第35話 VSレズっ子

 クソ、やっぱり信じてもらえないか……。

 こうなったら非常に不本意だが私も痴女になるしか……


「ちょっとあっち向いててもらえる?」

「なんで?」

「お願い」

「……! ち、千秋くんのお願いなら……」


 そう言って大人しく向いてくれた彼女。

 あれ、意外と従順だぞ。よしこの流れで……


「ついでに足枷外してくれないかな」

「ダメ」


 あ、はい。ですよね。

 これ以上彼女を怒らす前にいそいそと服を脱ぐ。


 ま、まあ見られながら脱いでもいいんだけどさ? 徐々にやるより一気に見せたほうがインパクトあるだろうし……と謎の言い訳は置いといて。


「はい、こっち向いていいよ」

「……ッ!!!」


 ゆっくりとこっちを向いた彼女が、目を見開く。そこにはジャジャーン! と腕を広げたマッパの私。

 うん、確かに全部脱ぐ必要はなかったかもしれない。でもほら、女性化乳房症だと思われる可能性もあるし。

 それにインパクトは大事よね、インパクト。男だと思ってた好きな人のこんな姿見たら誰だって一瞬で冷めて……


「き、綺麗……」

「……ん?」


 あれ、今『綺麗』って言った?

 私の裸体を凝視しながらポロポロ涙を流す彼女。……んんん?? あれ??

 なんか思ってた反応と違うぞ??


 ていうかなんで泣いてんのーーーー!!?


 余りにも不可解なことが多すぎて、今度はこっちが呆然とする番だ。

 ちょっと待て?? なんでそんな感動してる風なの?? 幻滅したんじゃないの??


「はあ……こんな綺麗な胸……初めて見た……」


 っていつまで見てんだよ!! 恥ずかしいわ!! あとさりげなく触ろうとしてるんじゃない!!

 とりあえず身の危険を感じたので素早く服を着る。すると彼女が残念そうな顔をしたので、余計訳がわからなくなった。

 信じたくないけど……もしかしてこの子バイなの? 裸体晒したの全くの無意味??


「私実は……物心ついた時からずっと女の子しか愛せなかったの」

「……え?」


 渾身の一撃を躱されて軽く絶望していると、彼女の独白のような声が聞こえて顔を上げた。

 どういうことだ? だって君が好きなのは《千秋くん》のはずじゃ……。


「でも、周りにレズなんていなかった。私が好きになった子はみんな彼氏がいたし……いつまでも彼氏を作らない私をみんな心配して……すごく辛かった」

「……っ」


 一瞬で話に引き込まれた私は、彼女の気持ちを想像して心を痛める。

 好きな人に好きな人がいること、そしてその相手に心配されること……どちらも体験したことはないけど、きっと心臓が引きちぎられる思いだろう。


「でも、どうしても男の人と付き合うことは無理だった。男はみんな野蛮だし幼稚だし煩いし……低脳だし汚いし気持ち悪いしウザいし」


 お、おお……。この子男に対しての嫌悪が止まらねえな。いくらでも出てくるじゃん。さては男を人間だと思ってないな?


「でも……あなただけは違った」

「っ、」

「あなただけは……どこまでも綺麗だった」


 目を見てしっかりと告げられた言葉。

 えへへ、綺麗だって。と顔がにやけそうになる。いや、今はそんな場面じゃない。


 とりあえず私も彼女の目を見つめる。


「一目見た時から恋に落ちてた。千秋くんの周りにはいっぱい女の子がいてあまり近付けなかったけど……この人となら、付き合ってあげてもいいかなって思ったの」


 うん、あのさ。ちょいちょい気になるんだけど、さっきから妙に上から目線じゃない??

 君絶対プライド高いでしょ。いかにも見た目お嬢様だもんネ。


 とそこで、ギュッと両手を握られて視線が合わさる。……あ、なんかすごい嫌な予感。


「でも、今思えば当たり前よね! だってあなた女の子なんだもの! 千秋くんじゃなくて千秋ちゃんだったのね! それに……男装してたってことは、あなたもレズよね?」


 ほらやっぱりいいいい!! 新たな問題発生いいいいい!!

 ちょっと待って!? 私レズじゃないよ!?

 そりゃちょっとは私ってそっちの気があったり? なんて思いもしたけど、普通に男とはヤりたいって思うしドキドキだってするし……。


 とそこで、倭人の顔が思い浮かぶ。

 そういえば温泉から帰ってからあんまり顔合わせてないな……今頃どうしてるんだろ……。

 っていやいや。こんな時に何考えてんだ。今はこの状況をどうにかしないとでしょ。


「がっかりさせるようで悪いけど、私はレズじゃないよ?」

「じゃあなんで男装してたの?」

「それは女の子にチヤホヤされるため……」

「レズじゃん」


 それな。動機はレズだわ。疑いようもなくて自分でもビックリ。


「でもほら、こう見えて高校では結構男と付き合ってたんだよ? それなりに経験積んできたし……」

「千秋ちゃん美人だもんね。それじゃあ周りがほっとかないでしょ」

「えへへ……ありがとう……」

「可愛い抱かせて」


 !? 『抱かせて』!? 何言ってんのこの子!?


「チョロい子大好き……」って恍惚とした視線を送ってくる彼女。


 チョロいって言うなああああ!!


「あ、あの、だから私はレズじゃ……」


 軌道修正軌道修正。

 もうこうなったらゴリ押しでいくしかない。


「まあ、レズではないみたいだね。でもバイなんじゃない?」

「え……!?」

「だってほら……」


 とそこで、瞬時に距離を詰めた彼女。

 徐々に離れていく綺麗な瞳には驚いた顔の私が映っている。


「女にキスされても嫌じゃないでしょ?」

「……ッ!!」


 ってなにやっとんじゃーーーい!!

 キス!? 今キスしたの!?


「あ、どうしよう千秋ちゃんの唇柔らかすぎて濡れてきた」

「ねえ今絶賛狼狽え中だからさらに混乱させること言わないでくれない!?」


 この子すぐそっちに持ってくじゃん!! とんだ淫乱だなおい!! もう口開くな怖いから!!


「てか女同士じゃキス止まりじゃん。それ以上なんてできないじゃん。そんなの不毛だよ……」

「あ、千秋ちゃん女同士のセックスに興味あるの? 教えてあげようか? いくらでも方法あるから安心して? 私が気持ちよくしてあげる……」


 だからちょっと止まって!? ストップストップ!!

 ほら脱がなくていいから!! 脱がさなくてもいいからあああ!!

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