愛の告白をする新井さん。

「いやー、打球はレフト線長打コースでしたが、計ったようにビクトリーズのレフト、新井がライン際ギリギリを固めていた形でした。これでは1塁ランナーの丘島といえども、ホームには返れません」


「打った瞬間はね、サヨナラかと思ったんですけどねえ。新井君の予測といいますか、守備勘ですねえ。自分の方に飛んでくるなら、左中間よりもレフト線だと思ったんですねえ」


「それはどういった点で新井は予測したのでしょうか」


「まずはバッターですねえ、引っ張るのが好きな選手ですし、前2人の右バッターにストレートを打たれていましたから、今打ったのもフォークボールでしたからねえ。タイミングがかなり早めになると予測したんですねえ。勇気がいる守備位置でしたが、チームを救いますよ」









今のはなんとかなったけど、9回2アウトとというところで同点に追い付かれてしまった。


しかもまた打席には外国人。今度はメキシコ人。プロ野球最重量の体重140キロの右バッターだ。





その巨漢が放つパワフルなスイング。それがキッシーのボールをバチっと捉える。





「初球打ったー!! 左中間だー! レフト、センター諦めたー!!レッドイーグルス、サヨナラー!!」


オワタ。



キッシーが投げて、体重140キロのメキシコ人が打った瞬間、レフトの俺は/(^o^)\こんな感じになった。


スタジアム宮城の左中間に高々と上がった打球は、俺と柴ちゃんの頭の上を越えて、フェンス直撃。


3塁ランナーが飛びはねながらホームインしてサヨナラ負け。


早くもこのスタジアムで2回目のお祭り騒ぎだ。


センターの柴ちゃんはもうベンチに引き揚げていってしまったので、左中間の1番深いところに転がったボールをめんどくさいが一応拾いにいく。




「ボールちょーだーい!」


フェンス際まで行くと、レッドイーグルスファンの少年がフェンスに身を乗り出して両手を伸ばしてボールを欲しがっていた。


俺は拾ったボールをポイっと少年のグラブに投げ入れる。


「ありがとー!!明日は頑張ってね」


ボールを受け取った少年は、笑顔でそう言い残し、ダッシュでスタンドの向こうへと走っていった。


明日はねえ。


頑張りたいけど、まずはうちの守護神をなんとかしないとなあ。




サヨナラ負けの試合後、ホテルに戻った俺は外出禁止制約の中、ホテル近くのスーパーへの買い出しを試みる。


部屋の中からこそーり。部屋の外をこそーり。


エレベーター前でこそーり。エレベーターの中でもこそーり。


エレベーターが開いてこそーり。


そして、出入口まであと1歩。ロビーでは匍匐前進で回転扉まで向かっていたのだが。


「あ、新井さん!?」


見つかってしまった。よりによって、チームスタッフの小娘に。


「どこに行くつもりですか!? 今日は外出しちゃダメなんじゃ………むぐぅ」


俺は立ち上がり、彼女のお口を手で塞ぐ。


「しーっ。声がでかい。これは違うやつなんだよ。そんじょそこらの外出じゃないの。分かる?」


俺がそう言うと、小娘は首を横に振った。


ちっ。空気読めよ。チームのためなんだから。


こうなったら仕方ない。奥の手を出すしかないな。




「俺、実は………君のこと大好きだから」


小娘の目が大きく開いた。


「ほら君ってすごく仕事熱心だし、選手1人1人にちゃんと気を使えるし、気が利くし、明るいし、細かいところまで気が回るし、試合前から誰よりも早く準備初めて、チームの為に頑張ってるし、なにより可愛いし。もう君がいないと俺はやっていけないって感じ。…………だから、分かってくれるよね?」


俺はそっと、彼女の口から手を離した。


すると彼女は………。


「あなたの目に真剣みがありません。私のことが好きだなんて、嘘ですね?」


そう言ってきたので………。


「うん、嘘だよ」



俺は正直にそう答えた。




もう、新井さんのバカァ!と、ぽかぽかパンチでもしてくれれば可愛いのだが。



ボゴッと俺の可愛いおケツに蹴りを入れてきやがった。


「新井さん、いくら外出したいからって、そういう嘘のつき方するなんて最低です」


じとっした目で彼女は俺をにらみつける。


その視線がたまらない。

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