第29話 雑音

 ――音が聞こえる。


『          』


 それはノイズ音に近く、音や声にすらならない。

 そんな、雑音。

 ただ、その雑音が酷く心地よく聞こえる瞬間がある。


 ずっと耳を傾けていたい。

 そんな感情に流されそうになる。


『            』


 音が『声』に聞こえる瞬間がある。


 何故だろうか。

 耳を澄ませようとして、それをぎりぎりのところで踏み止まる。


 理性が言っている。

 耳を傾けていけないと。


 それを聞いてはいけないと。

 でないと、


 理性に引き留められ、いつも音が聞こえないをする。


 だけど、何故だろうか。

 

 ひどく眠くなってしまうのは。

 逆に理性のほうがうるさく感じてしまうのは。


 聞いていけない。

 きいてはいけない。

 キイテハイケナ――


「――梓?」


 ポツリと名前を呼ばれた。

 我に返れば、≪彼≫が心配げにこちらを見つめている。


 その度に、私は、


「何? ――勇人」


 笑って相槌を打っていた。

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