第52話 自信
「付き合う?」
「そう」
「俺と、梓が?」
「そうだけど」
「…………」
思考が停止した。
「なんでだよ」
いや、そんな疑問が零れた。
「なんでって……」
「俺は梓のことが好きだ」
「それは、聞いた」
「隣にいたい」
「……それも聞いた」
「だけど、梓は違うだろ」
隣にいられるのなら、形にはこだわらない。
恋人じゃなくても、友人でもいい。
「梓は俺のこと、好きじゃないだろ」
振り向いてもらえてない状態で、『恋人』なんて、
「いくらなんでも飛躍しすぎ――」
「好きよ」
「……え?」
「勇人のこと、好き」
一瞬、自分の耳を疑った。
「好きだから、隣にいたい。付き合いたい」
「………」
「それって飛躍しすぎ?」
目が合った。すると、視線を逸らされた。
その仕草が照れているからだと気づく。
「え?」
今度は別の意味で混乱した。
「なんで」
「また、『なんで』?」
「だって、俺の告白」
「嫌だったから」
断っただろという前に、被せられた。
「『他の人』と重ねられてるかもしれない。
そんな状態で受け入れるほど、私はお人好しじゃないから」
聖女様のことを言っているのだ。
「だけど、そうじゃないって分かったから」
少しだけ顔を上げた。
その瞳の中に、俺が映った。
「………っ」
心臓の鼓動が一気に速まっていく。
「そもそも」
梓はため息を吐いた。
「自分の命を賭けてまで、誰かを助けようなんて思わない」
そこまでお人好しじゃないと、梓は断言した。
「全部勇人だから」
「梓」
「勇人だから、助けたかったの」
真剣な眼差しだった。
「勇人の告白だから、返事を言いたかったの」
息を呑んだ。
「ただそれだけだったの」
「……そう、か」
「勇人?」
「聞いてるから、大丈夫だ」
「伝わってる?」
「伝わった」
「なら……」
先程の勢いを失い、若干の不安が声に乗った。
「引いた?」
「引いてない」
「本当に?」
「本当に」
ゆっくりと息を吐いた。
「ただ、俺と同じで驚いただけだ」
「同じ? 勇人と?」
「ああ」
梓を助けると決めた時。
聖女様を殺すと決めた瞬間。
「先生にも言ったけど、」
守りたいとか、助けたいとか、
そんな深い考えはなくて、
ただ、俺は、
「梓と話せなくなるのが嫌だったんだ」
梓は目を見開いた。
「それが梓を助けた理由だ」
「……そっか」
驚いた様子で、数度頷いた後、
「勇人も、私と同じだったんだ」
嬉しそうに笑って言った。
「なら、勇人」
「なんだよ」
「余計に私と付き合わない?」
――振り出しに戻ってしまった。
「好きなら、付き合っても問題でしょ?」
「それは、そうだが」
「まだ、何かあるの?」
視線をさ迷わせた後、俺は言った。
「俺には、自信がない」
「……」
「自信がない俺が、梓の彼氏なんて、」
「大丈夫よ、勇人」
梓は断言した。
「自信がないなら、持てばいい」
「え……?」
「これから、私の側で」
突拍子もない言葉だった。
「すぐに持つ必要もない。ゆっくりでいいから」
「梓……」
「私が、側にいるから」
――甘えてばかりだ。
――情けないとも思った。
同時に、嬉しいとも思った。
「……梓」
「何?」
俺にはまだ、自信がない。
だけど、自信を持ちたい。
「好きだ」
「……うん」
「俺と、付き合ってくれ」
「……うん」
拙い告白に返事をくれる。
「私も、勇人が好き」
俺を好きだと言ってくれる君の為に、今度こそ、
「これからよろしくね、勇人」
持ちたいと、そう思った。
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