第7話 “ひとりかくれんぼ”

 気軽にできるゲームだからこそ、危険はある。

 ちょっとした好奇心で自分を死に追いやる。

 それは身近に存在するもの。

 僕は真宮真偽まみやしんぎ。これは高校一年生の夏休み明けのお話。


 ひとりかくれんぼ。もしくはひとり鬼ごっこ。

 最近の都市伝説の中では有名なゲームだと思う。

 用意するものは手足あるぬいぐるみ、米、爪切り、赤い糸と裁縫用の針、コップ一杯の塩水、そして刃物。これは切れるものであれば形状は問わない。鋏やカッターナイフ、包丁など、使いやすいものが好ましい。

 1、ぬいぐるみに名前を付ける。

 2、そのぬいぐるみの綿を抜いて代わりに米と自分の爪をを入れ、赤い糸で開けた穴を縫うと、残りの糸をぬいぐるみに巻き付けて結ぶ。

 3、ぬいぐるみに「私が鬼」と告げ、風呂場の水を張った浴槽に沈める。

 4、家の照明を全て消し、テレビだけをつけると刃物を持って、家を一回りする。それから、ぬいぐるみがある風呂場に戻って、「見つけた」と言ってぬいぐるみに刃物を突き立てる。

 5、ぬいぐるみに対し、「○○(ぬいぐるみの名前)が鬼」と告げて刃物をぬいぐるみの傍に置くと風呂場を出て塩水を汲んだコップを持って家のどこかに隠れる。これがゲーム開始の流れである。ぬいぐるみに見つからなければゲームを終わらせるための行動を行う。

 隠れていた場所から出てぬいぐるみを探し、見つければ塩水を少し口に含んでコップの残りの塩水をかけて、それから口に含んでいた塩水を吹き掛ける。「私の勝ち」と3回宣言することで終了となる。それを1~2時間、または2時間以内に終わらせなければいけない。

 諸説あるがこれがひとりかくれんぼの一連の流れである。

 このあと、使用したぬいぐるみは燃やす方向で処理をしなければならず、隠れている間にも怪奇現象が発生するとされている。

 このひとりかくれんぼはこっくりさん等のような降霊術の一つとされており、自分自身を呪ってしまうという説や、元々、関西地方や四国地方でこっくりさんと共によく知られる遊びだったらしく、ある大学のサークルが都市伝説の広まり方を研究するために意図的にこうした話を世に流布した説もある。

 しかし、これはこっくりさんのように複数の人数ではなく一人で行わなければいけないものであるため助けも早々呼べず、こっくりさんよりも危険な遊びとして有名である。

 不用意に遊んではいけないゲームであることに間違いはない。

 ――――――――――――――――――――(月間オカルトタイムズ、岸谷拓真きしたにたくまの記事より)


 夏休みが明けてから1週間後のことだ。テストを間近に迎えつつあるこの時期に青葉あおばが僕を呼んだ。それは授業を終えた昼休み、これから食堂へ移動しようとしていた時だった。

