か弱い女の子かのように投げられた。

「オッケー!桃ちゃん、ナイバッチ!!」



またしても快音。2番打者である桃ちゃんの打球が青空に向かって高く舞い上がる。


ライト線へと上がった打球、ポールをギリギリ巻くようにして、スタンド中段へと落ちた。


初回にいきなりツーランホームランだ。


ホームランと分かった瞬間、ベンチがわあっと盛り上がり、1塁を回る桃ちゃんは右手で小さくガッツポーズした。


その桃ちゃんがダイヤモンドを1周し、ベンチまで帰ってくると、みんなハイタッチで出迎える。



列の最後に彼を待ち構えていた俺は、ハイタッチするフリをして、ユニフォームを掴むとと、そのまま大外刈りを決めるつもりで持ち上げたのだが………。



「あ、あら〜! 桃ちゃんたら、力持ち〜」



「新井さん、まだまだ甘いですね。腰が入っていませんよ」



逆に技を掛け返され、そのまま地面に優しく投げ捨てられた俺。


「こらぁ! 新井、なにやってんだ!! 早くベンチに戻れ!!」


怒号が聞こえたかと思うと、何コーチかも知らんコーチが俺の首ねっこを掴んで、さらにベンチの中へと放り投げたのだ。


一体、俺が何をしたというのだろうか。



「3番、サード、中林」



いくら体格差があるとはいえ、完全に虚を突いたのに全然びくともしないとは。


今、手にしている今年度版のプロ野球選手名鑑によると、身長182センチ体重80キロと桃白君はなかなかの恵まれた体格じゃないか。



それにひきかえ俺は身長171センチ、体重65キロですからねえ。桃ちゃんの体を全然持ち上げられないとなりますと、まだまだトレーニングが必要だなあと。こんなしょーもないところで実感する俺であった。



まあ、しかし。あのインコースの厳しいボールをホームランにするなんて、彼は早く1軍に上がった方がいいんじゃない?


同じ外野手で、ドラ9の柴ちゃんは1軍のオープン戦に出てるし、今日は浜出君も1軍に合流したし。


今みたいなバッティングが出来るなら、十分1軍で通用すると思いますよ。


それに、桃白君が1軍に上がれば、俺が外野の1角でスタメンに名を連ねることが出来るかもしれないしね。


しかし、おかしいぞ。


この選手名鑑に俺がいねえじゃねえか!



おいおい。この選手名鑑おかしいよ。


俺がいないじゃないのよ。


12球団ごとに記載されていて、北関東ビクトリーズはその1番後ろにあるわけだけど。


まずは、チームの所在地やホームスタジアムの情報なんかが色々と書かれていて、まずは1軍監督、1軍のコーチ、2軍の監督、2軍コーチと並んだ後。


投手、捕手、内野手、外野手が背番号順に並んでいるのに、その中に俺の名前が写真がないじゃない!


俺は外野手登録で、背番号64だから、外野手の欄の1番最後にイケメンである俺の写真があるはずなのに。


背番号60の柴ちゃんで終わってしまっているじゃないの。


これは一体どういうことよ。


俺は試合なんかそっちのけで、選手名鑑片手にしばらくの間、ベンチの中で騒ぎ、発狂しまくっていた。


「おい、新井!いい加減にしろ!」


またしてもベンチの中にコーチの怒号が響く。いたいけな可愛いルーキーに向かって、いい加減にしろ!とは、一体どういう了見だろうか。


初めてのプロの試合だから、緊張して我を忘れていただけなのに。




おこりんぼなコーチおじさんだこと。



ともかく、幸先よく2点を先制したので、積極的に!積極的にぃ! と、声を張り上げるも、その後はテンポよくアウトを3つ取られ、あえなくチェンジとなった。


「よし! しっかり守っていきましょう!」


「おう、簡単に点取られんなよ!!」


チェンジになると、そんな声が自然と聞こえ、選手達はわりと元気にグラウンドへと散っていく。


俺も、グラブとボールを持って、レフトを守る選手とのキャッチボールをするためにファールグラウンドへと出ていった。

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