守護神を甦らせる新井さん1
実はさ、今日もキッシーが打たれたでしょ? だから唯一の同い年である俺がちょっとお酒でも持って励ましにいってさー。
などとかくかくしかじか、ふにゃふにゃもみもみあるわけですよと、小娘に説明した。
ちょっとそこに見えるスーパーまで行かしてくれないなら、それこそ君をふにゃふにゃもみもみさせて頂きますと小娘を脅した。
「分かりました。じゃあ、私も着いていきます」
ええって、着いてこなくて。めんどくさいなあ。
と思ったが、どうしたわけか、彼女の信頼を勝ち得ていないようなので仕方ないな。
ともかく、彼女を引き連れて、他のチーム関係者に見つからないようにホテルを出た。
「新井さーん! このお菓子も食べたいでーす!」
「しょうがないなあ」
「新井さん、これもー!」
「はいはい」
「あ、これも美味しいんですよー!」
「いいよ、入れて」
「新井さん、これは?」
「好きなだけ買ってやるわよ」
そんな調子で、缶ビールが軽く埋まってしまうくらい、小娘にねだられたお菓子で買い物かごはいっぱいになってしまった。
コンコン。
スーパーマーケッツから帰還して、買ってあげたお菓子を受け取ってホクホク顔の小娘を放置して、キッシーの部屋のドアをノックする。
「なんだ、お前かよ」
「よう、ちょっと入れてくれよ」
キッシーはジャージ姿でドアを開け、俺の顔を見てうんざりした様子だ。
どうしてだろうか。
ともかく、部屋には入れてくれたので、サヨナラ負け投手のくせに、俺よりちょっとだけいい部屋が割り当てられている事実にイラッとしながらも、堂々と俺の部屋にはないソファーに腰を下ろす。
そしてビニール袋の中身を出す。
「まあ、飲めよ。いろいろ買ってきたからよ」
テーブルの上に、缶ビールや缶チューハイを置かれるのを見たキッシーの顔が歪む。
「お前、酒買ってきたのかよ。外出していいと思ってんのか?」
「まあ、キッシーが打たれなければ堂々と買いに行けたんだけどね」
「………」
イエーイ!黙らせたぜえ!!
「まー、簡単に言うとね。去年までの投球フォームに戻せや、ボケェ! って言いに来たのよ」
「なんだよ、それ」
缶ビールの2本目を空けながら、俺はキッシーにズバリと言ってやったのよ。
やったった、感じだね。いつもヘラヘラしてるだけってよく言われるけど、俺だって言う時は言うのよ。
そして、言うだけでもないのよ。
「というわけでキッシー。球団から配布されてるタブレット出してみ」
「あ、ああ」
キッシーはなんだ今さらみたいな顔をしながらも、キャリーケースの奥から選手1人1人に配布されているタブレットPCを取り出す。
そして、その中のファイルにキッシーのマル秘と表記されたファイルがある。
試合が終わった直後、スコアラーに頼んで、とある編集された映像をオーダーしていたのだ。
キッシーがそのファイルを開く。
そこには、対右左打者別にまとめたキッシーの投球フォームをまとめた試合映像があった。
まずは対左打者。セットポジションのキッシーが高く左足を上げ、ぐっと上で力を溜め込むようにして、大きく踏み込み、投球する。
低めいっぱいに速いストレート。バッターのバットが空を切る。
続いて、得意のフォークボール。左足を上げ、ぐっと上で力を溜め込むようにして、大きく踏み込む。ストレートとまったく変わらない投球フォーム。
バッターから見れば、ストレートと思ってスイングすると、ストンと消えたような感覚に陥る。
映像の中のバッターもワンバウンドしたフォークに空振り三振を喫する。
左打者にたいしてのキッシーは素晴らしいピッチングを見せる問題は右打者だ。
ファイルの映像が切り替わり、右打者が打席に入る。
キッシーが右打者に対して高く足を上げ、ぐっと力を溜め込んで、大きく足を踏み出す。
問題はここにあった。
左打者の時と同じように、低めいっぱいにいったストレートが簡単に弾き返される。
フォークボールも。空振りを取れるはずのコースを簡単に見逃され、少しでも甘く入れば簡単に外野まで運ばれた。
「………」
理由は明白。
ギリギリまで大きく踏み込む今の投球フォームは、右打者から見ればボールがあまりにも見やすい状態にあったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます