ったのに。
女子はあんまりこういうのは好きじゃないみたい。
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