第11話 加護
魔女討伐隊が招集され、出陣される日。
隊員達は一人一人、聖女の加護を受けた。
「貴方に祈りを捧げます」
銀色の髪に、紅の瞳。
その上、聖女の背後を照らす窓の光が一層、その姿の神秘性が増す。
「ご武運を」
言葉はあまりに簡潔で、ともすれば呆気ないものだったが、
聖女の加護は神の加護を受けられることに等しい。
だからこそ、罪人と言われようが、聖女の姿に涙する者さえいた。
勇者もまた聖女の加護を受けた。
「ご武運を」
「はい、御身の為この身を捧げます」
その日、交わした言葉はそれだけだった。
だが、それだけで十分だった。
「よかったの?」
「何がだよ」
「もう少し、話せばよかったのに」
「他にも隊員がいただろ。俺だけが話す訳にもいかない」
「そうだけど……」
不満げな魔法使いに、勇者は言った。
「帰って返事を聞く」
「!」
「聖女様と約束した」
「勇者……」
「だから、別にいいんだ」
魔法使いの視線に気恥ずかしくなり、ぶっきらぼうに言った。
すると、魔法使いは嬉しそうに笑った。
「よかったね、勇者」
「……」
からかわれた方が楽だったかもしれない。
「まだ返事聞いてないだろ」
「そうだけどさ……」
その後、魔法使いの視線を意識しないよう、前方を見た。
そうだ。帰ればいい。
『魔女』を討伐して、帰って、聖女が待つ国へ戻る。
そうすれば、気の迷いなど消えてしまう筈だ。
(だから、俺は――、)
『兄さん』
「え――」
声が、聞こえた。
* * *
「兄さん」
『妹』の声に『俺』は振り返った。
「なんだよ、『 』」
「兄さんは進路どうするの?」
「決めてないに決まってるだろ」
「威張ることじゃないと思うけど」
威張っているつもりはなかったのだが。『妹』は呆れている様子だった。
「お前こそ、進路どうするんだよ」
「ふふん。兄さんに心配されなくても、進路ぐらい決まってるし」
「そうなのか?」
「推薦貰えるぐらいにはね」
『妹』は胸を張って誇らしげだった。
「来年から兄さんと同じ学校だよ」
「げっ」
「なんでそんな声が出るの」
「出るに決まってるだろ」
『妹』はとにかく優秀だった。
幼い見た目とは裏腹に、文武両道を地で行くタイプだった。
昔は劣等感を覚えたほどだった。
「そういえば、兄さん」
「なんだよ、進路なら――」
「『 』さんに、もう言ったの? 『好きだ』って」
「ごほっ」
思わずむせた。
「その様子だとまだ言ってないんだ」
「お前には関係ないだろ」
「あるよ。将来の義理の姉さん候補だもん」
「気が早すぎるだろ……」
「兄さんが告れば万事うまくいくと思うの」
「いかないだろ」
これが嫌だから、同じ学校になるのが嫌なのだ。
多分、後輩になった暁には、事あるごとに『告白しろしろ』と言うに違いない。
「全く、兄さんは……」
「大体、できるわけないだろ」
自嘲気味に吐き捨てた。
「あいつに告白なんて」
「……最初から諦めるなんてよくないと思うの」
「……」
妹の正論が息苦しくなり、『俺』は部屋に戻った。
考えないことはない。
もし、『君』に好きだと伝えたら。
『君』は一体、どんな顔をするだろうか?
* * *
「勇者?」
「え――」
魔法使いが顔を覗き込んできた。
「悪い、聞いてなかった」
「別にいいけど、見張りをやりながら、寝てたの?」
「え?」
見渡せば、辺りはすっかり夜に沈んでいた。
「勇者、自分から買って出たんじゃない。見張りは自分がやるって」
「俺が?」
「うん。でも、またぼうっとしてたから、声かけて見たの」
「そう、だったのか……」
全く記憶になかった。
「見張りは私に任せて、勇者は少し横になりなよ」
「分かった」
魔法使いの厚意に甘え、隊員達が横になる中で、勇者も地面に横たわった。
『兄さん』
最近、夢を見る。
夢を見れば、何故か記憶がない。
同時に、どんな夢を見ていたのか覚えてすらいない。
ただ、今回見た夢に出てきた声は、
『兄さん』
魔法使いの声によく似ている気がした。
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