運命-すれ違い-
仕事をしなくてはいけない。
賭事でも儲けはあるが、魔術の腕を落とすわけにはいかない。
なにより、この国を変えるのが僕らの使命だ。
クォーレ・アリエッタから受け取ったメモに目を通し、目的地へ向かう。
外に出るのが嫌になるほど、瀧のような雨が降っている。
「酷い雨ですねぇ……濡れるのは嫌いなんですが……」
まぁ乾かせば済む話だ。この国はとにかく雨が多い。雨を嫌っていては生活できないだろう。
向かう先は不本意ながらもセシリオの経営する酒場で自宅以上に長居をしているかもしれない空間だ。
セシリオときたら、暗殺業だけで十分な収入があるくせに手広く商売をしている。貪欲な男だ。
途中、セシリオの養女の黒髪の少女とすれ違ったが、彼女はこちらには気付かなかったようだ。
そして、道の先に倒れている人間を見た。が、酒場はその手前にあるので、わざわざ歩く必要もない。死体だったら動いただけ無駄になる。
そう思いながら見ていると、銀の長髪の男が拾っていった。
「物好きですね」
みすぼらしい子供を拾うほど善人ではない。
子供なんて労働力にもならないだろうに、妙な男だ。
少し苛立ちながら酒場の戸を潜る。
「遅い」
店に入るなりクォーレの苛立った声が響く。燃え上がるような派手な赤毛の彼女は、見た目も派手だが気も強い。
「すみません。酷い雨で」
あの影を見なければ間にあったであろうに、遅れてしまった。
「まぁいい。騎士の内部情報だ。いくらで買う?」
彼女の情報は、正確だ。しかし、その内容が本当に価値があるのかはその時の運次第。
「幾らを希望ですか?」
「金五百」
「ええ、構いませんよ」
稼いだところで使いきれない金。
クォーレ・アリエッタに渡せばまた百倍になる。
「言い値で買うのはアンタくらいだよ」
「でしょうね」
代金を払い、紙を受け取る。
「裏があるってか?」
「お互い様でしょう?」
内部情報と言っても新入りの人数とか今年の予算とかそう言った取るに足らないことばかりだ。
「ハデスの動向は?」
「マングスタが戻った。それくらいだな」
「ほぅ、彼が。面白くなりそうですね」
「そうか?」
「彼は賭け試合に出されても気付かないお人好しで有名ですからね。本気の試合を楽しめますよ」
剣の腕は素晴らしいから彼に賭ければまず間違いないだろう。
「それは楽しみだ。と言いたいが、アタシはローザに用がある」
国境沿いのローザに用とは珍しい。
「おや。相変わらず騎士から逃げ回っているんですか?」
彼女が逃亡犯であることは確かだが、それだけが理由ではないだろう。
「いや、国境が気になる。まだ戦争を起こすわけにはいかない」
確かに近頃は情勢が不安定だ。我々が変えるべき国を他国に荒らされるわけにはいかない。
「ファントムが動き出しそうですね」
夜の民は海を越えられないと言われているが、それは一部の種族だけだ。すでに紛れ込んでいるものも多いだろう。
「アタシはデルタもそろそろ怪しいと踏んでる」
クォーレは苛立った様子で言う。
「森羅は?」
「あそこはさほど気にする必要もなかろう。我々の敵は宮廷だ」
「ええ」
国が嫌いではない。王のやり方が気に入らない。だから我々は動く。
「クレッシェンテに新王を」
「女神の祝福を」
そう言ってお互い酒場を出る。こちらも宮廷の動きを気に掛けるべきだろう。
雨はまだ、強く降り続けている。気温も下がり、少し肌寒く感じる。
なんとなく、先程人が倒れていた辺りを見てしまった。
何やら暗い気配がする。気になって魔水晶のレンズを通して探る。
「おや……これは……」
時空の歪み。自然に出来るものではない。
どうやら異界と繋がってしまったようだ。あまり喜ばしいことではないな。
「女神のいたずらか、師匠の仕業か……それとも侵入者か……」
いずれしても不穏なことには変わりない。
関わらないことにしよう。
そう決めて、雨の道を歩み始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます