第37話 勝者

 ん? それって確か誠至とショッピングモール行った時の服じゃ……


 と、その時。


「んっはああああ!!? 何これ千秋ちゃん!? 女バージョン!? 髪長いしメイクしてるしワンピース着てるんですけど!! かんわいいいいい!!!」


 まさしく狂喜乱舞、といった様子のレズっ子。


 え、えええええ。

 なんか色々変わりすぎじゃない??

 てかさっき裸見たときもっと冷静だったじゃん……。裸体より女姿のが興奮してるってどゆこと??


「裸は神聖すぎてただ綺麗としか言えなかったけど……この姿は萌えが止まらないいいいいい」


 なんだかよくわからないことを言いながら鼻息を荒くして写真を食い入るように見つめるレズっ子。

 すると先輩がひょいと写真を上に持ち上げたため、身長差でこっからは全く見えなくなった。


「はっああああ……千秋ちゃん……」

「欲しいか?」

「欲しいいいいい」

「ふっ……じゃあわかってるよな?」


 写真をピラピラしながらニタリと笑う礎先輩。

 いやさすがにそんなんで釣れるわけ……


「ちなみに浴衣姿の千秋もあるぞ」

「乗った」


 釣れるのかよ。

 えっ? ねえおかしくない?? さっきまで先輩のこと殺そうとしてたんだよ??

 なのにそんな写真如きで……。


 写真と包丁を交換している先輩とレズっ子。どんな物々交換だよ初めて見たわ。

 その写真には花柄ワンピース姿の私や浴衣姿の私が写っていて……。


 ていうかさ、危うくスルーするとこだったけどさ。なに勝手に人の写真撮ってんだよ!!?

 え!? どういう心境!? さも当然のように写真見せびらかしてたけどそれどっからどう見ても隠し撮りですから!!

 こっわ。こっわ!!!


「それにしても千秋の裸……見たかったな……」

「ああ……さすがに恐れ多くて写真は撮れなかったわ……」


 おいそこ。変態もほどほどにしとけよ。

 全く、ストーカーが揃うとろくな事ないな……。


 はあ……言いたいことは山程あるけどとりあえず今は早く家に帰りたい。


「ねえ、そろそろ足枷外してくれないかな?」

「ああそうだった」


 思い出したように近付いてくるレズっ子。

 ふう、何はともあれこれでやっとこの子から解放される。

 そしてレズっ子がチャリ、と足枷に手をかけたその時――――


「でも、足枷を外すなんて一言も言ってないわよ?」


 …………は?

 いやいやいや。なに言ってんのこの子?

 そういう流れだったじゃん。私を解放する流れだったじゃん。


「どういうことだ?」

「千秋ちゃんの写真に免じてあなたを消し去ることはしないわ。でもコレは別よ」

「それじゃあ割りに合わないだろうが」

「そうかもね。でも写真なんて、千秋ちゃんがここにいる限り撮り放題」

「……チッ」


 先輩が苦々しく舌打ちをする。

 うわぁ、先輩のそんな表情初めて見たな〜〜って言ってる場合か!!

 まずいじゃんこれ!! やっぱり写真如きでそう上手くはいかないよね!! 知ってた!!


「しょうがない、この手は使いたくなかったが……」


 するとまたもや先輩がニタリと笑う。

 いやまたかよ。あんたどんだけ最終兵器持ってるの? そんなにあるなら勿体ぶってないで早く出せよ。


 そして怪訝な顔をしているレズっ子に先輩が何やら耳打ちすると―――。


「あなた……っ、それは卑怯よ」

「そうかな? お互い様だろ?」

「くっ……」


 レズっ子が苦悶の表情を浮かべる。

 あーはいはいどうせ同じパターンでしょ。また期待させて結局は状況変わらないんでしょ。無駄な争いは勝手にやってくれ。私はもう知らん。


 ゴロン、とベッドに寝っ転がる。そのまま目を瞑ろうとすると――――カチャ、と鍵の外れた音。ついでふわりと浮遊感が身体を支配した。


「!?」

「お待たせ千秋〜これでやっと帰れるぞ〜」


 驚いて目を瞠ると、いつものわんこ顔がにっこりと微笑みかけてくる。


 え!? 私解放されたの!? なんで!?

 すぐさま視線を彼女へ走らすと、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見上げていた。

 うえーまじか! マジで決着ついたのか! あんなに手強かったのに一体どうやったんだ!?

 そう驚いている間も先輩は私を軽々と抱き上げたまま部屋を出ていく。そのままなんの障害もなくパタン、と外に出ることができた。


 また最後の最後に何かくるかも! と身構えていた肩の力がようやく抜ける。

 うわ、ほんとに脱出できちゃったよ。もう一生あの部屋で過ごすと思ったのに……。先輩すげえ……。


「一体彼女に何を言ったんですか?」

「ん? ちょっとな、脅してみた」

「……」


 まあいいだろう。中身が気になるが今はとにかく疲れた。

 はあ……緊張感が解けたせいか急激に眠気が……。


「なんだ千秋、眠いのか?」

「……ん」

「まだ薬抜けてないのかもな〜」


 あれ……? なんで薬使われたこと知って……


「――――おやすみ、千秋」







 そして次に目が覚めた時、視界に映ったのは―――


「おはよう、よく眠れた?」


 見知らぬ部屋と、満面の笑みを浮かべる先輩。


 ……ねえ、全く状況が好転していないと思うのは気のせい?

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