第20話 作戦会議

 あれ、おかしいぞ。ここ数日の出来事を思い返してみる。

 考えれば考えるほど……バレるスピードおかしくない!? なんなの!? 倭人にバレてからというものあっという間にバイト先制覇かよ!?

 まあ若干一名既に気付いてたらしいけど……。


 どうしよう!! ねえどうしよう!?


「誠至いいいいい!!」

「うお、なんだよ千秋」


 バイト終わり、周囲に誰もいないのを確認して誠至に飛びつく。


「助けて誠至!! どうしよう!! 俺どうすればいい!?」

「どーどー。とりあえず落ち着け。何があった?」

「……っ、バレちゃった」

「……は?」

「琳門と先輩にも、俺が女だってバレちゃった!!」

「……」


 瞬間、誠至が悟りを開いたような顔で遥か遠くを仰ぎました。



 ◆◇◆



 あの後、意識を飛ばす誠至をなんとか元に戻して、作戦会議をする為俺の家へと連れてきた。

 誠至が「ちょ、それはマズイだろさすがに……ッ」とかなんとか言ってたけど、人の目がある場所で作戦会議なんてできるわけないでしょーが。

 いつ何処で誰が聞いてるかわかったもんじゃない……!


「よし、では第一回千秋クンを守るぞ会を始めます」

「いや全然『よし』じゃねぇから。お前はなんでそう危機管理能力がないんだ? そういうとこだから。今そんな目に遭ってんのも全部お前のそういう甘さ故だから!」

「静粛に。会員ナンバー1番、発言は然るべき時にしてください」

「なあお前やる気ある? もう俺帰ってもいい?」


 ああもうっ、煩いな!! こんなんじゃいつまで経っても作戦会議始められないでしょーが!!

 ちゃんと現状把握してる!? 今俺はまさしく崖っぷちに立たされてるの!!

 そっちこそ危機感をちゃんと持ちたまえよ!!


「真面目な話───」

「お前が話してる時点で真面目さは皆無な」

「どうやったら俺は平穏な男装生活を続けられると思う?」

「……、はあ……」


 男装生活をしてること自体が間違いだっていい加減気付けよ……と誠至のボソボソとした声が届くも、おそらく重要なことではないので無視だ無視。

 会員らしく俺を守る為の提案をしていただきたい。


「つーかなんで他二人にもバレてんだよ。これ以上面倒ごと増やすなって言ったよな? あ?」

「聞いてない」

「ああそうだな。心の中で言った。でも普通わかるだろーが。そもそもなんでバレたんだ?」

「そ、それは……」


 途中なんかすんごい理不尽なことを言われた気もするけどまあいいだろう。

 なんでバレたか、ね……。


「……倭人が琳門に喋りやがった」


 謎のキス付きでな!!

 ほんと何なんだよアイツ!? 顔合わす度にチュッチュチュッチュしやがって!!

 俺の理性をどうする気だよ!!!


「……へえ。アイツがか……下手にバラすようなヤツではないと思ったが……篁が女嫌いだからか? でも篁は……」

「誠至?」

「……それで、その後篁は?」


 何やらブツブツと言い始めた誠至に声をかけると、探るような視線を寄越された。

 誠至ってよく一人で考え込む癖あるよね。面倒だから深くは突っ込まないけど。


「あれから全然会ってない……バイトもあんま被らないし……ねえこれって避けられてるのかな? 俺嫌われちゃった??」

「……」


 すると、また何やら考え込む誠至。

 もう、なんだよその神妙な顔!! コッチだってすっげえ悩んでるんだけど!?


 ほんとあれから全くもって琳門と顔を合わせていない。大学で見かけても俺の顔見るなり逃げちゃうし。

 これってやっぱり避けられてるよね!? 俺が女だってこと隠してたの怒ってるのかな!? それとも女の私にはもう近付きたくもないってこと!?


