第40話 罠①
その後どうなったかというと、食欲と恐怖が限界値を超えて泣いた。何故だかわからないけど暫く涙は止まることを知らなかった。
そしてそんな泣いてる俺を先輩は慰めながらも一心不乱に写真に収めていた。一回死んでこいマジで。
「うっ……グスッ……」
「どうだ千秋? 少しは落ち着いたか?」
「はい……突然泣いてしまってすみません」
「いいんだよ、俺のせいなんだから」
いやほんとにな。なんで俺こんなストーカー野郎に泣かされてるんだろ。
「そんで食べる気になったか?」
「だからぁ……食べませんってばぁ」
「強情な千秋も可愛い……」
と、全て可愛いで済ませる先輩にいい加減苛立ってきた頃、突如先輩が安心させるような声を出した。
「そんなに頑張って拒否しなくてもいい。心配するな、食べても食べなくても千秋はここから出られるんだから」
「……え?」
あれ、聞き間違いかな。なんか今願ってもないことが先輩の口から出たような……?
「だから、元々千秋を介抱して俺のことを知ってもらってご飯食べさせたら家に帰すつもりだったよ。怖がってる千秋も強情な千秋も泣き顔千秋も見れたから今日は大大大満足」
うん、最後の一行マジでいらない。
でもそっか、ちゃんと先輩にも人の心はあったんだ。
どうやら先輩はあのレズっ子とは違うらしい。いやどっちもヤバイ人種には変わりないけど。
まあ何はともあれ良かった。俺、帰れるんだ。
「あーでもあわよくばチューしてもらいたいなぁ、なんて」
全然良くない。コイツ最後にとんでもない爆弾持ってきやがった。
『あわよくば』とか言ってるけどめちゃくちゃ目に期待宿してるじゃん。もう溢れ出てるよ。隠し切れてないよ。
「先輩、逆に聞きますが自分のことずっとストーカーしてた犯罪者もどきとチューしたいなんて思いますか?」
「え? 千秋は顔がいいなら後はどうでもいいんじゃないのか?」
「おいちょっと待て誰情報だコラ」
聞き捨てならなさすぎて草。
いや全然草生えない。至って真顔だボケ。
「誠至がよく『あいつは顔さえ良ければなんでもいいのか……』ってボヤいてたからてっきり……」
誠至かーーーーい。
なに余計な情報与えちゃってんの!? ほんとあいつロクなことしないな!!!
「それに既に倭人と誠至と琳門としてるだろ?」
「!? なんで知って……」
「自己中とむっつりと腹黒としてるくらいだから顔以外はどうでもいいのかと……」
「いやいきなりの悪口」
琳門のこと腹黒とか言ってるけど先輩の方が実は真っ黒なんじゃないの!?
ていうか琳門は腹黒じゃないよ!! 天使だよ!!
最近はたまにあれ? って思うことあるけど相変わらず可愛いもん!! 可愛いは正義!!
しかも何故そこにストーカーが仲間入りできると思った? 明らかにお前はアウトだろ。
と、そこで思い出したことがもう一つ。
「先輩ちょっと待ってください。その推理には誤りがあります」
「え?」
「よく考えてみてください。オーナーとは一度たりともしていません。むしろ指先が触れただけで俺かオーナーはこの世から消滅します」
「ハッ……なるほど、盲点だった……」
まあさすがにそんなくだらないことで自殺したくないからオーナーを殺すかな。
合点いったように頷く先輩を見てひとまず安心する。ふぅ、これで俺の『顔以外はどうでもいい説』は終了だ。
ありがとうオーナー。オーナーのおかげで窮地を脱することができそうだ。
よし、さっさとご飯食べて帰ろう。そして先輩とはもう二度と関わらないようにしよう。
「えーでもやっぱり千秋とチューしたいよー」
「ダメです」
「なんでさーあいつらだけずるいー」
なんで急に駄々っ子になるかなこの人。
自分がなにしたかわかってないの? 本当少しは俺の気持ちになってほしいんだけど。
「わかった! じゃあ妥協点としてこのノート最後まで読んで?」
「ひい!!」
おい! そのノートを近付けるな!!
もうそれ軽くトラウマだよ!!
ほんとなんでストーカー日記本人に見せようとするかな!?
頭沸いてんじゃないの!? ……ってこの先輩が頭おかしいのは今に始まったことじゃなかった……。
「ほら! どっちがいい?」
究極の二択。
「じゃあノートで……」
まあいくらなんでもチューよりはマシだろ。そう思ってノートを受け取る。
―――この時満面の笑みでノートを渡した先輩を見て、気付くべきだった。
全ては礎先輩の手のひらの上だということを……。
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