第28話






   28話






 「悪いな……こんな弱った姿ばかり見せて……。」



 葵音がバツの悪そうな顔を見せながら累にそういうと、彼はいつもと変わらない笑顔と言葉で応えてくれた。



 「いつもかっこよくてクールな葵音のこんな姿を見れるなんてなかなかないからな。」

 「なんだよ、それは……。」

 「まぁ、でも……そんなに周りも見えなくなるぐらい感情的になるなんて、彼女は本気だったんだろう?……遊んでばかりの親友にそんな相手が見つかって、よかったよ。」

 「………そう、かもな。」



 黒葉の手紙をよ見終わった後、そんな話しをする。手紙が非日常的だった内容だったので、少しだけホッとする。

 今、こうしている時に彼と一緒でよかったと葵音は思った。もしも、一人きりだったら、きっと悲しみのどん底に落とされて、這い上がることだけでいっぱいいっぱいだっただろう。微笑みを浮かべることすら困難なほどに。




 「累も見てくれるか?……きっと、黒葉なら許してくれるはずだ。」

 「あぁ、読ませてもらうよ。」



 そういうと椅子から立ち上がり、葵音の持っていた日記を受け取った。

 累は、その場に立ったまま、その手紙を親権な眼差しで読み始めた。







 そして、しばらくすると何故か納得のいった表情で視線を葵音に向けてから頷いたのだ。

 累から日記を受け取りながら、葵音はその顔の意味をたずねた。



 「どうしたんだ?妙にすっきりした顔をしているな。……何かわかったのか?」

 「あぁ………初めて黒葉ちゃんと会った時に自己紹介をしただろう?その時に、彼女の苗字を聞いたときに、何かひっかかるものがあったんだ。どこかで聞いたことがあったんだよ。」

 「平星家……。」

 「そうだ。僕も占い師だからね。未来を詠む力なんて話は耳にしたことがあったんだ。政治家さんとかのお得意さんの間では有名な話みたいだけどね。………随分前に聞いた話だったから、思い出せなかったよ。あのとき思い出せればよかったんだけど。」

 「………いいんだ。俺なんて、知らないことだったんだ。それに、黒葉は知られなくなかったって事なら………仕方がないさ。」



 苦い顔を浮かべながらも、累が知っていた事で何か手がかりが掴めるのではないかと思った。


 けれども、今さら星詠み人を知ったところで何になるのだろうか。

 もう事故は防げないし、彼女は目覚めないというのに…………。



 「黒葉ちゃんの免許証あるかい?見せて欲しいんだけど………。」

 「あぁ、ここの箱の中に入っている。」



 箱からそれを取り出して累に渡すと、累は住所を見たのか「あぁ………やっぱり北の方だと言っていたし、ここに星詠み人の家系がいたのか。」と、独り言をブツブツと呟いていた。




 そして、少し考え事が落ち着いた頃に、ようやく葵音の方を向いて問いかけてきた。


 「大丈夫かい?さっきまで泣いていたけど………少し落ち着いているようだね。」

 「自分の信じられない予想のお陰で、驚きは少しで済んだのかもしれないな。でも、こんなに昔から運命の人としてずっと考えていたとは思ってもいなかったよ。」

 「運命の人とか、葵音は信じるタイプじゃなかったのにな。」

 「おまえと黒葉の言う事は信じられるよ。」

 「……本当に葵音は変わったね。」



 葵音の言葉に驚いた顔をし、けれども嬉しそうに累は笑っていた。



 「日記を読んでも、彼女が目覚めるわけでもない。けれど、葵音は日記を読んで何か考え付いたんだろ?」

 「………黒葉は星詠みの力で俺を助けてくれた。そして、星詠みの力で大怪我をしてしまった。けど、彼女の星詠みの事を知らなすぎるんだ。だから、星詠みについて知りたい………だから、黒葉が住んでいたところに行きたいんだ。」

 「そう言うと思ったよ。」



 黒葉の住んでいた所へ行っても何もわからないかもしれない。それにわかったとしても、彼女を救えるわけでもないのだ。


 けれど、彼女が育った場所、星を見てまだ見ぬ葵音を想い星詠みの力を使っていた場所、黒葉が星を眺めていた場所。


 そこに行って、彼女が居た場所に触れてみたいのだ。


 

 「それに、自分の娘が怪我をしたというの家族が知らないというのも、おかしな事だと思うしな。」

 「……それが普通の家庭ならね……。平星家がどうかはわからないよ。」

 「そう、だな………。」



 家族だからと言って、必ずしも心配するわけでもないのは、葵音もわかっている。

 実際、黒葉は家族から逃げるように葵音の元へとやってきたのだ。そして、星詠みの力がなくなったら、娘からお金を取っていたという環境だ。


 お見舞いにも来ないのか。それとも、本当は心配をしているのか。後者だといいなと、葵音は思った。




 「星詠みの力は僕も気になる事だし、一緒に行くよ。」

 「ありがとう。心強いよ。」

 「………けど、葵音はどうするんだい?まだだから、退院するめどなんて立っていないだろう?」

 「………抜け出すさ。1日ぐらいならそんなに怒られないだろう?」

 「怒られると思うけどね。」



 累は困った顔をしたけれど、葵音を止めることはしなかった。きっと無駄だとわかっているのだろう。









 葵音は日記を読んで、ふと考えた事があった。



 それは、黒葉と葵音は、星詠みの力な働いて出会い、恋をしたものなのかという事だった。


 星詠みの力で事故の事を知ったから黒葉は動き、葵音を見つけ出してくれた。

 それは、星詠みがなかったら恋愛などしなかったのかもしれない。

 星に決められた出会いだったのだろうか?



 そんな事を考えたけれど、葵音はそれはそれでよかったと思った。

 星詠みの力だろうと、黒葉と出会えて恋人になれた。

 それだけでよかったのだ。


 彼女を好きになれるならば、どんなきっかけでも構わない。むしろ、星詠みに感謝しなきゃいけないのかもしれない。

 事故で黒葉を傷つけた力だと思うと複雑だったが………。



 あぁ、黒葉に会いたいな。

 日記の内容を思い出すとそんな風にあらためて思ってしまう。


 病院を抜け出す前に、彼女を一目見てから出掛けよう。そんな風に葵音は考えていた。





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