第33話 迫りくる影
と、自分が相当チョロいこともわかっていない俺が琳門の思惑に気付くはずもなく。
それから毎日のようにリハビリと称してはハグやらチューやら軽いボディータッチやらを琳門とするようになった。
俺がそれらを拒めなかったのは、日を追うごとに琳門の女性恐怖症がどんどん改善されていったからだ。
顔を合わす度、琳門が嬉しそうに『今日は3回女子と話せたよ!』『ちょっと身体当たっちゃったけど不快じゃなかった!』『世間話ができるようになった!』と報告してくれるのだ。
俺はそれを聞いて涙が込み上げるほど感動したし、もっと力になってやりたいって思った。
だから、
『もっと距離を縮めたら、治りが良くなると思うんだ』
なんて琳門の提案にも快く乗っていた。
多分、感覚が麻痺していたんだと思う。毎日のように触れ合っていたせいで、俺自身抵抗がなくなっていた。
なんだかんだ琳門には隙をつかれてチューしてたし、それ以上に距離を縮めるってどういうこと……と思っていたら、当たり前のように舌を差し込まれ。
ビクつく俺を逃すまいと琳門が腕を絡めてきて、結局好き放題にされてしまった。
あれ……俺なんか流されてない? そうぼんやりとした頭で思うけど、ぽやぽやしてよくわからない。
「はあ……千秋最高」
まあ、琳門がいいならいいかな。
これで女性恐怖症なんてズバッとサクッと克服してほしい!!
……なんて思っていた俺は、やっぱり馬鹿なんだと思う。
◆◇◆
そんなある日。
「……あれ?」
カバンを開いて首を傾げる。ペンケースを取り出そうとしたけど何故か見当たらない。
家に置いてきた? いやでも、さっきの授業で確かに使った。教室に忘れてきたかなー。とりあえず今は誰かに借りて、後で探しにいってみるか。
―――だけど、その後何処を探しても結局見つからなかった。
あーあ、どっかに落としちゃったかなぁ。結構バタバタしてて確認せずに移動したりするからな……。
―――と、最初は自分がそそっかしいせいだと思った。確かに昔からよく忘れ物とか落し物もする方だったし、大学でも何度か同じことがあった。
……だけど、その日から連続していろいろな物が無くなるようになった。
いくらそそっかしい俺でも、こんなに頻繁に何かが無くなることはない。
手帳や教科書、誕プレで貰ったアクセサリーなど……どれも失くしたら困るものばかり。
もしかして俺虐められてる!? た、確かに高校でもいつの間にか私物がゴミ箱に捨てられてたこととかあったけど……。その度に誠至が犯人突き止めて沈静化してくれてたけど……。まさか大学でも同じことが!?
さすがに大学ではこんなことないだろうと思ってたのにな……でも現に起こってるんだから何も言えない。
一度誠至に相談してみるか? いやでも……あの頃とは違って今はあの男とは友達でも何でもない。そんな赤の他人に相談するのはちょっと……。
あの頃みたいに解決する度ドヤ顔されるのもなんか腹立つし。まあ当時は助かってたけども。
だけどついに、黙っていられなくなった。バイト先の制服がなくなったのだ。
普段ロッカーに入れてて持って帰るのは週の終わりだし、シャツなんて大きいものをどこかに落としたまま気付かないなんてことはない。
そもそも脱いだらすぐロッカーに入れるので落としようがない。
ずっと大学の誰かだと思ってたけど……バイト先にまで手を出してきたってことは……。
それに更衣室は従業員しか入れない。となるとお客さんではなく、内部犯―――?
疑いたくないけど……従業員の中に犯人が?
考えろ。そこまで絞ったら突き止めるのなんて簡単だ。
怪しそうなやつ、怪しそうなやつ……
……ってどう考えても一人しかいないじゃん!!!
