足が速いって得ですわ。目立ちますもの。
「次は新井と柴崎だな。位置につけ」
順番は結構最後の方だった。トライアウトのまず1発目は2人1組で50メートル走が行われる。
後ろからずっと見ていた感じ、うわ!こいつ、遅っ!!みたいな奴は1人もいなかった。ちょっとプレッシャーだ。
一応高校の時は6秒2くらいだったけど、今はどうだろうか。50メートル走なんて久しぶりだ。
「よーい…………ピッ!!」
少し足が滑りスタートに若干失敗したけど、すぐに体勢を立て直す。
体が軽い。足がガンガン動く。地面を蹴る度にグングン加速しているのがよく分かる。
しかし、隣の奴がめちゃめちゃ速い。
スタートダッシュですぐに置いていかれ、あっという間に差をつけられた。
「はあっ、はあっ、はあっ………」
「柴崎5秒78! 新井6秒28!」
くそっ。俺のタイムはまあまあだったのに。
なんだよ、5秒7って。プロ野球でもトップクラスじゃねえか。
ふざけやがって。なんでよりによってそんな奴と一緒に走んなきゃいけないんだよ。
「よし。全員50メートル走は終わったな。次はホームベース裏からセンターに向かって遠投を行う」
次は遠投か。わりと肩は強い方だけど、トライアウトを受けにくる野球選手で遠投が苦手なんてやつがいるわけもなく。
参加者達は己の強肩を見せ付けようと、大きく助走を取り、次々とセンターのバックスクリーン近くまでボールを飛ばす。
俺も今までのフリーター人生で溜まりたまった何かをボールに全て込めたが、記録はそれほど特に目立ったものでなかった。
中にはバックスクリーンに放り込む奴もいたな。110メートルは投げた事になる。
さっきの50メートル走もそうだったけど、身体能力ならプロ並みって奴はゴロゴロいるんだよな。
高校大学はレギュラーでもあと1歩力が足りなくてドラフトに掛からなかったみたいな。
そういう奴の集まりだからな。
体格でも負ける相手に体力勝負では俺が勝てるわけがない。
「よーし。これからシートノックを行う。3つのグループに別れてそれぞれ30分程やる予定だ。手の空いているうちに昼食も済ませるように」
ホワイトボードに書かれた表には俺は2番目のグループでノックを受けるようだ。
ベンチで軽くメシ食べよう。
「横座っていいすか?」
あ。50メートル走で一緒に走った柴崎か。敵だ。敵。
彼は俺の承諾を得ると、すぐ横で弁当の包みを開ける。
可愛らしい袋から出てきた大きめの弁当。だし巻き卵にピーマンの肉詰め。ほうれん草のごま和え、カットフルーツ。
手作り感満載の美味しそうな弁当だ。どうせ母親だろ? 母親なんだろ?
「彼女が作ってくれてさー。トライアウト行くなら気合い入れなきゃダメだって、持たせてくれたんすよー!」
柴崎はご飯を頬張りながら、にやけ顔で嬉しそうにそう話す。
ちきしょう。彼女手作りの弁当だと? ふざけやがって。絶対こいつには負けたくない。
俺はそう心に誓いながらコンビニで買っておいた焼き肉弁当をかきこむように食べていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます