ある晴れた昼下がり

「首尾はどうだ?」

「なんと言いますか、推して知るべしって感じですかね」 

「訊くまでもなかったな。こっちもさっぱりだ。捜査線上に被疑者らしい被疑者がまるで浮かんでこない」

 上原は階段に座り、吉見は踊り場の壁に寄り掛かっている。人通りのある場所なので、階段の内側を空けて動線を確保している。

「お前が言っていた河川のライブ映像だけどな、浚ってはみたが、被疑者に繋がるようなものは出てこなかった」

「そうですか。犯人からしても盲点になり易いので、いい線いっていると思ったんですけどね」

「ああ、着眼点はよかった。だが、アングルが固定されている上に、肝心の現場は死角に入っていた。それに、やっぱりと言うかなんと言うか、川の中を歩くような物好きはみんな……」

「みんな?」

「釣り竿を持っていた」

 上原から貰った缶コーヒーを口にする。出合い頭につめた~いのとあったか~いのを差し出され、どちらがいいか訊ねられた。吉見は迷わず、あったか~い方を受け取った。

「だがな、まったく収穫がなかったわけでもないんだ」

「というと?」

「被害者の方は映っていた」

「へぇ、じゃあ犯行時刻は、ほとんどわかったようなものですね」

「とはいえ、被害者単体ならこれまでもカメラに映っていたから、さほど新事実というわけでもない」

「残念です」

「それにしても、被害者はなんであそこにいたのか。自発的にいたのか、それとも誰かに呼び出されたのか」

「呼び出されたのだとしたら、ケータイの着信履歴にそれらしい人物からのものがあってもいいのではないかと」

「それがないから難航しているんだが……これだけ調べていて、目撃者は出てこず、有力な手掛かりもほとんどない。となると、犯人は一体何者なんだ?」

「さぁ? 見当も付きませんよ」

 上原から空き缶を受け取り、階段を降りようとすると、「ああ、そうだ、皆川はどうだ?」

 吉見は、振り返って応じる。「返しはそれなりですね」

「返しは? 意見してこないのか?」

「疑問に思うことは色々とあるようですが、それが意見になっているかと言われると、どうでしょうね」

「そうか。まだ探り探りなんだろう。気長に頼むよ」

 上原と別れ、階段を降りる。「ぅおーっと」

 階下の壁に天野が寄り掛かっていた。吉見からは死角になっていたので、少しばかりびっくりした。「……いるならいると言えばいいものを」

「驚かすつもりはなかったんですが」

 天野も同じラベルの缶コーヒーを手にしていた。見た目からでは、つめた~いなのか、あったか~いなのか判別できない。

「もしかして俺達の会話、聞いてた?」

「声色からして、そこにお二人がいることはわかりましたが、ここですと話の中身までは聞こえてきませんので、ご心配なく」

「別に、聞かれて困るような話でもなかったしな」

 自販機の脇に置かれたゴミ箱に空き缶を捨てて、二人は署を出る。


 かれこれ一時間ばかりキャンバスに向かっている。向かっているだけで、線を引いては消してを繰り返している。イメージが定まっていないのに描きはじめようとするからこうなる。そういうわけで、未だ真っ白けっけなキャンバスが私の前にある。ここ最近、描けない日が続いている。

 心地良い風が、レースのカーテンのささやかな抵抗を押しのけて、部屋の中に入ってくる。波を打つ裾に手を伸ばしてみるも、届きそうで届かない。 

 取り立てて何事もなく単調に過ぎていく時間の中で、代わり映えのしない毎日だけれど、一つ変化があった。最近になって亮が煙草を吸うようになった。

 私は煙草が嫌い。あの煙とあの臭い、私はそのどちらも受け付けない。だからといって、喫煙を否定する気はないし、どこぞの誰かが吸う分には、好きにすればいいと思っている。だけど、その誰かが自分の恋人となると話は変わってくる。煙草を吸ったその口でキスされるかと思うと抵抗がある。生理的に無理だと抗議したが、気にするから気になるのだと返され、まともに取り合ってもらえなかった。