「とりあえず篁は置いておこう。それで佐伯は?」

「いや何も置いてっちゃダメだから!! もっと真剣に答えて!?」

「それで、佐伯は?」


 再度圧をかけるように聞かれた質問。

 もうなんなんだよ!! さっきから一人で考え込んでるかと思ったら!! 少しは俺の話も聞いて!? これ一応作戦会議なんですけど!?


「礎先輩は……なんか最初から気付いてたらしくて……」


 でもまあ怖いのでちゃんと答えますハイ。

 ……クソッ、こんな時だけその氷点下みたいなクール顔を発揮するのは良くないと思う!! こっちまで凍てつくかと思ったじゃん!!


「んだよやっぱり犬被りしてやがったか……とんでもねえなあの駄犬……」

「あ、あの誠至さん?」

「……んで? それで終わりか?」

「え、えっと……」


 さて言うべきか言わないべきか。


「……千秋、」

「こっ、告白されました!!」


 いや別にビビったわけじゃないからね!?

 ほら、その、生きる為には必要なことなんだよウン!!


「―――告白だあ?」


 瞬間、ギロリと鋭利な瞳で睨まれる。

 むむむむ無ーー理ーーー!!!

 なんなの何その威圧感!! 怖い!! 怖すぎる!!

 いつもはもっと残念な感じじゃん!! そんだけクールな見た目のくせにどうしてそうなった? ってくらい愉快なキャラじゃん!! 俺と精神年齢同じだし……ってこれは自虐だやめよう。

 なのにどうした!? 今はその見た目通り絶対零度のオーラがビンビンなんですけど!?


「……それで? 付き合うのか?」

「そそそそんなわけないじゃん!! 俺は男だよ!?」

「説得力のカケラもねえな」


 俺の渾身の返しを一蹴する誠至だけど、どうやら間違ってはいなかったらしい。

 さっきから俺が何か発言する度にどんどん怖いオーラを纏ってったけど一瞬それが緩んだ気がした。

 ああ怖かった。死ぬかと思った。


「ハッキリ断りたかったのにさあ〜なんか側にいるだけで良いとか言うし。いつまででも待つとかさ、どこの忠犬だよって感じ」

「……許したのか?」

「え?」

「告白してきた男がこれからも側にいることを許したのかって聞いてんだ」

「え、うん。なんか俺の協力者になるってわんこ顔で頼んできたからしょうがなくね」

「……へえ?」

「ッ!!?」


 んんん!? あれ!?

 いつの間にかまたあの背筋が凍るようなオーラ纏ってない!? 気が緩んでベラベラ喋っちゃったけど百パーセント失敗だったねコレ!!


「お前はそうやって頼まれればホイホイ頷くのか? え?」


 ひいいいい!! なんか威圧感が今までの倍になってる!

 なにいつから作戦会議が説教会になったの!? ただただ俺のメンタルが削られていくだけなんですけど!?


「ほんとお前には一度『危機感』ってものを教え込みたいよ。今だって平気で男家に上がらせてるし? 密室なのに全くもって警戒してないし? なんか良い匂いするし?」


 いやなんだ最後の関係ないだろ。

 まあ確かに高校時代から危機感がどーのこーのと言われ続けてきたけど、全く見に覚えないので全部シカトしてきた。別に今まで困ったことないし。


 それに誠至はそう言うけどさ……、


「誠至は男である前に《私》の唯一の男友達でしょ? 危機感とか警戒とか、あるわけないじゃん」

「千秋……お前、」


 そう、誠至は《私》の初めてできた男友達だ。

 まあ親友ポジションには琳門がいるけど、それはあくまで『千秋くん』の親友。《私》の男友達は今までもこれからも誠至一人だ。


 だからそんな意味も込めてドヤ顔で言い放ったのだけど……、


「この状況で一番言っちゃあならねえことを言ったな?」


 ピキリ、と額に青筋が浮かぶのが見える。

 あ、あれ……?

 うえええ!? 待ってなんで怒ってんの!? 今俺めっちゃ良いこと言ったよね!?

 なんかプルプル震えてるから感動してんだなプププ、なんて思ってたけど全然違ったねウン!! 怒りで震えてただけだったわ!! 怖!!

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