ようボウズ。いいバット持ってんじゃねえか。
という談話集をプロ野球速報のアプリで発見したわけだが、聞いてくれたかね。
うちの監督は、1軍2軍問わず全ての選手にチャンスを与えたいと、そう言っておりましたよ。
ということはあれですね。
俺にもオープン戦が行われているうちに、どこかで出番を頂けると、そういうことですよね。
もちろん、1軍のオープン戦ですよ。
今日、2軍の知らんコーチに、お前はあと2、3か月は少なくとも試合には出さんとか言っていましたけど、オープン戦が終わるまでに最低1回は打席に立たせてもらえると、そういうことですよね!
これでもし、お前は全然体が出来ていないから例外だ!みたいなことを言われたら、そんときは本気で暴れまわりますからね。
3月10日。
プロ野球の新シーズン開幕まで、あと20日を切った。
毎日のように、2軍の練習場に入り、ロッカーで着替えをして練習の準備をしていると、色んな選手が出入りしているのがよく分かる。
あ。2軍にいた若手のピッチャー2人のロッカーがキレイに片付いているなあと思ったら、結果を残せなかったような顔をした見慣れないピッチャーが2人、2軍の練習場にやってきたり。
練習前に覗いたベンチ裏のバッティング練習の順番表に、新しい名前があったり、昨日まであったはずの名前がなかったり、意味深に順番が大きく変わっていたり。
コーチが何やらこそこそと物陰に隠れて誰かに電話をしていたり。
そして、ケガをした様子の野手が1人、とぼとぼとクラブハウスにやって来たり。
登録抹消公示を見なくても、誰が1軍に上がり、誰が2軍に落ちてきたのかが、なんとなく理解出来るのだ。
毎日朝早くから2軍の練習場に顔を出していると、結構些細な違和感や変化に気づいたりする。
俺自身は、全然上からお呼びが掛からないみたいだけどね!
オープン戦も残り少ないのに、1軍どころか、2軍のコーチからも特に何も言われない。
そんなわけで、今日もイライラしながら、眼鏡さんにガッカリされないように、汗水流して真面目には筋トレをしていたわけだけども、一通り終わると気分転換がてらに、地下のトレーニングルームからグラウンド出てみたりする。
するとグラウンドでは、昼飯終わりの午後イチの時間で、フリーバッティングをやっていたようだ。
2軍の野手陣の何人かが、バットを持って、ホームベース付近に設置されたゲージの周りにたむろっていた。
その中に、まだ垢抜けない顔を見かけたので、後ろから近付き、ヘルメットを奪って、坊主頭をぺしっとはいてやった。
そいつは咄嗟に叩かれた頭を押さえて俺の方へと振り返る。
「あ、新井さん! お疲れ様です!!」
色黒の坊主頭がニカッと笑う。
「新井さん、これからまた坂道ダッシュすか? 大変すね!」
彼の名前は浜出圭太(はまでけいた)。俺と同じく、去年のドラフトで指名された高卒内野手だ。
今年で28になる俺と10コ違いの、18歳。
高校時代は、神奈川の名門校の2番打者として3度も甲子園に出場した機敏な守備な売りである期待のルーキーだ。
「ちょっと、新井さん! バット返して下さいよ!」
おい、兄ちゃん。いいバット持ってんじゃねえかよーと言いながら、彼のバットをにぎにぎ。
俺はドラフト10位だが、浜出君は7位。
契約金も年俸も、俺より僅かに高いが何が許せないって、いっちょまえにオーダーメイドのバットを持っている事だった。
イメージ的に、俊足好打且つあっと驚くパンチ力を持っている左打者しか持つことを許されない、赤いバットを持っているのだ。
あくまで、俺のイメージだが。
まあ、それはともかく。俺はお金がないから、用具係のところまで行って、用紙に新井・バット3本って書いて、でかい段ボールから支給品のバットを取り出して頂いているというのに。
ドラフト7位の高校生が入団1年目でバットを1からオーダーメイドしているなんて。
この敗北感というか。喪失感というか。
これは人生の先輩として可愛がってあげないといけないわね。
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