 それから煙草に関してはもう一つ、不愉快な記憶がある。今の今まで忘れていたのだけれど、亮のおかげで思い出すことができた。


 兄が大学生だった頃、当時付き合っていた彼女を家に連れてきたことがあった。

 帰ってきて自室に入るとそこに、見知らぬ女性がいた。彼女はスツールに足を組んで座り、煙の出ている煙草を指に挟んでいた。髪は長く、頭頂部に天使の輪っかを載せていた。

 私の存在に気づいた彼女が振り返って、「おかえりなさい。お邪魔しています」ばっちしメイクした顔でそう言った。

 彼女が自らの正体を明かさないので、私は、不審者の類だと本気で思っていた。

「絵、描くのね。上手に描けている」

 この時描いていた絵というのは、キャンバスに力任せにぶつけられて、中身が炸裂したという体裁の、潰れたトマト。

「リアリズムっていうのかしら? 熟したトマトがダメになってる」

 私はトマトの匂いがダメで、また直接触れもしないので、ネットで画像検索をして、プリンターに吐き出させたトマトを参考にした。それでも対峙している間はずっと、気分が悪かった。

「うち、実家が農家だからよく手伝わされたんだよね、それが嫌で嫌で。だから勉強頑張って、大学にも無事合格して、それでこっちに出てきたというわけ」

 誰も頼んでもいないのに、勝手に身の上話をしはじめた。

「朝っぱらから駆り出されて、土にまみれたり、力仕事をさせられたり。挙句の果てに、婿養子になってくれるような相手を見つけなさい、だって。代々続く農家の家系だかなんだか知らないけど、そんなの私には関係ないのにね」

 彼女がそのような境遇に置かれていたというのは、言われてみなければ、わからなかった。芋臭さを拭い去るのに、相当な努力とお金が要ったであろうことは、想像に難くなかった。

「だから自分のルーツを否定したいのは山々なんだけど……それとこれとは話が別でさ。こういう風に食べ物を粗末にする人って私、許せないんだよね。食べ物が悪いわけではないじゃない」……なんか腹立ってきた。そう言って吸っていた煙草を、キャンバスに押し付けた。

 絵は完成間近で、あとはもうどこで切り上げようか、というところだった。それなのに、絵空事も解さないようなわけのわからない女に台無しにされた。

 さて、どうしたものかと。この時の私は意外と冷静に、自分の取るべきリアクションを考えていた。ふと、ある一つの冴えた仕返しを思いつく。

 気取られないようにして、机のペン立てに手を伸ばす。手首の後ろにそれを隠して、彼女の背後にそっと近づく。左手で艶のある髪に触れ、そして平行にハサミを入れた。間髪入れずに振り返った彼女に私は、これ見よがしに手に持った毛束を離してみせた。髪の毛がフローリングに散らばった。

 それを見た彼女が、おそるおそる背中に手を回すと、そこにあるはずの触れるものがなかった。

 一瞬の間があったのち、金切り声が周囲一帯に響き渡った。

 彼女は、風のように部屋から去っていった。床の髪の毛がわずかに宙を舞った。

 彼女はその後、その足で行きつけの美容院に駆け込んで、髪をミディアムに切り揃えてもらい、新しい自分なるものを発見したらしい。後日、兄から報告があった。結局二人は別れたようだ。それ以来兄は、私に彼女を紹介してくれなくなった。

 原因となったトマトの絵はというと、今私の手元にはない。


 ある晴れた昼下がり。駅に向かって歩いていく人々、駅の方から歩いてきた人々を横目に、二人はカフェのテラス席で一服を決め込んでいた。

 店内は禁煙とのことなので外に出てきたが、幸い天気は晴れで、時折吹く風が心地良い。円テーブルの中心に刺さったグリーンのパラソルの陰の下、天野が吐き出した煙が風に絡め取られていく。ほかにもパラソルが開いているというのに、副流煙を気にしてか、誰も座ってこない。さながら蚊取り線香のように人が煙を敬遠する。

