第34話 影の正体

 あれ……? 確かにさっきまで大学にいたのに……ポヤポヤして頭が良く回らない。一体何が起きたんだ……?

 とりあえずどこまで記憶があるのか思い出さないと……。


 えーっと確か、今日もいつものように可愛い女の子からお菓子貰って、でも恥ずかしいから一人で食べてって言われて、帰り際食べたら段々眠くなってきて、それから――――


『千秋くん眠いの? 私の家近くにあるから寄ってく?』


 ……そうだ、背後で誰かの声がした後から、ぷっつりと記憶がない。それからどうしたんだっけ? 意識が朦朧とする中、誰かに手を引っ張られて歩いたような……。


「あ、千秋くん。起きたんだ」

「!」


 すると俺が寝かされていたベッドの横にあるドアがガチャリと開いて、一人の女の子が顔を出した。


「き、君は……」

「さっきぶりだね、千秋くん」


 そう、何を隠そう、この子は今日俺にフロランタンをくれた子だ。

 清楚で大人しそうな子。あまり喋ったことがなかったから、お菓子をくれてちょっとビックリしたんだよね。お、俺の隠れファンがここにも……! 的な?


 ……だけど、その君がどうしてここに……?


「フロランタン、美味しかった?」

「え? うん……とっても美味しかったよ」

「それは良かった。何度も作り直したんだよね。千秋くんの胃に入るって想像したら、なんだかすごく興奮しちゃって、作り終わる前に何度もベッドに駆け込んでたから―――」


 そこまで言って、俺が寝ているベッドへと視線をやる女の子。

 え、えーっと? まさかとは思うけど、この子もしかしてヤバイ子?? ソッチ系の住人だったりする??


「千秋くんをスムーズに連れてくる為とはいえ、睡眠薬入りのお菓子を食べさせちゃってごめんね? これからはそんなことしない。一生私が作った美味しいご飯だけ食べてね……あ、想像したら興奮してきた」


 いや完ッ全にヤバイ子だね!! ソッチ系だね!!


 ヤ ン デ レ の 女 の 子 が 現 れ た ! ▽


 じゃねえええよおおおおお!!!


 ええええええ!!? この子!? この子なの!?

 このいかにも清純でか弱そうで守ってあげたくなるような女の子No. 1みたいな子が俺をここまで連れてきたの!? 嘘だろ!?


「ふふ、慌てる千秋くんも綺麗だね。心配しなくても、ここには誰も来ないよ。私達二人っきりの世界」


 誰か嘘だと言ってくれええええええ!!


 逃げなきゃ!! と、その文字だけが脳内に浮かぶ。

 正直まだ薬が抜けきってないのか身体が自由に動かないけど、とりあえず起き上がらないと。

 そして上半身を持ち上げようとした時……


 ――――ジャリ。


「!!?」


 足元から聞こえた金属音。慌てて下半身にかかっている掛け布団を取っ払うと、そこにあったのは……


「ごめんね? 足枷なんて可愛くないよね? これでも頑張って可愛いデザイン探したんだけど……」


 ピンク色のモコモコしたソレ。ネコをモチーフにしているのか耳がピョコンと付いていて、鎖部分はしっぽみたいになっている。

 うん確かに可愛い。こんなデザインもあるんだ〜ってビックリもする。

 ……だけどあの、一つ言わせてもらいたい。

 そういう問題じゃない!!!!

 だって足枷だよ!? 足枷に可愛いもクソもあるか!! 思いっきり束縛アイテムじゃん!! 俺を逃す気微塵もないじゃん!!

 用意周到かよ!!? ほんとこんな可愛い子が何やってんの!?

 見た目も趣味も部屋の中も可愛いのにやってることが1ミリも可愛くないよ!!


 オーケー、とりあえず今自分が相当ヤバイ状況なのはわかった。どうにか逃げる策を考えないと。相手は女の子だし、まだ勝機はある!


「なんでこんなことを……?」


 よし、まずは対話を試みよう。言動はおかしいけど、いい子そうだし話せばわかるはず。


「千秋くんがいけないんだよ……あんなにいっぱい注意したのに、言うこと聞かないから……」

「注意……?」

「手紙送ったでしょ? 『誰とも喋るな』って……」

「あ、ああ……」


 アレか。いたずらだと思ってスルーしたやつか。

 って何やってんだよ俺えええええ!! ダメじゃん完璧スルーしちゃダメだったやつじゃん!!

 いやでもさ、やっぱり普通に考えて誰とも喋るななんて無理だよ!!

 え!? 俺どうすれば良かったの!?


「他にも『人と関わるな』とか『誰にも近付くな』とかいっぱい手紙書いたのに……」


 いやそれ手紙ってか脅迫文。しかも全部無理ゲーなやつううう!!

 でもおかしいな? 俺が貰った手紙は1つの筈だけど……。


「なのに篁琳門とはイチャイチャするし、佐伯礎とは相変わらず距離が近いし……」

「ッ、」


 今までの雰囲気とは一転、憎々しげに床を睨んだその子。

 ゾワリ、と感じたことのない寒気が背中を走る。

 うわーーーこの子じゃん、琳門といた時感じた視線絶対この子じゃーーーん。


 てか先輩と一緒のとこも見られてたのかよ。気付けよ駄犬!! お前もストーカーなんだから同じ仲間を見つけるセンサーとか携えとけよ!!


「……まあ、苛立ちを感じる度に千秋くんの物貰ってたから許してあげる」


 いやそれも君かーーーい。

 まあここまできたらそうなるわな。逆にこの子じゃなかったら更なる恐怖だよ。

 でもさ……、あのさ?? 『貰ってたから』って言うけどさ??

 まっっっったくあげたつもりありませんけど!? え!? 勝手に盗みましたよね!?

 どこがどうなったら俺から貰ったことになるの!? この子の脳内変換凄まじいな!!

 やっぱりこの子異常者なの!? 話し合う余地はないの!?


 どうしようどうしようどうしよう!! 当たり前だけどこんなことされるの初めてだからどうしたらいいかわからないよ!!

 一体どうすれば……、


「千秋くん、あなたがどうしようもないくらい好きなの……私以外の人とは例え同性でも、喋ってほしくなかったのよ……」


 こ、これだーーーー!!!

 よっしまだこの手があった!!

 すっかり忘れてたけど、俺……ゴホン、私は《女》だ。そしてこの子が好きなのは《千秋くん》。それなら、女であることを明かして《千秋ちゃん》になれば興味が削がれてここから出してもらえるのでは!?


「あ、あのさ!!」

「なあに千秋くん? 早速セックスでもする? 私はいつだって準備万端だよ?ほら今だってこうして同じ空気を吸ってるだけで濡れてきて……」

「ちょちょちょストップ待ったお願いだから脱がないで!!」


 この子とんでもないな!? なんの前触れもなくいきなり脱ぎ出したよ!?

 え!? 最近の清純な子ってみんなこんななの!? さすがに見た目とのギャップ凄すぎない!? 一歩間違えたら痴女だよ!!

 ……いやその前に監禁という名の大罪を犯してますが。


 ―――って呆気にとられてる場合じゃない!! 早く正体明かさないと手遅れになる!!


「き、君とセックスはできないんだ! 何故なら……私は女だから!!」

「ダウト」


 ダウトじゃなーーーーい!!

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