第28話 背中
「兄さん、何やってるの?」
図書館に行こうとすれば、声をかけられた。
振り返れば、見知った顔がこちらを見下ろしていた。
「……和葉?」
――
俺の妹であり、高校では、俺と梓の後輩にあたる。
同時に、魔法使いによく似た相手でもある。
「なんだよ、急に呼び止めて」
「梓さんのこと」
「梓がどうしたんだよ」
和葉は梓を慕い、ことあるごとに『俺』に対して、告白を促していた。
そんなところもまた、魔法使いによく似ていた。
「兄さん、聞いてるの?」
「……ああ、聞いてる」
「聞いてないでしょ、その顔は」
ため息を吐きながら、「帰り道」と呟いた。
「一緒に帰ってるんでしょ」
「荷物持ちだけどな」
梓が倒れた日から、俺は梓の荷物を持つようになった。
具合が優れない梓の荷物を持ち、家の近くまで見送る。
それが『俺』の日課になっていた。
「荷物持つのはいいけど、なんで後ろにいるの?」
「後ろ?」
「梓さん」
和葉が仁王立ちになって睨みつけてくる。
「なんで兄さん、梓を置いて先に歩いてるの?」
「それは、」
「歩調合わせてあげなよ、兄さん」
言われてなくても分かっている。
最初は、具合の悪い梓を置いて、先に歩くのはどうかと思った。
――梓は『俺』の後ろを歩こうとする。
歩くのが早いのかと思った。
だけど、そうじゃない。
『勇人が先に歩いていていいよ』
そんなことを言って、あくまでゆっくりと歩く。
『なんで後ろ歩くんだよ?』
『なんとなく、後ろ歩きたくなったから』
『……俺の真似か?』
『そう、勇人の真似』
冗談で言えば、笑って返される。
『思ったんだけど、勇人の後ろ姿って初めてかも』
『そうだったか?』
『そうだよ』
何故か感慨深そうに、梓はしみじみと言った。
『いつもは私が前を歩いてたから』
そう言われたら、『夢』で見た光景は、いつも後ろ姿を見る視点ばかりだった。
あの後ろ姿は、梓のものだったのかもしれない。
『勇人の見ていた光景って、こんな感じだったんだね』
何気ない言葉だった。
傍から見れば、青春の一部を切り取った言葉に聞こえたかもしれない。
だけど、その言葉に、『俺』の中で何かが込み上げてくる。
『……梓?』
『何?』
振り返って、声をかければ、梓がいる。
『……いや、呼んでみただけだ』
『何、それ』
笑う梓はやっぱり、『俺』の後ろを歩いていく。
声をかけて、何気ない会話をして、時々振り返って。
梓がいることを確認する。
それもまた『俺』にとっての日課の一部になっていた。
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