「せーーんーーぱーーいーーー!!」
「うおっ、千秋どうした?」
「どうしたもこうしたもありませんよ! ふざけないでください!!」
「え、何が?」
こ、コイツ……!! あくまでも惚けるつもりだな!! そんなことこの俺が許しませんよ!! 俺の物を盗みそうなヤツなんて礎先輩しか思い浮かばないわ!! このストーカー野郎!!
「千秋いきなりどうしたんだよ? 猫みたいに毛逆立てて……さては構って欲しいのか?」
「はあ!?」
確かに最近大学行ってなくて顔合わせてなかったもんな〜とすまなさそうに笑う先輩。
というのも、3年生はこの時期になると段々授業が減ってきて大学は来なくなる人が大半だ。いやでも普通にバイトで顔合わせてるわ。お前の脳みそはミジンコサイズか?
それに誰が構って欲しいだと!? 寝言は寝て言え!!
「いい加減罪を認めたらどうですか! 俺はもう全てわかってるんですよ!」
「罪?」
「だから! ここ最近俺の私物盗んでるの先輩でしょ!? ついにはバイト先の制服まで……!」
替えなんて持ってきてなかったから、サイズの近い琳門のを借りるしかなかった。
後でそのこと言ったら《お礼》と称していつもより多めにリハビリ手伝うハメになったし……。
それもこれもお前のせいだ!!
「観念しろ!!」
ビシィ! とどこぞの探偵みたいに指をさす。加えて睨み上げた先には……
「んー……全く身に覚えがない。犯人俺じゃないよ」
きょとんとしている先輩の姿。
ぬわっ、なんだと〜〜〜!!?
「嘘つかないでください!! 先輩しかいないでしょうが!! ストーカーのくせに!!」
「心外だなぁ。俺なら千秋に気付かれないようにやるよ」
「いや盗む時点でアウトだわ」
なに平然と言ってんのこの人。こっわ。気付かれないようにやるとか一番やべえやつじゃん。やるなら完全犯罪ってか? さぞかし将来優秀な盗人になれるでしょうね。
でも……確かに先輩の言うことにも一理ある。普段から一切気配を見せずストーキングしている先輩のことだ。こんなわかりやすく物を盗んだりしないだろう。
なら一体誰が……。
「そうか……千秋ストーカーに合ってるのか……」
すると顎に手を当てた先輩が思案げに呟いた。
「まだそうと決まったわけではありませんけど……イジメかもしれませんし……」
つかストーカーなんてお前一人で十分だわ。いや一人もいらねえわ。
「イジメ? 千秋誰かから恨みを買うようなことしたのか?」
「いや、自分では思い当たらなくても無意識にやってることだってあるじゃないですか。高校の時だって男とばっかいたからよく女子から疎まれることあって……」
「まあ千秋は可愛いからな〜そういうこともあっただろうな。可哀想に……。でも今は《男》だろ?」
「……!」
先輩のその言葉に、カッ! と両眼がかっぴらいた。
た、確かに……!! 今は男の姿だった!! 誰がどう見ても男同士が仲良くしてるだけだよ!!
そんな姿を見て女の子が悪感情を抱く筈がない。……だとすると、
「俺のセクシーさに嫉妬した憐れな非モテ男子の僻みか……?」
「うん、そういうアホな千秋も可愛くて好きだぞ?」
至って真剣に言うと、そんな俺の髪をわしゃわしゃと先輩が撫でてきた。
って誰がアホじゃ!! お前だけには言われたくないわ!!
――――結局、犯人はわからずじまいのまま。
最後に『千秋はその姿でも十分可愛いんだから気をつけろよー』と言い、先輩はどこかへ行ってしまった。
なーんだ、絶対先輩が犯人だと思ったのにな〜。……って悔しがってる場合じゃないか。えーでも犯人見つけるの怠いな……。もう誰でもいいから早く名乗り上げてよ……。
――――なんて、思っていたのがいけなかったのだろうか。
「……ん? どこだここ?」
目を開けると、そこは身に覚えのない場所だった……。
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