 最近になって天野は、煙草を吸うようになった。禁煙していたのか、それともなにかのきっかけで吸いはじめたのか、吉見は、そのわけを訊けずにいる。奇しくも銘柄が一緒だった。

 吉見は、時折ホットコーヒーをすすりながら、店内から持ち出してきた新聞に目を通していた。三面記事に、目下捜査中の事件に関する記載があった。

 すでに公になっている上っ面を撫でただけの事実で記事は構成されている。事件の被害者同士に接点はみられないなど、捜査関係者のみが知るような具体的な情報は削ぎ落とされて、その他の事件と区別がつかないような無難な内容に落ち着いている。被害者遺族の無念を滲ませるコメントで欄は締めくくられていた。

 吉見は新聞紙を折りたたみ、テーブルの脇に放った。

「吉見さん。ちょっとこれ、見てもらってもいいですか」

 天野から茶封筒を受け取る。文庫本ほどのサイズ感で、なおかつ厚みがある。

「なんだ?」

「ま、いいからいいから」

 言われるがままに封を開けて、中身を覗く。写真の束が入っていた。「よくもまぁ、こんなに」中から取り出し、上から順繰りにめくっていく。

 被写体深度は深く、遠くまでピントが合っている。しかし、どこにでもあるような、ありふれた日常風景を切り取っている。人物が写っていたとしても、たまたま写り込んでしまったという感じで、被写体というより背景の一部をなしている。撮るに足らないような写真が何枚も続く。どんな意図があってこんなものを寄越したのか、天野の顔を窺うと、ストローをくわえた口元に笑みが浮かんだ。

 これなんか、カメラを構える天野がカーブミラーに映り込んでいる。撮っては歩き、歩いては撮っているようなので、その次の写真では天野はおろか、カーブミラーすら写っていない。中景にあった電柱が手前に来ていて、全体が見えていた自動販売機も次の写真では、縦一列のラインナップしか写っていない。

 残りの束を、パラパラ漫画の要領で親指の腹で弾く。さっきから吉見は、写真の景色にどこか既視感を覚えていた。最後の一枚に目が留まる。そこには、何度か足を運んだ事件現場が写っていた。

「つまりこれというのは……犯人の足取りを辿ったものか」

「え? ああ、そう見えないこともないですけれど、被害者の、ですね。被害者の行動に関しては、ある程度わかっているので」

「ああ、そうか。犯人の足取りはまだ、掴めていないんだもんな」

 指摘を受けて、吉見は写真を見返す。天野は、事件当日の被害者の移動経路を実際に歩いてその都度、道中の景色を写真に収めた。写真の一枚一枚が被害者の目に映った景色、ということになる。

「実際、道のどの辺りを歩いたのかわからないですし、背丈も天気も時間帯も違うので、再現というわけにはいかないんですが」

 吉見は、そのうちの一枚の角を摘んで眺める。そこに写し出されているのは事件現場。被害者の歩みはここで途切れた。 

「それと、はいこれ」

 手渡された封筒は、先ほどのよりだいぶ薄い。開けると、こちらにもやはり写真が入っていた。

 今し方見たばかりの現場写真。次の写真も、その次も。最後まで同じ場所で撮られたものだった。似たり寄ったりの景色だが、それぞれアングルが少しずつズレていて、背景が少しずつ違っている。これはおそらく、遺体のあった地点を軸にして、一周した際に見える視界。数えてみると二十枚あったので、時計回りに、大体三秒置きにシャッターが切られている。このいずれかに、被害者が最期に見た光景がある。

「吉見さんがやっていた例の写真翳すやつ。あれで思いついたんです。なにかのヒントになればと思ったんですが、どうでしょう?」

「……いや。さっぱり」

「ですよね。やっぱり」

 角を揃えて封筒にしまう。煙草をくわえ、火を点けた。このところ一日に吸う煙草の量が増えている気がする。「一体全体、犯人はどこから来てどこへ行ったのやら……」吉見は、小さくぼやく。

