切り込み隊長の新井さん3

「ストライク、アウト!!」



連城君の投げた真ん中高めのストレートに相手の3番打者のバットが空を切る。



「最後はストレートだ! 空振り三振!! 連城、初回を三者凡退! 見事な立ち上がりです!!」



三振を奪った連城君が、ポポンとクラブを2回叩きながら軽快にマウンドを下りて、キャッチャーの鶴石さんと何か会話をしながらベンチへと向かう。


彼を追い越していくようにバックを守っていた野手達が、ナイスナイスと連城君のテンポのいいピッチングを称える。


そんな彼のお尻は誰も触らない。



1番打者の俺はそんなことまでしっかりと確認しながら、急いで準備。グラブを置き、バッティンググローブをはめて、ヘルメットを被って、バットを持ってベンチを出る。


今まで使っていたヘルメットはグラウンド侵入おじさんにあげてしまったから、おろしたばかりのピカピカなピンク色のヘルメット。


ネクストのわっかの中でグリップにロージンをつけて、スプレーをしてぎゅっぎゅっと強く握って感触を確かめる。


顔を上げると、東京の先発ピッチャーがマウンドをならして、投球練習を始めるところだった。



ズドン!!


まずは8割くらいの力で投げたように見えるボールがキャッチャーのミットに収まる。


まるで爆弾でも投げたかのような重く低い捕球音。


球速は145キロほど。



しかし、どうしても打てないボールではないなと、俺はそう思った。





「1回ウラ、北関東ビクトリーズの攻撃は……1番、レフト、新井」


なんだか不思議な気分。


いつもは柴ちゃんの三振する打席をネクストで見て、一呼吸置いてから打席に向かうのだが。



チームの先頭。裏の攻撃とはいえ、初回先頭打者で向かうこの1打席目は不思議な気分だ。


いつもと違う緊張感がある。2番バッターの時よりも、ちゃんとやらなければという気持ちになる。



「よろしくっすー!」


いつもよりちょっとテンション高めになった俺は、キャッチャーと球審様に挨拶をする。


「新井くん、今日はどうして1番なの?」


マスク越しに相手キャッチャーが図々しく話しかけてきた。俺の集中力を乱そうという作戦か。



「どうしてだろうね。打てそうにもないから、とりあえずフォアボールでよろしくね」



そんなことをしてくるのだろうと予測はついていたから、俺は笑顔でそんな返事をした。



俺を惑わそうとしたら、異世界からやってきたサキュバスが誘惑してくるエロ漫画をホームベースに置く方が効果的ですよ。




「そう言ってちゃっかり右打ちでヒット狙ってるくせに。外には投げないからね」




相手キャッチャーはそう言いながらピッチャーの石浜にサインを出す。



頷く石浜。



オーソドックスなオーバースロー。深く踏み込んで唸るようなボールを投げてきた。



ズドッ!!



インコースのストレートだ。高さはベルト付近だが、コースはインコースいっぱい。キャッチャーの予告通りだ。



「ストライーク!」






「さあ、バッターボックスには今日1番として起用されました新井です。現在の打率はご覧のように、4割1分9厘です。 112打数47安打。………ピッチャー石浜、第2球を投げました! インコース外れてボール!」


2球目もインコースのストレート。初球よりは低いゾーンに来たが、ボール1個分さらに内側に入ってきた。



ボールを捕ったキャッチャーが惜しむことなくすぐにボールを投げ返した仕草からするに、初球ストライクから、同じコースに今度はボール球で誘ってきた。



焦って手を出していれば、どん詰まりの内野ゴロになるしかないような厳しいコースだ。


バッテリーは手を出して欲しかったのだろうが、あいにく今日の作戦は、相手先発の石浜に球数を投げさせること。


俺も当然その作戦に加担しなければならない。


少なくとも、追い込まれるまではバットを振るつもりはない。





カンッ!




ああん! そう言ってるそばからバットを出してしまった。



流し打つにはおあつらえ向きの、外のストレートだったんだもの。


一瞬スイングしようか迷った分振り遅れて、1塁側スタンドへのファウルボールに。



ちょっと! 外は投げないんじゃなかったの!? 首位のチームが最下位チームを騙すなんて。ひどいキャッチャーがいたもんだわ。

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