お嬢さん方、聞こえてますよ。

ヘッドコーチに囁かれて腕を組んで戦況を見つめたまま考える監督だったが、俺の方を見て手招きした。


ヘルメットをかぶり、バッティンググローブをはめて、バットを持って監督の元へと向かう。


側によった俺の肩に手を回す監督。


「お前、バントは出来る?」


「監督。俺に出来ないのは、150キロのボールを投げることと、場外ホームランを打つことですよ」


俺がそう言ってやると、監督はなんだこいつ!? みたいな表情を浮かべた。


「………もし浜出が出て1、2塁になったら、バントな。それ以外は自由に打て」


監督はそう言って、俺の背中を叩いてグラウンドへと送り出す。


ベンチから出ると、最後の攻撃に声援を送るファンの歓声と熱気がすごい。


ネクストバッターズサークルにやってきて、素振りをしたり滑り止めスプレーをしたりして、落ち着いたフリをしていても、自然と体と気持ちが高ぶる。


みのりんやマイちゃん。山名さんも応援に来ているんだ。


同時に3人が俺に惚れるような活躍をみしてやんよ。


「こらー!あんた、絶対にサヨナラにしなさいよ! 打たないとコロすから! チョー、ウケるから!!」


あ、なんかスタンドからギャル美ちゃんの声がする。


「マイさん! そんなにネットにしがみついたら怒られますよ! それにこの歓声じゃ新井さんに声は届きませんし」












届いとるわ。






ありがとよ。









「8番セカンド、浜出」


アナウンスされ、浜出君がバッターボックスへと向かう。


1回2回と素振りをして、3塁コーチャーのサインを見る。


3塁コーチャーは、帽子のつばを触ったり、あご触ったり、いろいろしていたが、俺は大変なことに気付いた。


1軍のサイン教えてもらってない!!


嘘だろ。試合始まる前に誰か教えてくれよ。そんなことあんのか。サイン知らないなんて。


そうこうしている間に、浜出君が左バッターボックスに入ってバットを構える。


しかし、サインが分からないといっても、さっき監督は、1、2塁になったらバントしろよと言っていたからな。


浜出君にバントはないか。



まあ、浜出君にバントさせて、俺の1打にかけるなんてしないだろうしな。監督やコーチ陣は俺のこと全然信頼してないし。


セオリーでは1点取ればサヨナラなんだから、相手に守りづらくする意味でもまずはバントして1アウト2塁してもいいと思うんだけど。


浜出君がパキーンとツーベースでも打ってくれれば、俺が1撃で仕留めてやんよ。


「浜出打ちました! 高いバウンド!ピッチャーの頭の上越えました! ショート平柳がバックアップして1塁へ送球!! ……………浜出ヘッドスライディング! ……………セーフ! セーフです!!」



うわあ! 浜出君! 1、2塁じゃねえかよ!!なにしてくれてんねん!


「ビクトリーズ!!ノーアウト1、2塁! サヨナラの絶好機です!!」

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