「それってなんだか、ゴーギャンみたいですね」

「あ?」

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」

「ああ……どんな絵だったっけ?」

「大作ですよ。両手を縛られて、上から吊るされている裸の人の絵」

 そんなSMチックな絵が存在するのか疑問に思った吉見は、ケータイで検索してみる。

「いやこれ、リンゴを摘み取っているところだろ」

 ケータイを差し出し、天野にディスプレイを見せる。

「でも見たところ、格好がそっくり。それにほら、裸ですし」

「裸は、裸だけどさ……」

 登場人物たちは皆、腰に布を巻いた程度の軽装で、褐色の肌が大きく露出している。女性陣の鑑賞者に向ける眼差しは、出歯亀を見る目をしている。吉見は、画面をスクロールして絵の解説を拾い読みする。

 愛娘の死、悪化の一途を辿る健康状態、嵩んでいく借金。三重苦の中でゴーギャンは、遺書代わりとも言うべきこの絵を描き上げたのだという。作品の完成後には自死を試み、失敗に終わっている。

 実物は今、ボストン美術館にあるそうだ。


 白いキャンバスとのにらめっこもいい加減、嫌になってきた。ただでさえ描画に身が入らないというのにもかかわらず、嫌な記憶を思い出してしまったために、あの女の顔がちらついて仕方がない。

 ひらひら飛ぶアゲハ蝶のシルエットがカーテンに映る。鳥のさえずりが聞こえてきたりして、どこか長閑な感じがする。せっかく晴れていることだし、気晴らしに散歩に出かけるのもいいかもしれないと思った。

 外行きのラフな格好に着替える。戸締まり、ガスの元栓を確認し、ケータイストラップを肩に掛けて、ポケットにお財布を突っ込んで、スニーカーの靴紐を結んだ。

 足の向くまま気の向くまま、あてもなくとりあえず足を動かす。歩いていると、目に付くものがある。たとえばそれは、空を映し出すカーブミラー。車にぶつけられたと思しき跡の残る支柱は、根本から折れ曲がり、鏡は上の空を眺めている。

 神社の境内では、犬の会合が開かれていた。鼻先を突き合わせて、コミュニケーションを取っている。犬たちが今どんなことに関心を持っているのか、犬語を介さない私にはわかりかねる。一方リードを持つ飼い主たちは、昨今の殺人事件について、  

「それで、被害に遭われたのが、私の妹の旦那の親戚だって言うじゃない」

「あら、やだ、近いじゃない」

「それでお葬式には、行ったの?」

「行かないわよ。御香典代もったいないでしょう。お顔を拝見したのだって一度か二度しかないのよ」

「十分じゃない」

「それでも、知っている人が事件に巻き込まれるのって、怖いわよねぇ」

「テレビで」

「テレビかい」

 とのツッコミが入り、笑いが起きる。ひとしきり笑ったあとで、

「ねぇ、聞いた? まだ犯人捕まってないって言うじゃない。浮かばれないわよねぇ」

「警察はなにやってるのかしら」

「ネズミ取りに忙しいのよ、きっと」

「そうそう、それで私が聞いた話では……」

 という具合に、お互いに感想を述べ合っていた。

 駅前を通りかかると、道行く人にチラシを配っている人たちがいた。被害者家族が事件に関する情報提供を求めていた。スルーする人も少なくない中、私は進んで受け取りに行った。その足で駅の中にあるパン屋さんに入って、メロンパンやチョココロネなどをトングで挟んだ。近くの公園の木陰になったベンチに座り、一人孤独に、ちょっとしたピクニック気分を味わう。

 実家周辺を通りかかる。この辺りもずいぶん変わってしまって、記憶の中にある風景と必ずしも合致しない。ここは雑木林だった。はずなのにいつの間にか、似たり寄ったりな外観をした建て売り住宅が整列している。以前よく通ったレンタルビデオ店は、ドラッグストアへと変貌を遂げていた。思うに、サブスクリプション方式の波に押し流されたみたいだ。売地になっている更地がある。ここにはなにが建っていたんだっけ? 記憶を探ってみるが、思い出せない。とっかかりがなさすぎて、思い出せそうにない。