「シンギちょっといいか?」

「どうかした?」

「とりあえず食堂行くだろ?歩きながら話すわ」

「うん」

 教室から出ると青葉は話し始める。

「俺昨日から陸上部の練習参加してんだけど…」

「足治った?」

「まだリハビリ途中って感じ。走るのはまだちょっとダメだって言われてる」

「そっか…あ、ごめん。話続けてよ」

 ついつい青葉の脚の怪我を思い出してしまった。この前の“NNN臨時放送”の一件で悪化しなかったので予定通り治ったらしい。

「それで、今日も朝練行ってきたんだけど、マネージャーがいるんだ。そいつがなんか悩んでたみたいで話聞いたわけ」

「恋愛相談?」

 少しふざけて聞いてみる。すると青葉は苦笑した。その反応はどうやら違うらしい。

「それだったらいいんだけどさ。そのマネージャーの親友が夏休み明けてから一回も学校来てないらしいんだ」

「学校に来てない?」

「ああ。最初引き籠もりかなとか聞いたんだけど、その友達の性格ってかなり活発で友達多いからそういうのはあり得ないって」

 青葉みたいな子か。と、頭の隅で思ってしまう。

「で、思い当たることはないかと聞いたら、夏休み中にLINEで連絡してたみたいで、それに“ひとりかくれんぼ”をやるとかどうとか……」

「……」

 その言葉を聞いた途端、僕は足を止めた。青葉もすぐにわかったようで僕の一歩先で足を止める。

「シンギ?」

「青葉、そのマネージャーさんに会える?」

 なんだか嫌な予感がする。その一言が思考の大半を占めていた。

 食堂に来て、青葉はすぐに誰かを見つけたのか僕から離れて目的の場所へと向かう。それを僕も追いかけると、青葉は一人の女子生徒の前で止まった。

長久保ながくぼさん。今ちょっといい?」

 青葉が話しかけると、女子生徒は顔を上げる。黒髪を一つにまとめた清楚そうな女子生徒だ。リボンの色で僕たちと同学年だとわかる。

稲生いなせ君?どうかしたの?」

「いや、ちょっとさ……朝、俺に相談してた話し合っただろ?それをシンギに話したら、詳しく聞きたいって」

 女子生徒、長久保が青葉の後ろにいた僕を見る。僕は軽く頭を下げると、事情を話し始める。

「突然ごめんなさい。青葉に聞いたんだけど、なんだかほっとけないような話で……あの、その話詳しく聞かせてほしいんだ。場合によってはなんとかできるかもしれない」

 まだ確信を持てる状況ではないから全部話せない。だから、かなりふんわりとしたことしか話せないのが歯がゆい。

 長久保は少し考えてから小さく頷くと、「先にご飯を頼んでからでもいい?」と聞いてきたので、僕たちもご飯を頼むために了承した。

 三人でご飯を注文して席に着く。僕と青葉その向かいの席に長久保が座る。

「えっと……僕は真宮真偽っていうんだ。青葉の同級生」

「私は、長久保響香ながくぼきょうか。多分隣のクラスね。稲瀬君と一緒の部活に入ってるの」

 とりあえず自己紹介を簡単に済ませて本題に入る。

「私の友達、栗谷くりたにナオっていうんだけど、ナオが夏休み明けてから一度も学校に来てないの」

「連絡とかは?」

「夏休みが明ける一週間前から着てない。学校でいじめとかそういうのなかったし、むしろ元気過ぎるくらいだから学校にも来るはずなんだけど……連絡すら着かないことは初めてで……」

「学校からの連絡とかは?」

「先生に聞いたんだけど、家に連絡したけど両親にも繋がらないって…そのせいで、夜逃げでもしたんじゃないかとか噂立ってて……」

 そこまで言うと長久保は俯く。

 友達と連絡が取れず、周囲には不穏な噂が勝手に広がっているのだから、彼女も不安になるのは当然だ。

「…あのさ、青葉が言ってたんだけど、“ひとりかくれんぼ”がどうのって話は?」

「え?……ああ……ナオ、そういうオカルトとか信用はしてないんだけど、廃墟とか心霊スポット?みたいなのに行くの好きで、それでたまたまテレビで見た“ひとりかくれんぼ”をやってみるって連絡着たの」

「それっていつ頃?」

「確か……夏休み明けの一週間前くらい?」

 長久保がスマートフォンで確認しながら話す。

「……」

 僕は青葉をちらりと見る。青葉はその視線に気づいたようで僕を見返した。

「シンギ?」

「うん。たぶんね」

 これは“怪物”が出たかもしれない。確実ではないが可能性は高い。

「長久保さん。栗谷さんの家の住所ってわかる?」

「え……?うん。前に何度か遊びに行ったことあるから、場所はわかるよ?」

「住所教えてくれる?頼りになる大人を知ってるんだ」

 こういう時に頼りになる大人。


 放課後、僕は青葉と学校を出る。部活は今日は休みらしい。なら丁度いいと、僕は青葉を誘った。ロギに連絡してカフェに来るように言ったから、僕も青葉とカフェに向かうのだ。

