守護神を甦らせる新井さん3

初回のチャンスに阿久津さんも初球打ち。


2塁ベースカバーに入っていたショートの左を破り、打球はレフトへ。


2塁ランナーの柴ちゃんがもちろんノンストップで3塁を回って一気にホームイン。


幸先よく先制点を上げた。



調子に乗った4番の赤ちゃんも初球を打ってセカンドゴロゲッツーとなり、4球でチェンジとなり、ええー……みたいな雰囲気になったが、昨日のサヨナラ負けを取り返すように、ビクトリーズはビジターの仙台で積極的な野球を披露する。


2回には7番鶴石さんの犠牲フライ。5回には5番シェパードに久々の1発が飛び出し、同点に追い付かれた7回には、8番守谷ちゃんのスクイズで勝ち越し。


1点リードで、8回裏。ビクトリーズ唯一の勝ちパターン、信頼のセットアッパー。リ・ロンパオがマウンドに上がった。





そのロンパオがマウンドに上がったまではよかったのだが、この台湾人がやらかしてくれたぜ。


先頭打者に1球も入らず、いきなりストレートのフォアボール。


次打者にはストライクを取りにいったど真ん中のボールを簡単にヒットにされ1、2塁。


さらに意表を突かれたセーフティバントをロンパオがポロリとこぼしてノーアウト満塁。


それで完全に冷静さを失ったロンパオはバッターの背中にぶち当て同点の押し出しデッドボール。


そこでピッチングコーチがマウンドに現れ、監督がピッチャーの交代を告げた。




「北関東ビクトリーズ、ピッチャーの交代をお知らせします。リ・ロンパオに代わりまして、岸田。ピッチャーは、岸田。背番号21」



うわあ。キッシーが出てきちゃった。こっから右打者2人なのに。


終わりだあ。





と、思っていたのだが。


なんだか様子がおかしい。


キッシーの投球フォームが明らかに変わっていた。


「8回裏、同点に追い付かれ尚もノーアウト満塁という1点もやれないマウンドには悩めるストッパー岸田が上がりました。このところ、本来のピッチングが出来ていませんが、この絶体絶命の場面での登板になりました」


「他にピッチャーはいませんからねえ。いくら状態が悪いとはいえ、今の手薄なブルペン陣では彼を使うしかありませんから。しかし………今日の彼はちょっと違うかもしれません」





あれ? キッシーがなんか違うなあと思ったら、腕を横から出してやがる。


サイドスロー?


昨日までは普通に紛れもないオーバースローだったのに。


ベンチの首脳陣達もなんだかざわざわしている。


まさか、ピッチングコーチにも相談しないで勝手にフォームを変えちまったのか、キッシーは。



ノーアウト満塁、そのキッシーは臆することなく、最近打たれまくっていた右打者に対して開き直るように、思い切り投げ込んでいく。


投球練習そのままの、サイドスローで。


いきなり、ボールボールでカウントを悪くしたが、アウトコースのストレートで1つストライクを取ると、次は同じコースからボールゾーンに曲がるスライダーで空振りを奪い、2ボール2ストライク。


そして、5球目。



「もう1球スライダーだ! バッターはハーフスイング! キャッチャー鶴石が1塁塁審にリクエスト! ………スイング!! 三振! まず1アウト!」


追い込んだから、最後は得意のフォークかと思ったら、またスライダー。


意表を突かれたバッターのバットが回り、空振り三振。


まずは貴重なアウトを1つ奪った。


そして、次も右を打者。ミートヒッティングが上手い巧打者だ。

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