第21話 怒り心頭
「ちょ、ちょっと待とうか誠至キュン。何をそんなに怒ってるのかな??」
「お前が一欠片も俺のことを意識していないのはわかった」
「いやだからなんで『友達』の誠至を意識する必要が……」
「それ以上口を開かない方が身のためだぞ?」
「ッ!!」
ゾクリ、と背筋に冷たいものが這い上がる。
や、やばい。なんか知らんけど過去最高に怒ってる。
出会った当初どんだけウザがられても付き纏って隙あらばちょっかいを出し、その度に怒鳴られてたけどそんなん比べ物にならないほどお怒りのようだ。
ヘルプミー神様!!
……なんて、今までのことで散々神様なんていない(いたとしても俺の人生を弄ぶ破滅の神)ってことがわかっていたくせに、そんな神様に助けを求めてしまったのが愚かだった。
「……もういい。もうこれ以上我慢すんのも疲れた。そうやって俺のことを無視し続けるのなら……嫌でも意識させてやる」
「……ッ!?」
瞬間、及び腰の俺の腕を掴みびっくりするくらいの強い力で引っ張られる。
抵抗する間もなくラグの上に押し倒され、そのまま覆い被さってきた誠至。全体重はかけられていないまでも両手首はしっかりと固定され、到底逃げられそうにない……っていきなりどうした!?
え!? なに!? 今どんな状況!!?
「せせせ誠至? 一体君は何をしているのかな??」
「見てわかんねぇ? 押し倒してんの」
「それはわかるけども!! ……え!? なんで!?」
「察しが悪いヤツだなぁ。密室に男と女が二人きりだぞ? することなんて決まってんだろうが」
……なんて、どっかの性欲魔人みたいなことを言う誠至……ってもしかしなくてもそういうこと!? 私今ピンチ!!?
「ままま待って、冗談だよね誠至さん?? あれ?? 私達お友達だよね??」
「冗談で押し倒すほど俺はユーモア溢れてねえよ。友達だと思ってんのもお前だけな。俺は高校んときからお前のことが好きだったよ」
「!?」
え……。
……んえ!? はいいいい!!?
「いやいやいや何言ってんの!? さすがに嘘でしょ!? ……だって全くそんな素振り見せなかったじゃん!! 告白だって一度もされてないし!!」
「それはお前を一番近くで見ててお前がどんだけ最低な女かよぉ〜くわかってたからな」
「さ、最低!?」
「最低以外の何者でもないだろ。告白されたら顔さえ良ければ付き合って? 散々性欲処理として扱って? 次のイケメンが現れたらポイして乗り換える」
「わあ最低だあ」
なんだその女誰だ? 最低すぎだろ……って自分か。
え、マジか。私って客観的に見たらそんなヤバイ奴だったの? ……そりゃあ周りの女子にやっかまれるわけだわ。
しかも自覚がない分タチが悪い、なんてものじゃないな。
だって私昔からずーっと自分さえ楽しければそれで良かったんだもん。
楽しいこと突き詰めていったらそうなっちゃっただけで……まあそれがいつしか変な方向行って男装なんて始めちゃったけど。
「俺はお前の山のような元カレ(ゴミ)みたくなりたくなかったんでね。告白するにもできなかったよ」
そう自嘲めいた笑みを浮かべる誠至。
……なんか副音声で『ゴミ』って聞こえたんだけど気のせい?? 『元カレ』の単語の時だけひっくい声で吐き捨てるように言ったよね??
あれ?? やっぱり怖いぞコイツ。
「そ、そうなんだ実は私のこと好きだったんだね。いやぁ全然気づかなかったな〜アハハハ。……よし、じゃあもう遅いし解散するか! 作戦会議はまた今度……」
「いや何なかったことにしようとしてんの? させねえよ? もう俺には後がないの。お前が無自覚脳内お花畑野郎のせいでどんどん変な虫がたかってくるし?」
「何気に貶したよね今」
「それにこの体勢……もう我慢できねえわ」
「ッ!?」
私の渾身の会話チェンジ気逸らしを物ともせず、何やら瞳をギラつかせる誠至。
……ん? 『我慢できない』? 何に??
なんて考えるよりも早く、誠至の端整な顔が近付いてきた。
「ええええ!? 待ってもしかしてキスしようとしてる!? え!? 嘘でしょ!?」
「……もういい加減黙れ」
「誠至!! ちょ、……ッ」
瞬間、しっとりと合わさってきた唇。
倭人のときみたいに強引ではなく、こちらを確かめるように優しく触れてくる。緊張しているのか若干唇が震えていて……って冷静に分析してる場合じゃないよね!!
何やってんじゃコラァ!!!
「せ、誠至……ッやめ、」
「……無理」
と、制止の言葉を紡いだ瞬間いつぞやのように舌が入り込んでくる。
いや学習しろよ自分!! これじゃあ倭人の二の舞じゃん!!
てか誠至もなんなのほんと!!
え、こんな熱く求めるようなキスできたの!? 私が知る限り女遊びなんてしてなかったよね!?
「んぁ……、」
「……エロ」
テクニック……っていうより一つ一つが丁寧。口内の全てを舐め取られるんじゃ、てくらい舌が動き回って、私が反応すればソコを集中して責めてくる。
倭人のはただただその高度なテクに翻弄されるだけだったけど、誠至のはなんていうか……すごい、ムズムズする!! なんか無理!! アウト!!
――――そんな状態がどれくらい続いただろうか。
いつの間にかすっかり抵抗する気は失せていた。ぽやぽやする頭では何も考えられない。
『これに懲りたら……男に対してもっと危機感を持つんだな』
何かに耐えているような苦しげな表情の誠至が、そう言って部屋を後にしたことはなんとなく覚えてる。
―――あーあ、誠至とキスしちゃった。友達だと、思ってたんだけどな……。
まだ唇に余韻が残る中、複雑な心境を抱え……静かに夜が更けていった。
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