 昇降口で靴を履き替えていると、長久保が僕たちに声をかけてきた。

「あ……稲瀬君!真宮君!」

「長久保さん?」

「これから……頼りになる大人の人に会いに行くの?」

「そうだけど?」

「私も行っていい?」

「……え?」

「その人にナオのこと話すんでしょ?だったら私も一緒に行く」

 長久保さん……なかなか行動派な人だ。

 どうしようかと青葉を見ると、彼は肩を竦めた。断る言葉が見つからないらしい。僕も見つからないし、仕方ないと頷いた。

「いいよ。ここから少し離れたカフェに行く予定なんだ。そこで集合予定」

「わかった」

 改めて3人で学校を出ると、目的地のカフェへと歩く。

「長久保さん、これから会う人さ、一応頼りになるんだけど……その……口がかなり悪いから気を付けてね」

「口が悪い?」

 念のためと僕が長久保に話すと彼女は首を傾げる。

 ロギは案外、人の心を傷つけるだけじゃなく、さらに抉ってくるから。

「一緒に来ていいって言ったけど、もしかしたら長久保さんに聞きづらいことも平気で聞いてくる可能性あるからさ」

「わ、わかった」

 心構えの準備をし始めたので、ほっと一息つく。

 目的のカフェに着けば中に入る。

 店員の挨拶を聞きながら店内を見渡すと、ロギが4人席に座っていた。ガスマスクではなく、黒色の普通のマスクを着けていた。

 僕がその席に近づくと、青葉と長久保がそれに続く。

「ロギ、早いね」

「たまたま起きてたんで」

 ロギの姿を見れば、長久保は「え?」と困惑した表情を見せる。

「警察の人?」

「……誰?こいつ」

「連絡したでしょ?この人が長久保さん。一緒に来る予定じゃなかったんだけど、ちゃんと自分で話したいって言うから連れてきたんだ」

「……ああ。こんにちは。獅琉しりゅうです」

「え、えっと……長久保響香です」

 長久保からすれば、ロギは警察関係者にしか見えないだろうなと思う。前にあったイマジナリーフレンドの事件でロギは自分を警察関係者だと大勢の前で話していたし。だから僕も、ロギに前もって伝えてあった。たぶん話は合わせてくれるはずだ。

