消えてしまった小さな命
けれど、それから数日後。
咲にとって、絶望的な事態が起こった。
突然の出血。
止まらない鮮血。
下腹部の痛み…。
流産だった。
そのまま産婦人科に行ったが、「進行性流産」で手の施しようもなく、翔の赤ちゃんは流れてしまった。
もう、生きる望みもなくなった。
咲の心を繋ぎ止めていた唯一のものが、消えてしまったのだから。
咲は全てを忘れようと、まるで人が変わったみたいに色んな男と付き合って、また取り替えては捨てる、を繰り返していた。
誰と付き合っても、咲の心の空洞を埋められる男なんて、翔以外にいるはずがなかった。
ただ、咲からは「笑顔」が消えてしまっていた。
咲が笑う事はもう二度となかった....。
けれど、とにかく咲はモテた。
それだけは翔と付き合ってた時と、何も変わらなかった。
いや、翔の守りがなくなった咲を、全ての男が狙っていた。
咲はそれを充分承知で、交際を求めて来る人を、誰ひとり拒む事なく受け入れた。
翔以外の男の人なんて、咲にはどうでもいい存在でしかなかった。
時にはひとりじゃなく、多い時で4,5人同時に付き合う事もしばしばあった。
けれど…。
誰と付き合っても、翔といた時の様な楽しさは感じなかった。
ただ、虚しいだけのものだった。
咲は知らない内に、心の中で翔と比べる癖が付いてしまっていた。
翔と別れた後も、翔の影を追い続ける哀れな女に成り下がった咲。
どんなに探しても、翔の様に本気で好きになれる男などいない。
それが、咲が導き出した答えだった。
一方咲と別れるきっかけになった女の子。
名前は理恵(りえ)と言った。
翔のひとつ上で、咲に「先輩」と言ったのは、あながち嘘でもなかったのだ。
ただ、咲と一緒に街を歩いてた時に、たまたますれ違った時に、翔から声を掛けたのだ。
それから翔は、咲にばれない様に理恵とも付き合っていたのだ。
つまり、二股。
最悪。
遊び人と噂は聞いていたけど、咲を裏切ってまで遊びたいものなのか?
そしてあの日。
翔が単車で事故った日の、最悪の事態に繋がる。
翔が咲に「今日は来るな」と言ったのは、理恵がいたからだったんだ。
その翔の言葉に、何かを感じた咲が翔の見舞いに行った為に、理恵と鉢合わせになってしまったのだ。
もしもあの日、咲が翔の見舞いに行かなかったとしたら、あるいは違う未来があったのだろうか?
理恵とは結局、遊びの範疇(はんちゅう)で長くは続かなかったらしいし、もしかしたら咲のもとに、何食わぬ顔で戻って来ていたのかも知れなかった。
そんな意味の「ごめんな」だったとしたら、咲は自分で明るい未来を摘み取ってしまったのかも知れない。
そう、未来はひとつじゃないのだから。
咲は分かれ道で、進むべき道を見誤ったのかも知れない。
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