第36話 ストーカーヒーロー

 はあ、もう疲れた……勘弁して……。

 てか今思い出したけど私監禁されてるんだよ。思いっきりベッドに足繋がれてるんだよ。絶体絶命だよ。

 それに相手がこのど淫乱のレズっ子だよ……? もうアウトじゃない? 私の人生終了じゃない?


 はあーあ、まだ楽しいことやり尽くしてないのになーー。

 女の子にもっとチヤホヤされたかっ……まあ十分されてるけど。

 男には……もう高校までで気が済むまでモテたな。

 あれ? もう割と楽しんでる? むしろ次にやる楽しいこと探した方がいいんじゃない?

 そういえばさっき言ってた『女同士のセックス』気になるな……男同士なら想像つくけど、女同士ってどうやるんだ……?


「……、」


 女ってバラしても解放してもらえなさそうだし、ていうか逆効果だったし、……もういいかな。

 どうせここから出れないなら、潔くここでできる楽しいこと見つけた方が……。


 ゴロン、とベッドに寝転がる。


「え、なになに千秋ちゃんも準備万端? ヤっちゃう??」

「いーよー気持ちよくしてねー」

「任して!」


 もうなんだか全て面倒臭くなって、投げやりに身を差し出した。

 そしてレズっ子が覆い被さろうとしたまさにその時―――


 ピンポーン。


「……」

「……」


 部屋に響き渡る呼び鈴。反応した彼女がピタリと動きを止める。

 そして数秒も経たないうちに―――何事もなかったかのように覆い被さってきた。


「いやいやいや、今呼び鈴なったよね?? あれ??」

「聞き間違いだよ」

「いやそんなわけないじゃん?? 思いっきり反応してたじゃん?? 早く出た方がいいんじゃない??」

「大丈夫、私達を邪魔することはできない」

「アレーーこの子の脳みそおかしいゾーー」


 そこは出ろよ!! 私が助かるために!!

 ちょっと諦めかけたけど、タイミング的にバッチリじゃん。

 今まで散々仕事放棄してた神だけど今回ばかりはナイスジョブ!! まさしく天の助けだ!! と思ったのに……。


 もうこうなったら大声を出すしかない。見たところアパートの一室みたいだしドアの外に声が聞こえる可能性は十分にある。

 よし、息を目一杯吸い込んで――――


「千秋ちゃん、大声出したら……どうなるかわかってるよね?」

「……ッ、ゴホ、ゴホッ」


 思いっきり噎せた。詰んだわコレ。

 と、思ったその時……


「お届け物でーす」


 ガチャリ。

 なんと玄関のドアが開く音がした。これにはさすがに驚いたのか、レズっ子が慌ててベッドから降り部屋を出ていく。


「ちょ、何勝手に入ってるんですか?」

「鍵開いてたのでっ」

「は? そんなはず……」


 問答を繰り返す間にも段々と足音は近付いてきて、ついに部屋の前までやってきた。

 レズっ子の制止する声をまるっと無視している宅配便らしき男。

 いや待てよ? この声どっかで聞いたような……


「やっほー! お届け物は俺でしたー!」

「せ、先輩!?」


 ドアが開け放たれた瞬間、目深に被った帽子を投げ捨てた男。

 そこにいたのはまさしく礎先輩で……。

 え!? なんでここに!?


「さ、佐伯礎……! なんであなたがここに、」

「千秋がいるところ俺あり」

「おいストーカー」


 キメ顔してんじゃねえよ。これじゃあどっちがストーカーかわかんねー。

 ていうかよくこの場所わかったな。


「備えあれば憂いなし、ってな」


 そう言いながら端末を見せてきた先輩。

 そこにはここら一帯の地図が表示されており、ど真ん中で赤い点がチカチカしていた。


 ああなるほどGPSか。


「おいストーカー」


 全然なるほどじゃないわストーカー極め過ぎだろ。

 まあ何はともあれこれで助かっ―――


「千秋ちゃんとのハッピーセックスタイムを邪魔するなんて……殺してやる!!」

「!!?」


 ええええ!? はいいいいい!?

 ちょっと奥さんいろいろすっ飛ばし過ぎやしませんかね!? 普通もっと足掻くんじゃないの!? いきなりコロス発言ですか!?


 ちょっと先輩どうにかして!!


「うーん、まあ千秋と一緒に殺されるならそれもいいかな」

「おい駄犬この野郎」


 全然良くねえよ!? 何言っちゃってんの!? 誰がお前と殺されるって!?

 死にたいなら勝手に一人で死んでろ!!


「なんで私が先輩と――」

「ふん、私が千秋ちゃんを殺すわけないじゃない。あ、でも腹上死っていうのも素敵ね……一緒に死んじゃう?」


 こっちもヤバイーーーー!!!

 なんなの!? ストーカーの思考はみんな同じなの!?

 好きな人と一緒に死ぬのが美徳とかもう古いから!! ロミジュリはよそでやってくれ!!!


 つーかレズっ子の場合は腹上死かよ。どんだけ激しいプレイする気だ?? 死ぬまでヤり続けるって??

 ……ウン、全然興味とか沸いてないヨ? これっぽっちもネ。


「とまあ冗談はさておき」


 コホン、と咳払いをする先輩。

 え、冗談だったんですか。

 わっかりにくいわ!! もっとマシな冗談言えよ!! この状況わかってる!?


 まあ本気じゃなくて良かったよ。ここで心中とか絶対嫌だしね……腹上死も!!


「私は冗談じゃないわ。あなたが今すぐ消えないのなら私が消してあげる。物理的に」


 ひい!! 物理的に!?

 そう言ってキラリと包丁を光らせるレズっ子……ってえええええ!!?

 いつの間にそんなもん持ってた!? まさか先輩が来た時から!?

 この子最初から殺す気満々じゃん!! 飛んだバイオレンス娘だよ!!


「はあ……この手は使いたくなかったけど……」


 彼女の持つ鋭利な包丁に恐れ慄く私とは反対に、先輩がやれやれといったように溜息をつく。

 ってなんでそんな余裕なわけ!? あんた思いっきり切っ先向けられてますけど!? もうあと数センチで綺麗なお顔がズタズタにされそうですけど!?


「最終兵器だ」


 なんて、盛大にキメ顔をかました先輩がジャン! と見せてきたのは……


 ――――私の、女装姿……?

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