第31話






   31話





 「では、私の話を話をしましょうか。と、言っても私の事だから、そんなに話すこともないのだけれど………それに、もっと聞きたいこともあるのでしょう?」

 「………まず、星詠み人について教えてくれませんか?」

 「えぇ……そうしましょう。」



 もう冷めてしまっているだろうコーヒーを一口飲むと、黒葉の祖母はゆったりとした口調で話始める。

 それを、2人の男が真剣な顔で聞く様子ははたから見たら、取材でもしているようだった。




 「星詠み人は、言葉の通り星を詠む人。今で言う占い師のことだったの。でもそれは大昔からあって、代々占い師を受け継ぐ事である時、特別な力をもった女の子が産まれたの。それが星詠みの力。星に語りかけることで未来の欠片を見ることが出来る力。星に一生を捧げた平星家が、星からもらった力なのかもしれないわね。」

 「では、その女の人が産まれてからその力は受け継がれているんですか?」

 「力を持たない子もいたけれど、ほとんど力を持って産まれていたと聞くわ。けれど、それには決まりがあるの。」

 「決まり……?」



 占いの事となり興味が出るのか、付き添いとして静かにしていた累が我慢出来なくなったのか、声を出して祖母に聞いた。

 すると、累の方を向いて祖母はゆっくりと頷いた。



 「そう。女しかその力を受け継がなかったわ。私の祖母は力がなかったけど、私の母、私、娘に、孫の黒葉。みんな力はあったし、私の姉妹たちも力があった。けれど、不思議と本家から血が離れていくと力もなくなるみたいなの。だから、平星家だけの力のようね。」

 「その力は誰の未来でも見れるんですか?」

 「えぇ、もちろん。その人の事を考えて未来のどんな時を見たかを星にお願いするだけ。そうすると見ることが出来るの。新月のよるは月の光がないでしょ?だから、星の力が強まるのか、願ってもいないのにその未来が目に飛び込んでくる事があるわね。」



 それを聞いて、葵音は黒葉と湖で星を見ていたときに、彼女の様子が変わったことを思い出した。今思えば、あれら俺の未来を見ていたのかもしれないと、葵音は思った。



 「黒葉は、その力が自分にあること。そして、それを使ってお金のために知らない人の未来を見るのが役割だと知ってから、考え込むようになった。誰かを救える力があるのはすごいことだけれど、それをお金目的で使っていいのだろうかとね。自分の特別な力ならば、自分が大切にしている人に使いたいと思うようになったの。それを私にも相談してきたわ。………もともと私もお金も目的で使うのはおかしいと言ってきたから、黒葉の意見に賛成したの。……そして、力をまだ見ぬあなたに使った。その事によって家族に疎まれるようになってしまったけれど……。」

 「そうですか………。」

 「黒葉が必死にお金を返して家から出たという時に、私は星詠みの力を使ったわ。彼女がみた未来はあまりにも危険すぎるとわかっていたから………そして、未来を見たのは………今日だった。」 

 「今日………。」



 葵音はそれを聞いて驚いた。黒葉の大切な日を見ようと願った祖母は、星詠みの力で見たのは事故の日ではなく今日だったのだ。

 それは何を意味しているのか。

 黒葉の未来にとって、事故よりも大切な日となるのだろうか………。

 それを考えて、ハッとした。

 

 葵音が驚いた顔で祖母を見つめると、黒葉の祖母はニッコリと笑った。



 「そう……。黒葉の未来にとってこの時間が大切だという事は、事故で黒葉が亡くなることはない事を意味してるのでしょうね。事故で死んでしまうならば、私は事故の日を見ていたはずだから………。黒葉にとって、私とあなたが出会うことが何よりも重要だったのよ。」

 「そう、ですか………よかった………。」



 葵音はどっと力が抜け、小さく息を吐いた。

 事故から目を覚まし、彼女がいつ目の前から消えてしまうのか。そんな不安ばかりの日々から開放されたのだ。

 葵音は思わず泣きそうになってしまった。



 「大変だったのよ。私も星詠みの力で見たのはこのお店の今月のカレンダーだけだったから、ずっとこのお店に通っていたの。……でも、その甲斐があったわ。」

 「あの………ひとついいですか?」



 累はおずおずと小さな声でそう尋ねると、祖母は「ええ。どうぞ。」と、優しく返事をした。

 緊張した態度のまはま累は祖母に質問を投げ掛けた。



 「星詠みの力は1度だけ使えると言いましたよね。その……あなたはどうして何度も支えるのですか?」



 累が質問したことは、葵音も疑問に思っていたことだった。

 黒葉は1度だけの力のせいで、家族に疎まれてしまい、苦しんでいた。何度も見ることができたからお金のためにまた力を使えるのだ。

 彼女がそうするとは思えなかったけれど。



 「………私は特別よ。1年に1回ぐらいは使えるの。けれど、星詠みの力はとても精神力を使うから、こんな老いぼれた体では使えないんですけどね。可愛い孫のために、頑張ってみたわ。」



 「そのお陰で1ヶ月入院したけれどね。」と、苦笑しながらも星詠みの力でこうやって葵音に出会えたことが嬉しかったのか、黒葉の祖母は満足そうな顔を見せていた。




 「………お話を聞かせてくれてありがとうございます。それに、俺たちを待っていてくれて感謝します。」

 「いいのよ。黒葉の大切な人に会えて私も嬉しかったしね。………それで、私の話を聞いて………葵音さん。あなたは、これからどうするつもりなの?」



 黒葉の祖母の問いに、葵音は少し考えたあとに、まっすぐな視線を彼女に向けた。




 「黒葉さんの両親に会わせていただけませんか?」





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