みのりんは何処ですか?

両チームの試合前の練習時間が終わり、控え選手も手伝いながらのグラウンド整備が終わると、審判が4人ぞろぞろとバックネット裏から現れ、色々確認作業が行われ、メンバー表交換もされて、なんとなく試合開始の流れとなる。






はっきり言って、まだ2軍の空気感の中ではさえ、プロ野球慣れしていない俺の緊張感が嫌がおうにも高まってくる。




別にスタメンでもないのに、心臓はバクバク。






そんな中、ウグイス嬢の透き通るような声が場内に響き渡る。










「守ります、北関東ビクトリーズ。ファースト大沼。……セカンド仁村。サード……」




後攻であるうちの選手達は、自分の名前を呼ばれると、駆け足でそのポジションへと散っていく。






俺は、グラウンドに片足を踏み込むようにしながら、よっ! とか、おっ! とか適当にそんなことを言って盛り立てております感を出しながら、チラッと客席を見渡して山吹さんの姿を探す。






眼鏡の地味子。ちょいカワの眼鏡の地味子はどこじゃい!






1塁側のスタンド。3塁側のスタンド。






観客なんて150人いるかいないかのガラガラ。






いればすぐに見つけられるはず。








バックネット。外野の方のスタンドにも目を凝らしてしたが、彼女の姿がまだどこにも見当たらない。








本当に来てるのか?





おい、山吹さん! どこや!俺のみのりんはどこで試合を見てるんや!






俺はベンチの端から、時にはたまにファールグラウンドに出てみたりしながら、愛しの山吹みのりんを探してみるが、一向に彼女の姿が見当たらない。






「…………」








なんだか、同じベンチの反対側から視線が感じるなあと思ったら、2軍監督が俺を睨み付けていた。






既に2アウトを取っていた味方にたいして、俺は慌てて手を叩いて声援を送る。








「よっしゃあ! いいよ、いいよー! 2アウト、2アウト!! ヒャッホーイ!! ほらほら、お前らも声出しとけ!」




ベンチで待機する他の選手達も引き込みながら、椅子から立ち上がって、グラウンドに向かってさらなる大声を出し続けた。








「ストライク!バッターアウト!!」








味方のピッチャーが追い込んだバッター相手に、外側いっぱいの変化球で見逃し三振を奪ったのを見て、俺はよいしょー! と叫びながら、ベンチから飛び出し、帰ってくる味方の選手を出迎えた。









見事3者凡退に切って取ったピッチャーを褒め称え、アウトを取った野手にいいプレーだ!次も頼むぞと、拍手をしながら、ファールグラウンドまで出て彼らを迎える。








そこそこ年上の選手もいるが気にせずに、その先輩のおケツももれなく叩いて次の攻撃へ向けて弾みがつくように、まずは先制点を挙げられるように盛り立てた。






全員が戻って来たら、ベンチの中でも声を張り上げ、攻撃に向かう仲間を鼓舞する。








でも、もう喉が痛いです。












うちの1番打者が左打席に立ち、バットを構える。ベンチの1番前に立ち、身を乗り出すようにして俺はグラウンドを見つめる。




カンッ!!






1回裏。先頭打者。その初球。乾いた打球音が響き、打球はライト前に弾んだ。






ヒットを打ったバッターは打球を見ながら意気揚々と軽い足取りで1塁に到達する。




200人かそこらの観衆からもおおーっと、野太い歓声が上がり、パラパラと拍手も聞こえる。




俺も手をバッチンバッチン叩きながら、ヒットを打った1塁ランナーに右の拳を上げた。








「2番ライト、桃白。背番号35」










ウグイス嬢にコールされて、俺と同じ社会人ルーキー、ドラフト6位入団の桃白が打席に入った。

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