「シンギとどうして連絡が取れたかとかは、省かせてもらうよ。話が面倒だ。一応警察関係者だけど、今は俺個人で来てるから、大事にはならないよ。……死体でもなければね」

 ロギはやっぱり一言多い。長久保が少し怯えている。「大丈夫だよ」と声をかけながら僕たちは席に座る。

 それから昼休みに聞いた話をロギにもする。ロギは頬杖を突きながら話を聞いていた。

「“ひとりかくれんぼ”ねえ……」

 話し終えればロギはぽつりと呟く。

「シンギが俺を呼んだ理由はそれか……厄介なことをしてくれたわけだ」

 面倒臭そうにため息を吐く。それから長久保を見た。

「その栗谷さんは“ひとりかくれんぼ”の話してからぱたりと連絡が来なくなった?」

「はい。連絡しても返事も着ませんし、電話をしても繋がらないです」

「なるほどね。それで学校側から連絡しても両親にも繋がらないとなると……」

 ロギは少し考える仕草をしてから僕を見た。

「住所聞いてんだよな?」

「うん。昼休みに教えてもらった」

「わかった。シンギ、案内」

 ロギが財布からお札を出す。それは4人分の珈琲代に十分の額だった。それから彼は席を立つと、店を出ようとする。僕は慌ててロギを止めた。

「早い!ちゃんと説明してからにして」

 ロギの腕を引っ張って席に戻させると、彼はまたため息を吐いていた。

「一般人いるんですけど?」

「だからって何も言わないで行くのはダメでしょ」

「……」

 ロギはぎろりと僕を睨むが、それでも譲れない。長久保の知らない所で全部終わっているのはいけないことだ。

「……あの」

 僕とロギのやり取りを見ていた長久保が少し戸惑いながら声を発した。

「話してくれませんか?私は大丈夫ですから」

「長久保さん?」

 青葉が心配そうに長久保を見る。それだと場合によっては彼女も巻き込まれる。それも避けなければいけない。

 矛盾している考えが僕の思考を埋め尽くしている。

「私はちゃんと知りたいんです。ナオが危険な状態なのかどうなのか」

 長久保が真っ直ぐロギを見た。ロギはその視線から逃げるように少し目をそらしていた。それからロギは3度目のため息を吐く。

「危険な状況とかじゃなくて、たぶん死んでるよ。両親含めてね」

「死ん、でる?」

 長久保の瞳が揺れるのが見えた。

「それをこれから確かめに行かないといけない。だから、長久保さんと青葉君は家に帰れ。シンギが案内しれくれればいい」

 ロギは彼女の心境をわかっているのかいないのかそう話すとまた席を立つ。今度は僕の腕を引っ張った。

「ちょっ……ロギ!」

「いいから……さっさと行って仕事を終わらせたいの」

「だからってあの言い方は……」

 ロギが構わず店の外に僕を連れ出す。

「ああでも言わないと、あいつらはついてくる。もしこれが怪物の起こした一件になって、それを青葉君はともかく長久保さんが目撃してしまえば俺たちの監視下に入る」

 外に出ればロギはそう言って僕を見た。

「これ以上誰かを巻き込むつもりか?」

 それを言われるとどうしたらいいのかわからず口を閉じた。

「……さっさと行くぞ。仕事だ」

 ロギが歩き出したのを見て僕も慌てて追いかける。しかし、後ろからドアが開く音がして足を止める。

 振り向くと急いで出てきた様子の長久保がいた。それを追いかけてきたらしい青葉が続いて外に出てきた。

「長久保さん?」

「私も行きます!」

 長久保がロギに駆け寄ってそう言う。ロギはというとその彼女をかなり冷たい目で見降ろしていた。

「……俺は帰れって言ったはずだけど?」

「仕事の邪魔はしません。ナオがどうなってるのか自分で確かめたいんです」

「……」

「もし本当に危なくて、帰るように言われたらその時は帰りますから」

 お願いしますと頭を下げる長久保。

「今すぐ帰ってほしいんだけど?」

「ナオの家に行くまでは帰りません」

「……」

 ロギが大きなため息を吐くと何も言わずに僕たちに背を向けて歩き始める。

「ロギ?」

 まさか仕事を放棄するんじゃないだろうか?そんな不安に駆られて僕はロギを追いかける。

「ロギ、仕事は?」

「……家の中に入らない条件で、案内」

 ロギの根負けだろうか。僕は振り返って青葉の長久保に向けて手招きをした。


 長久保の案内で栗谷の家に着いた。ロギの運転する車がその家ある通りの路肩に停めるとエンジンを切る。

「もう一度言うけど、お前たちは家の中に入らない。帰れと言われたら帰る。それでいいな?」

 ロギの言葉に僕たちは頷く。それを彼は見れば車から降りた。

 栗谷の家の前に立つと、ロギからスンとにおいを嗅ぐ音がした。

「腐敗臭」

 と、ロギは一言呟く。

「ロギ?」

「3人はここで待っててくれる?」

 ロギはそう言うと、一人玄関のドアを開けようとドアノブを捻る。鍵はかかっていないようですんなりと開いた。

「うわ……」

 ロギが本当に嫌がる声が聞こえる。確かに玄関から離れている僕たちにもこれが腐敗臭なのかはわからいけど悪臭がにおうことだけはわかる。玄関を開けたままロギは家の中へと入っていく。玄関入ってすぐの部屋を見たのかロギは静かにその扉を閉める。

