第2話 そもそもは

ちなみに、現在の勤務先は、個人開業の歯科医院だ。


細かい事を言えば、他にも色々あるが、ぼちぼち進めないと多分、書き飽きる。


そもそもはと言えば、かたやきは、新卒で固い大企業に入社し勤務していたのだが、まあまあ昇進した辺りで病気退職する羽目になってしまった。

今で言う「ウツ」だったようなのだが、当時まだ診療内科というジャンルはマイナーで、ウツはノイローゼ、統合失調症は精神分裂症と呼ばれていた昭和の残り香豊かな時代であった。

つまるところ、心の病は、いきなり「精神科」の門を潜らざるを得ず、その心情的ハードルは高かったのだ。

だが、同時期に発症していた脳血腫での担当医が、真面目にポジティブな方で、とりあえず不眠を訴えたかたやきに、こう宣った。


「寝なくていいです。ホンマに眠くなったら寝ますよ、たいてい。」


そして、眠れようが眠れまいが、寝不足なんか気にせず規則正しく生活するように指示。

とりわけ退職者の立場に甘えて朝寝をしないように釘を刺し、くよくよする暇があるなら、眠くなるほど眠気を誘う、勉強でもしてみたらいいじゃん、と提起。

血腫も脳を開けるわけにはいかないが、ストレス軽減で解消できる類いの代物だと思うから、と、ひたすら前向き且つ建設的人生のおススメを受けた。


今思えば、あの先生に出会えて本当に良かった。

あのまま抗不安薬やら何やらを始めてしまっていたら、おそらく、今のかたやきは無い。

なぜそんなに断言するかと言えば、数年後、同じような経緯で診療内科の

敷居を跨いだ妹が、薬物依存から抜け出ず、亡くなってしまった事情があるからだ。

あの時、今の時代並みに安易に薬を処方されてしまっていたら、かたやきも、妹と同じ道を辿ったに違いあるまいと思う。


さて、それでは……と、その病院付属の看護師専門学校を受験しようとしたが、それは止められた。

一応、わりと深刻に病気療養中なので、もう少しライトにしておけ、とのお達しであった。

そのまんま言えば、「あんたは人の病気を看る前に、自分の病気があるやろ?」だ。

ごもっとも。

それでは……とばかりに、看護師学科としばしば併設されがちであった歯科衛生士学校の受験に挑んだ。

友人の勧めもあった。

出身学校による格差も少なく、就職も比較的確実。

一部には歯科衛生士と言えば若くてチャラいお姉ちゃんなイメージも蔓延していたし、「ミ○ミの帝王」のキャラクターなんかでエロい人格を付与されてしまっていたりもしたが、すでに結構いい年齢のかたやきには関係ない。

比較的入りやすく、成績成果で奨学金の出る学校を選択し、わりと楽勝で入学を果たした。


誤算は、制服。


当時、「なんちゃって女子高生」と言う流行り言葉があった。

意味は、推して知るべし。


本来、高校新卒生を想定してデザインされた、某ヤマ○ト・カ○サイのブランド制服は、ピンクのブラウスのやたらと大きな襟がフリフリひらめく、アラサー女の外見上に壊滅的打撃をもたらす代物だった。

いや、着る分には別に良い。

とりわけ不評だったのは実習生受け入れ先にであった。

「学校には話しておくので、頼むから私服で来てくれ」と頼まれたりしたものだ。

余談だが、かたやき入学の翌年、学校の制服はものすごくシンプルなブレザーに変わった。

買い直してブレザーを着用しても良いですよと、学校側から、かなり本気な提案を頂いたりもしたのだが、せっかくなのでピンクのフリフリ制服は、卒業まできっちり着用させていただいた。


在学中、卒業後の就職スカウトをいくつかいただいた。

かなり条件の良いお話が多くて、結構驚かされたものだ。


その中で、当時は親しい友人のような存在であった人からのお誘いを有り難く受ける事に決め、そして……今に至っているワケだ。


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おしごと白黒マダラ色 かたやき @raopinn

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