つまんないとか言わないの
「ボール!!」
ファウルボールの後は外の低めに外れて、2ボール2ストライク。
そして5球目。
またしても速い球で、インコースの高めに食い込むようなボール。
俺は振り出したバットを止めつつ、仰け反るようにして避けながら、そのボールを見逃した。
「ボール!!」
3ボール2ストライク。
フルカウント。
ここまで全てストレート。
まだ1球も投げていない変化球は投げづらいはず。
いくら得意のスライダーといえども、それを投げてフォアボールにしてしまっては、その後に差し支える。
ここは多少強引にも、ストレートで力押しの配球をしてくるだろう。
そう考えた上では、それほどコーナーギリギリに来なければ、ファウルにするのはそれほど難しくない。
俺のノーパワースイング。力のある石浜のストレート。
高めにきたボールを俺が打って1塁側スタンドに入るファウルボールになる同じような光景が3度続いた。
そして9球目。
カンッ!!
「3塁線いい当たりだ!! サード飛び付くも届かない! ………ファウル! しかし、ファウルです!これは惜しい当たりでした、あと30センチ内側なら長打コースというところ!」
初めて引っ張った打球が芯を食って、3塁線へのいい当たりなファウル。
俺はこれでバッテリーを追い込んだと考えた。
「さあ、カウントは3ボール2ストライク。これまでは、バッテリーが新井を押し込んでいた状況でしたが、ちょっと空気が変わったでしょうか」
「変わりましたね。今までは、どちらかといえば新井君がなんとか凌ぐようなファウルの打ち方でしたが、今の1球は完璧に捉えましたからね。下手すれば2ベースになっていた打球でしたから、もうストレートは投げにくいです……さすがに変化球を使いますかねえ、いいスライダーがありますし」
よし、もう次で10球目。
次は変化球に違いない。もしど真ん中ストレートだったらごめんなさいだが、かなり高い確率でバッテリーは得意のスライダーを投げてくるだろう。
俺の考えはそう定まった。
問題は、ボールになるスライダーだったら、それを見極められるがどうか。
それにかかっていた。
「ピッチャー石浜、投げました!!」
それまでゴウン! と来たボールがギュインというボールに変わった。
つまりは、ストレートではないボールがきた。それは感じ取ることが出来た。
投げたコースは外いっぱい。しかし、そこからさらにアウトコースに曲がっていく。
低めストライクの高さだが、左打席の内側ラインを割るようにボールが通っていった。
見送った瞬間、俺は得意げにバットをポーイとベンチの方へ放り投げ、相手バッテリーに余裕を見せつけながら、ゆっくりと1塁へ歩き出した。
球審のボールコールが響いて、周りのスタンドから歓声と拍手が起こる。
よんたま、よんたま、よんったま。
思っていた通り、やはり最後の球は得意のスライダーだった。
ボールにするつもりではないのはもちろんだが、甘く投げるわけにもいかない。
微妙なコントロールが必要になる1球だった。
いくら得意とはいえ、今日初めてのスライダーをそんな状況のフルカウントで投げるのはやはり難しい。
外角に逃げる決して悪いコースではなかったが、それを見越していた俺のバットを振らせるまでには至らない。
もっと切迫した場面で投げられていたら振っていたかもしれないが、ファウルファウルでジリジリと粘って、スライダーを投げるならばここだろうという読みがあったから、しっかり見極めることが出来た。
初回先頭打者が、10球投げさせてフォアボールで出塁できたのは俺にとってもチームにとっても非常に大きい。
2個分。通常のフォアボールの2個分の価値があると俺は伝えたい。
バッティンググローブを外し、1塁コーチおじさんのアドバイスを聞きながら、ベンチからのサインを待つ。
監督がボソボソっと喋って、隣に立つヘッドコーチがパッパとサインを出す。
それを3塁コーチおじさんが経由して、1塁ランナーの俺とバッターの柴ちゃんにサインを伝達する。
ぜっ
たい
走っちゃ
ダメよ。
バント
だからね。
つまんない作戦だなあ。
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