 それから家の奥へと入って行って数分、ロギは何も言わずに戻ってきた。

 外に出るとロギは深く息を吐く。

「どうでしたか……?」

 長久保が恐る恐る聞く。おそらく彼女は察している。でも確認して現実を他の人から言われないと納得できないんだと思う。

「……死んでたよ。3人とも」

 ロギの言葉に長久保は崩れ落ちる。

「シンギ、青葉君と一緒にそいつ家まで送ってやって。俺は残って仕事しないといけないから」

 僕と青葉は頷くと、長久保さんに手を貸す。

「長久保さん。帰ろう?ロギの仕事の邪魔になるから」

「……うん」

 今にも泣きそうな表情をしているが彼女は頷いて僕の手を握って立ち上がる。

「獅琉さん……我儘言ってすみませんでした」

 ロギに向かって長久保は頭を下げた。

「いいからさっさと帰れ」

「はい……」

「じゃあ、僕は青葉と家まで送ってくるから」

 とりあえずここから近い駅まで移動する。

 長久保は今も僕の手を握っていた。

「大丈夫?」

「……」

 声をかけるけど彼女は俯いたままだった。

 改札を通って来た電車に乗り込む。丁度電車の中は空いていて、すぐに座ることができた。長久保を挟んで青葉と僕は座ったわけだけど、かなり気まずい。

 青葉と軽く顔を合わせてそれから彼女を見た。未だに俯いていて、どう声をかけるべきかわからない。

「……」

 こうするべきかはわからないけど、僕は長久保の頭に手を添えて撫でてみる。拒むようなことはなく、大人しかった。

 そのまま電車に揺られて目的の駅なのかそのアナウンスを聞くと彼女は顔を上げる

「長久保さん、ここ?」

「うん」

 返事をしてくれた。

 駅に到着すると、3人で電車を降りる。

「えっと……長久保さん、案内してもらってもいい?」

 改札を出れば、彼女は僕の手を引いて歩き出す。未だに手を繋いでいるのにいい加減僕は困惑し始める。ちらりと青葉を見るが首を横に振られた。無理ですって言われた。

「あの……長久保さん……手、いつまで……」

「……ごめん。家に着くまで」

「あ、はい……」

 一応話してみたけどダメだった。

 それから10分くらい歩いて着いたのは小さめの一軒家。

「私の家ここだから、もう大丈夫」

「うん。あの……明日は休んだ方がいいと思うよ。栗谷さんのこととかちゃんと考えて、すぐには難しいと思うけど……立ち直ってほしいな」

 ちゃんと伝わるかは怪しいけど僕なりの考えを伝える。長久保は少し間を置いてから「ありがとう」と小さく言った。



 長久保を送った帰り道、青葉と駅まで戻る途中だった。

「長久保さん、大丈夫かな」

 僕の問いに青葉は「うーん……」と考える。

「長久保さんはしっかりしてるけど、抱え込むこと多いからなー。多分しばらくは立ち直れない気がする」

「……そう、だよね」

 青葉の言葉に僕は頷く。僕も両親を失ったときは、立ち直るのにかなり時間がかかった。長久保の場合、失ったのは仲のいい親友だ。きっと時間はかかる。

「青葉が支えてあげて?」

「いや、俺よりお前の方がいいかもしれないぞ?」

「僕が?」

 何でだと首を傾げる。

「助けを求める相手を自然と選んでたろ?」

「えっと……?」

「家に着くまで手繋いでたし」

「あれは……僕が立たせるために掴んでたから」

「最初はな。電車乗ってるときも家着くときもずっと繋いでた。それに長久保さんも『家に着くまで』って言ってたしな」

「そうだけどさ……」

 なんだか納得がいかないと僕が首を傾げていると、青葉は僕の肩をぽんぽんと叩く。

「あいついい子だし」

「嫁にやるみたいなこと言うんじゃない」


 結局のところ、栗谷とその両親の死亡が確認された。“ひとりかくれんぼ”をしていた証拠も見つかり、ゲームに使用したらしいぬいぐるみと刃物から栗谷とその両親の血が検出された。

 栗谷の両親はその日たまたま二人で外出していて一日いなかったため、彼女はその日にゲームを行ったのだろうと結論付いた。外出から帰ってきた両親はそれに巻き込まれたのだろうと。

 その事実を長久保に伝えられることはない。おそらくそれを模倣とした犯人をでっち上げてそれを伝えるんだろう。きっと彼女は納得しないと思うが。

 これ以上関係のない人を巻き込まないためにも、僕たちは嘘を吐かなければいけない。どうか、真実を知らずに悲しみを癒して過去の元としてほしい。難しいことかもしれないがそうであってほしい。でなければ、それはまた新しい怪物を呼んでしまうのだから。

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