電子レンジが欲しいですわね。

さっさと弁当を掻き込み、さらにパウチに入ったグジュグシュのゼリー飲料を一気に飲み干す。


さらには景気づけに種を抜いた真っ赤なカリカリ梅をガリゴリとあっという間に完食した俺は、コンビニの茶色の弁当袋にゴミを入れ、口を固く縛り、バッグの中に押し込むと、グラブを持って立ち上がった。



そして足の速いツンツン頭に話し掛ける。



「ちゃちゃっと肩慣らし始めようぜ」



「キャッチボールすか?いいっすよ!ちょっと待って下さいね」


彼は食べ終わり掛けていた彼女が作ったという弁当の蓋を締め、包んでいた花柄の布をそのままもじゃくるようにして、無理やりセカバンの奥に押し込む。


そして、残っていたドリンクを飲み干しながら立ち上がり、左利き用のグラブを手にして、キャップを被りながらベンチを飛び出した。



ベンチを出て少し外野の方にいったところで距離を取り、早速ボールをツンツン頭に投げつける。


「なんだよ、いきなりボールつええっすよ。寒いんだから、肩は大事にした方がいいっすよ!」


さっきの弁当の件で彼が憎たらしくなったのだ。そう言われても尚、さらに速いボールを投げ付けてやった。


柴崎は右手にはめたグラブの中にかろうじて収め、左手にボールを持ち替えてゆっくりと投げ返す。


「へい! サード! サード!」


「セカンド! もう1丁!!」


グラウンドでは、1組目に分けられた選手達がアピールしようと、それぞれが精力的に声を出して、白球に食らい付いている。


ある者はボールを飛び付いて止め、ある者は矢のような送球を披露している。


しかし、このシートノック自体に大した重要性がないのだろうなと、俺は考察する。


何故なら、60人いる参加者を3つに分けたところで、全員の正しい守備力を把握する事は極めて難しいからだ。



15分程経ち、いい具合に肩が温まってきた頃、2組目の集合がかかる。


ぞろぞろとベンチの中から20人程の選手が集まる。


「私が2組目のノッカーを務める。声出さない奴には打たないからな。全員で元気出してやろうぜ」


全員の真ん中でそう言ったのは、ビクトリーズのユニフォームを着た。40過ぎくらいの男。恐らくは2軍のコーチなのだろう。背中のネームを見てもあまりピンと来なかった。


「ありがとうございました!!」


「よし、行くぞ!」


1組目の最後の選手が脱帽し、ノッカーのコーチの合図で、2組目の選手がどっと飛び出していく。


俺も置いていかれないように、レフトのポジションへ全速力で向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る