あれ? ビクトリーズ打線はやれるのでは?
バッターボックスには4番の赤ちゃん。
今シーズンはここまで、打率.265。7本塁打。43打点。うちのチームの選手としてはなかなか頑張っていると言える成績。ちと三振が多いというのは気になりますが。
恵まれてかつ、見事に鍛え上げられた大きな体格で、バットをさらに高い位置で構える打撃フォームで左打席に立つ。
なんとかここで1本。ビタッとしたヒットを放って、4番の仕事をして欲しいものだ。
変化球を続けて2つ。1ボール1ストライクとなった3球目。
アウトコースのストレートを赤ちゃんが流し打ち。
鋭い打球が、3塁ランナーである俺の可愛いおケツに直撃した。
なにしてくれてんねん。
「なんと! 赤月の放った打球が3塁ランナーの新井に当たってしまいました。ファウルボールですからアウトにはなりませんが、新井がお尻の辺りを押さえながら、ファウルグラウンドを徘徊しています」
「お尻でよかったですねえ」
よりによってライナーだなんて。なんで俺の方に打つのよ。真っ直ぐ打ち返しなさいよ。
痛い。立ち止まっていられない。
3塁ベンチ前で可愛いおケツをさすりながらウロウロしていると、スカイスターズの選手達に笑われた。
「ギャハハハハ! あれは痛いわ!!」
「新井くーん! 大丈夫かー!?」
などと、同じような反応がスタンドからも漏れはじめる。
2万人の人間に見られながらお尻をさするこの感じ。
興奮しちゃうぜ。
「大丈夫かい?」
「すみません、大丈夫です。ありがとうございます」
こんなところでも王者の余裕か。スカイスターズ側のトレーナーがわざわざ3塁側ベンチから出て来て、俺の可愛いおケツにコールドスプレーをシューシューしてくれた。
敵チームなのに、わざわざ。優しいトレーナーさんだ。
うちのトレーナーは、一体何をしているんですかねえ。
ちょっと悲しくなりながら、おケツを激しく擦りながら、とぼとぼと俺は3塁ベースへ戻る。
「新井は大丈夫なようですね。カウントは1ボール2ストライク。追い込まれました、バッターボックスの赤月です」
スライダーだ。スライダーしかないよ、赤ちゃん。
俺はそう叫んでやりたかった。
外野フライは打たれたくない。この局面、バッテリーが1番欲しいのは三振であり、外に逃げるスライダーで空振りを誘うつもりだ。
絶対ボール球にしてくるからね! 赤ちゃん、絶対手を出しちゃダメだよ!
「赤月にたいして第4球投げました! 外の変化球、見逃してボール。………一瞬赤月のバットが出かかりました。これで2ボール2ストライクです」
「もう1球、もう1球スライダーで勝負でしょうねえ。まだ1つボールを投げられますから。バッターの赤月はそのボールゾーンは我慢しながら、バットの届くところはレフト方向に打ち返したいですねえ」
サインを出したスカイスターズのキャッチャーが姿勢を低くして、ミットの先を折るようにして、またさっきと同じようなところを構えている気がする。
俺に背中を向けるようにしてセットポジションに入るピッチャーが1つ息を吐いて投じた1球。
低めにいきたいはずのボールが、ほぼど真ん中にすーっと入った。
カアンッ!
上体を大きく反らせるようにした赤ちゃんの豪快なスイング。下半身がグリンと周り、足元の土を弾き飛ばすようにしながら。
ココチヨイ乾いた打球音を残して、打球は痛烈な当たりとなってライト線へ。
ライン際2メートルほど内側に白球がポーンと跳ねて、あっという間にフェンスに到達した。
3塁ランナーの俺、2塁ランナーの杉井が楽々ホームイン。打った赤ちゃんもスタンディングで2塁に到達し、ベンチに向かって、白い歯を見せながら笑顔でマッスルポーズを見せた。
4番赤ちゃんの追い込まれてからの1打で逆転に成功したビクトリーズ。連敗脱出へスタジアム中が大いに盛り上がる。
さらに続く5番、パスタマン。
「打った! これもいい当たりだ!シェパードの打球が1、2塁間破っていきました!
2塁ランナーの赤月は3塁を回った、回った!ボールは返ってこない! ホームイーン! ビクトリーズ、5番シェパードのタイムリーヒットで1点追加! 3ー1!!貴重な追加点になります!!」
押せ押せムードの中、5番シェパード、さらには6番桃ちゃんにもタイムリーが飛び出してさらに1点。4ー1としたところで、相手の若手先発をKOする展開となった。
「東京スカイスターズはここでピッチャー交代です。今日がプロ初先発。3回までパーフェクトピッチングでしたが。
この4回に捕まりました。1番の新井にライト前ヒット、2番杉井にバントヒットを許し、3番阿久津のバントから、赤月、シェパード、桃白と3連打を浴びて、4失点でマウンドを降ります。初回に先制点はもらったんですが」
「立ち上がりから非常にいいボールを投げていたしたけどね。新井に投げたあのチェンジアップが不用意でしたかねえ。
今まで通りの攻めでよかったと思うんですけど、バッテリーはねえ。まだ1本もヒットを打たれていないというのをちょっと意識しずきましたかねえ。
それにこの回に限っては、左バッター3人に続けてタイムリーを打たれてしまいましたからかなりショックでしょうね」
「ああ、なるほど。新井のヒットがきっかけで杉井のバントヒットも大きかったですね。その後チャンスを広げて、左の3人。4番5番6番で一気に4点を取ったというビクトリーズの攻撃でした。
代わったピッチャーの投球練習が終わりまして、1アウトランナー1塁。バッターは7番鶴石が打席に入るところ。試合再開です」
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