守護神を甦らせる新井さん2

そして次に見せたのは、去年のキッシー。


前のチームのユニフォームを着たキッシーがマウンドに上がり、バッターに対峙する。


今とは違って、ゆっくりと大きく振りかぶるダイナミックな投球フォーム。


今よりも踏み出す幅は小さめで、若干手投げな体の使い方だが、角度のあるストレートがズドンと決まる。


俺はこっちの方が荒々しくて好きだ。何より、右腕が体の後ろから出てくるように見える。


今ほど深くは足を踏み込まないから、立った状態の上半身から右腕がいきなり最高速でぐんと出てくるように見えるのだ。


実際に打席で、キッシーの球を見たことがあるわけではないが、10年前に彼が甲子園で活躍している姿は覚えているし、プロ2、3年目にストレートでぐいぐい押していたピッチングスタイルも記憶にある。


「…………そうか、1年でこんな変わってたんだな、俺は。ちょっとイメージと違ってたな」


タブレットを握りしめるようにして、キッシーが何度も何度も映像を繰り返す。


そしておもむろに立ち上がって、部屋の鏡に向かってタオルを振り始めた。







「…………こう、もう少し、こうだったか、去年のは」


結構集中してシャドーピッチングをやり始めたので、俺は黙って彼の部屋を後にした。






そして翌日。再び北海道フライヤーズとの試合。






「1回表、北関東ビクトリーズの攻撃は、1番。センター、柴崎」


札幌・仙台シリーズもいよいよ最終戦。今日はなんとか勝って6連戦を締めくくり、宇都宮に帰りたいところだ。


試合は始まり、柴ちゃんが打席に入り、俺はネクストで相手ピッチャーのタイミングを計りながらバットを振る。


カアンッ!


初回先頭打者の初球。柴ちゃんがアウトコースのストレートを叩くと、打球は三遊間。


飛び付くショートの横を抜けてレフト前ヒットになった。


俊足の柴ちゃんが転がる打球を見ながら、1塁キャンバスへと走っていく。


モデルみたいに美人な彼女と仲直りしてからというものの、一時2割2分まで落ち込んだ打率をまた最近持ち直してきた。


なにより、打席で積極的にバットを振るようになった。


しかし、初回先頭打者で、俺にとってはまだ対戦したことのないピッチャーが多いんだから、少しは球筋を確認させて欲しいものだが。


ノーアウトランナー1塁では、俺には100%バントのサインしか出ないし。


ベンチのおじさん達は、まだ4割を越えてる俺の打率を知らないんですかねえ。





「新井はバントしました! 1塁線ギリギリボールが転がって、ファースト金次捕って、新井にそのままタッチ! アウトです、1アウトランナー2塁にかわります。きっちり1球で決めました、新井です」


「この選手はバントが上手いですねえ。高めのストレートでしたけど、しっかりボールの勢いを殺してねえ、1塁線いいところに転がしましたよ」





「新井、ナイバン!」


「はい、どーも、どーも」


「新井さん、ナイスバントっす」


「はーい」




ベンチからのサイン通り、文句も言わずにきっちりとバントちゃんを決めまして、はいどーもどーもと言いながらベンチに戻り、所定の位置でよっこらしょと腰を下ろした瞬間に、阿久津さんの快音が聞こえた。



「阿久津も初球打ち! 打球は広く開いた三遊間、破っていきました!柴崎は3塁を回る、回る…………ホームイーン!ビクトリーズ、わずか3球で先制点!3番阿久津のタイムリーヒットです!」

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