 慣れ親しんだ土地に、馴染みがなくなっていく現実を目の当たりにして少し感傷に浸っていると、測量の現場に遭遇した。淡いグリーンの作業着の二人組が作業に当たっている。三脚に載せたカメラに似て非なる機器をベテランが覗いている。距離を置いて若い方が紅白のヤリを地面に刺している。足を止めて見学していると、

「珍しいですか?」

 若い方が話しかけてきた。

「そうですね。あまり見かけないので」

「よそ見してっと、ズレるだろうが」ベテランの怒声が飛んだ。

「すいません。お仕事の邪魔して」頭を下げる。 

「いえいえ」

 測量に気を取られて、曲がろうとしていた道を曲がりそこねた。気がつけば、通ったことのない道を歩いていた。大体の居場所は把握しているつもりだが、迷子になった時のあの心細い感じを思い出す。だからといって、引き返そうとはしない。しばらくは、自分の勘を信じようと思う。肩から下がる文明の利器に頼るのは、最後まで取っておく。

 見知らぬ通りをひたすら進んでいたら、いつしか、見覚えのある道を歩いていた。兄の勤める大学へと続く道。まだ少し距離はあるが、せっかくここまで来たのだから、兄の顔を見ていくことにした。

 絵の参考にしようとレントゲン写真をもらいに、前に一度訪ねたことがある。個人情報だからダメだ、と一旦は兄に断られたが、特定できなければ別に構わないのか、とすぐさま前言を撤回して何枚かくれた。

 記憶が正しければ、たしかこの部屋。私はドアをノックする。

 部屋から白衣を着た坊主頭の男性が出てきた。

「なんでしょう」

「すいません。蜂谷先生はいらっしゃいますか?」

「ちょっと待ってね」

 開いたドアから室内を覗くと、坊主頭がヘッドホンをした兄の肩を叩いているのが見えた。

「どうした?」 

「用っていうほどの用でもないんだけど、ちょっと近くを通ったものだから……どうしてるかなって思って」

 兄の顔は、能面みたいな感情の通わない表情をしている。

「どうもこうも仕事中だ。急用が入ってな」

「もしかしてお邪魔だったかな?」

「若干な」

 そう言われてしまうと、返す言葉が見つからない。

「今度、時間作るから、悪いけど今日のところは帰ってくれないか?」

「ん、わかった。ごめんね、仕事中に来たりなんかして」

「気ぃつけて帰れよ」そう言ってドアを閉めた。

 兄にも兄の都合があることをすっかり失念していた。人気のない廊下をとぼとぼと引き返す。思いつきで、行き当たりばったりに、アポイントメントも取らずに訪ねた私が間違っていた。それはわかっている。なのになぜか自分が惨めに思えてくる。 

 さすがにくたびれたので、帰りは公共交通機関を利用することにした。


 陽が沈みかかり、薄ぼんやりとした三日月が見え出した時間帯。

 花屋の前を通り過ぎ、耳鼻咽喉科クリニックの前を通り過ぎ、横断歩道を渡って十字路の一角、小ぢんまりとした電気店の前で吉見は足を止めた。大小様々、各メーカーのテレビが道行く人々に夕方のニュースを提供している。天野は、急に立ち止まった吉見の視線を辿る。

 各局が連続殺人事件、容疑者逮捕のニュースを報じていた。

「この被害者にこの事件現場……前に吉見さんが別件だと言っていた事件のものだったかと思うんですが。七箇所の方の」

 通い慣れた警察署が、事件現場が、被害者が、容疑者が各テレビに映し出されている。

「ああ。そうだな」

 ポケットを探り、ケータイを確認する。着信は入っていなかった。

 六台あるテレビモニターのうち一つは、子ども向けのアニメを放送していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る